DIAMOND ハーバードビジネスレビュー誌

コンサルタントのコラム

デジタルマーケティング最大のハードルとは?

Diamond Harvard Business Review 2016JuneDIAMOND ハーバードビジネスレビュー誌(DHBR)の最新号(2016年6月号)の特集は、

「心を動かすデジタルマーケティング」

です。同誌には、このテーマに沿った興味深い記事が並んでいます。

今回は、特集のトップを飾るインタビュー記事、

『デジタルマーケティングで感情に寄り添う データは人の心を動かせるのか』(楽天 執行役員 北川拓也氏)

の中から一番の読みどころをご紹介したいと思います。

 

デジタルマーケティングの本質的な課題


さて、北川氏は、

「デジタルマーケティングの本質的な課題はどこにあるとお考えですか?」

との問いに対し、まず

「行動をつくりだすこと」

がマーケティングの一般的な課題だと答えています。続いて、「理解」には3段階あるという議論へと展開します。

北川氏の言う「3段階の理解」とは以下です。

1 分類・・・数学的理解

2 予測・・・物理学的理解

3 望む現象を生むこと・・・工学的理解

「分類」とは、北川氏によれば「数学的理解」と言い換えることができるとのこと。なぜなら、数学のあらゆる議論は「分類学」に行き着くからです。
また、「予測」とは、過去から未来を類推することであり、これは「物理学」が得意とするところ。したがって、「予測」は「物理学的理解」と言えます。
さらに「望む現象を生むこと」は、「工学的理解」です。単に予測をするだけでなく、作りたい未来を生み出すためには「工学的」な力を必要とするからです。

この点について北川氏は、

“たとえば電流の流れ方がわかったとしても、それを制御できなければコンピュータはできない。つまり、このくらいの抵抗を持つ鉄をつくりたいという希望を実現することが重要であり、鉄の抵抗とはこうであるといううことだけを理解できても、価値を生むことにつながらないからです。”

と説明します。

 

「予測」と「望む現象を生むこと」の間の大きなギャップ


北川氏は、「予測」と「望む現象を生むこと」はとても近しい関係があるけれど、そこには大きなギャップがあると見ています。

“エンジニアの仕事とは、物理で理解した性質を利用して望む現象をつくりだすことであり、それは物理学と工学が分かれている理由でもある。”

ということなのです。

マーケティングの世界では、分類とは「セグメンテーション」のことですね。また、近年は機械学習を活用した「予測」も流行しています。ただ、いわゆる「レコメンデーション」は、予測に留まっており、お客様に商品を実際に購入していただく、満足度を上げるという行動を起こさせるまでにはなかなか至らない、と北川氏は指摘します。

したがって、北川氏は

“「予測から望む現象を生む」、つまりお客様の行動変容をいかに生み出すのか”

ということが、デジタルマーケティングにおいて最も大きなハードルだと考えているのです。

 

*北川氏のインタビュー記事は、幸いオンラインでも公開されています。
北川氏の議論に興味を持たれた方は、ぜひオンライン記事、あるいはハーバードレビュー誌最新号をお読みください。

→ 『デジタルマーケティングで感情に寄り添う データは人の心を動かせるのか』(楽天 執行役員 北川拓也氏)

→ 本誌購入はこちらから

やはり勝負を分けるのは「クリエイティブ」


ここからは、北川氏の上記の議論を少しかみ砕いてみたいと思います。

「デジタルマーケティング」は、「データドリブンマーケティング」とも言い換えられます。すなわち、世界のデジタル化の進展によって、ふんだんに生み出されるようになった大量のデータを最大限に活用して施策を行うのがデジタルマーケティングですね。
そして、データドリブンマーケティングの出発点となるのは、リサーチャー・アナリストがデータに基づいて作成する「セグメンテーション」であり、さらには「予測モデル」です。顧客に関わる予測モデルの中で今一番注目を浴びているのが「レコメンデーション」への応用。例えば、過去の購買履歴などに基づき、購買確率が高いと思われる商品を推奨する、といったレコメンデーションの裏には予測モデルが存在しているわけです。

しかし、北川氏が指摘するように、「予測」ができるだけでは十分ではありません。すなわち、購買確率が高い「商品」を特定し、単純に顧客に提示するだけでは実際の購買行動に結び付けることは難しいのです。
その商品をどのように魅力的に見せるか、どんな言語表現(コピーワーク)で説明するか、どんなメディア・ツールを通じて、どんなタイミングで対象顧客に届けるか、このあたりの良し悪しによって顧客の反応や、満足度に大きな差異が生まれます。

上記について企画することは「マーケティングコミュニケーション施策開発」「コミュニケーションシナリオ設計」そのものであり、こうしたコミュニケーション施策・シナリオの作成を受け持つのがプランナーであり、また、具体的な表現に落とし込むのがコピーライターデザイナーといった職種になります。

デジタルマーケティングにおいても、従来のマーケティング同様、最も重要なのは、お客様をより高い確率で動かすことのできるクリエイティブ力であり、これは、工学的なスキルを持つ「マーケティング・エンジニア」とも呼べる、プランナー、コピーライター、デザイナーといった人々の能力にかかっています。
リサーチャー・プランナーがどれだけ高度な分析手法やAI(人工知能)を駆使して、優れたセグメント、予測モデルを作成したところで、実際に対象顧客とのコミュニケーションの「組み立て」がずさんであれば高い成果にはつながりません。
デジタル、デジタルと騒いだところで、結局のところは「クリエイティブ」が勝負を分ける。これは古くて新しい、永遠のマーケティング課題なのです。


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