コンサルタントのコラム

ライブチャットやAIの活用が進むデジタルマーケティング ~「人間化(ヒューマニゼーション)」の潮流を見逃すな~


■優れた「顧客体験」を提供するための「鍵」とは?
■優れた「顧客体験」を生み出すMOWの仕掛け
■「ヒューマニゼーション」に取り組んでいるケースから
■まとめ


マーケティング分野において、注目されている言葉の一つに「カスタマーエクスペリエンス」すなわち「顧客体験」があります。「顧客体験」という言葉には、自社製品・サービスについて様々な顧客接点(各種媒体や店頭、Webサイトなど)で顧客が見聞きしたり、あるいは実際に体験・購入したりすること以外にも購入後の製品・サービスの利用や消費、そして廃棄に至るまでのすべてのプロセスが含まれます。

従来マーケティングは、主に消費者のニーズ探索から始まる「製品開発」や、製品・サービスの認知から購買に至る「購買行動」に焦点が当たっていました。しかし競合製品との差別化が困難な今、顧客満足度を高めロイヤル客を増やしていくためには、自社の製品・サービスと顧客が関わるあらゆる接点・場面で、優れた「顧客体験」を提供することが必要となっています。

 

優れた「顧客体験」を提供するための「鍵」とは?

それでは、「Webサイト」をはじめとするオンラインの顧客接点において、優れた「顧客体験」を提供するための「鍵」は何でしょうか?

それは、ずばり「人間化(ヒューマニゼーション)」です。「人間化」とはセルフサービスではなく、文字通り生身の人間がオンラインを介して顧客対応を行うことを意味しています。

これまでWebサイト構築に当たってはさまざまなニーズに対応した大量の情報をあらかじめ格納し、ユーザビリティを高めることに重点が置かれてきました。なぜならそうすることで自らサイトにアクセスした消費者が勝手に必要な情報を探し出してもらえるからです。

ECサイトでは欲しい製品を自ら検索し比較検討しそのまま決済してもらえるセルフサービス型販売チャネル、言い換えれば「自販機」型の販売を目指していたと言えるでしょう。セルフサービス型ですから、接客や顧客対応の手間・コストが削減可能になります。コストを削減することで利益率が改善するというわけです。(現実には、価格競争のため値下げの原資とせざるを得ないケースが多いのですが)

様々な情報が溢れかえっている

おかげで消費者はいつでもどこからでも必要な情報をすぐに収集したり、商品を購入できるようになったりと大変便利になりました。

ところが様々な企業・組織・個人が次々とWebサイトやブログを立ち上げ、さらにSNSで情報発信を行うようになった結果インターネット上には膨大な情報が溢れかえっています。

この情報過多により消費者はどこでどんな情報を集めるべきか、どの情報が自分にとって役に立つのか、どの情報が信用できるのか、情報をどのように整理して比較検討すればよいのか、処理しきれない大量の情報を前にして立ち往生する状況を生んでしまっているわけです。

そもそも消費者は製品・サービスのプロではありません。身近な日用品であればまだしも、例えば自動車や住宅・保険のような購買頻度が少なく専門的知識を十分に持たない製品カテゴリーにおいては、消費者自ら的確に情報を収集し適切に処理を行い最適な購買意思決定を行うのは極めて困難です。どれだけ詳細でわかりやすい情報が目の前にあったとしても「さあご自身で情報を吟味してじっくりご検討ください」と言われたら途方に暮れる方が多いでしょう。

昨今、Web申し込みで完結するセルフ型保険商品の伸びに停滞感が見られますが、この理由のひとつには自分自身で様々な保険商品の情報を収集し、比較検討をするだけの意欲や時間があり、また十分な知識を持っている消費者の割合が想定以上に少なかったためなのかもしれません。

このように従来のセルフサービス型Webサイトの限界が見えてきた今、あえて手間暇かけて手厚い「接客サービス」を提供し顧客の情報収集や商品選定をきめ細かに支援するオンラインサービスが増加しつつあります。

かゆいところに手が届くような手厚いサービスを受けると、人は自分が大切にされていると感じて幸せな気持ちになるものです。これまでのWebサイトがセルフサービスを指向し情報量やユーザビリティの高さ、すなわち「利便性(コンビニエンス)」という「便益価値」を提供していたのに対し、手厚い接客サービス、言い換えると「優れたおもてなし」をオンラインで行うのは、幸せ(ハピネス)という「情緒的価値」を付加しようとするものだと言えるでしょう。

言うまでもなく、情報の豊富さ・わかりやすさ・読みやすさ・検索のしやすさといったWebのユーザビリティ=「利便性」を高める工夫はなんにせよ欠かせません。既に「利便性の提供」というレベルでの競争ではどこも横並びとなりつつある中、一段高いレベルの「幸せの提供」というレベルでの競争に突入しているのが現在のオンラインです。

 

優れた「顧客体験」を生み出すMOWの仕掛け

ここで、いったん「優れた顧客体験」とはどんなものなのかについて考えてみましょう。

優れた顧客体験とは、「MOW:Moment of Wow(Wowの瞬間)」により生み出されるものだと考えます。MOWとは、『思わず「Wow!」と叫びたくなるような出来事に遭遇した瞬間』です。本人の心は大きく揺り動かされ、次のような感情が湧き出し、幸せな気持ちに浸れるのです。
・楽しい
・おもしろい
・わくわく
・すごい
・感動した
・深イイ
・賢くなった感
・ゾクゾク
・ほっこり
・しっくり

顧客に対してこうしたポジティブな感情を生み出す接客や対応ができたとき、それは「優れた顧客体験」だと言え、結果として顧客満足を高めることができるでしょう。したがってオンラインにおいても「MOW」をどれだけ仕込めるか、作れるかがポイントになってきます。

この「MOW」を生み出すために最も効果的なのが「ヒューマニゼーション」です。生身の人間が顧客と一対一で向き合うヒューマニゼーションの基本は、まさに「個別対応」であること。すなわちお客様を個として認識したうえで、お客様のニーズを柔軟に受け止め個別の提案や親身なサービスを提供することが有効です。もちろん生身の人間が対応するからこその高度な対応力、スキルが求められますが。

とはいえ、実際にすべて生身の人間が対応していたら人件費負担が重くなりすぎます。そこでAI(人工知能)の出番です。日々進化するAIを組み込むことによりロボットチャットの接客力は生身の人間に近い水準に近づいていますし、対応が複雑になったらそこからは人間のスタッフが引き継ぐなどAI&人間のハイブリッド型のオンライン接客はすでに浸透しつつあります。

また消費者のニーズに応じた適切なコンテンツの出しわけや提案もダイナミックなCMSやMAを採用し、精査したシナリオを組み込むことであたかも生身の人間が対応しているかのようなサービスをある程度実現できるようになっています。

 

「ヒューマニゼーション」に取り組んでいるケースから

ではここで、「ヒューマニゼーション」に取り組んでいる事例を2つほど示しましょう。

【CASE-1】 ietty(イエッティ) 
( ietty サイトはこちら⇒

「オンライン接客型の不動産屋さん」を掲げるiettyは、Webサイトやスマホアプリで賃貸物件を探すお手伝いを生身のスタッフが行っています。

従来からあるセルフサービス型のオンラインサービスで賃貸物件を探すのはとても大変です。立地や間取り、築年数などによって賃貸料も様々、入居条件も様々で、どれが自分の希望に合うか精査するのは時間のかかる作業だからです。

出所:オンライン接客型の不動産屋さん Ietty

iettyでは、ライブチャットによって気楽に質問をしながら、希望に合う物件を探し出すことが可能です。受付時間は午前10時から夜11時までと長いため、忙しいビジネスパーソンも家に帰ってくつろぎながら、物件探しを手伝ってもらうことができます。チャットの裏側で待機しているスタッフは常時6~8人いるそうです。毎日数百件にもおよぶチャットでの問い合わせに丁寧に対応してくれます。

オンラインの賃貸物件検索サービスはすでに乱立気味。どこも、物件の探しやすさを高めるための情報の見せ方の工夫や、検索機能の向上に力を入れてきており、使い勝手にそれほどの差異は感じられないのが現実です。

iettyはあえて生身の人間による接客を前面に打ち出すことにより独自のポジションを確立、賃貸物件探しに時間や手間をかける余裕のない消費者の心をつかんでいます。

現在は、AIによるチャットボット対応も採用することで人件費を抑える工夫も始めており、前述したようなAI&ヒューマンのハイブリッド型接客サービスへと進化しつつあります。

【CASE-2】JOBKUL 
( JOBKUL サイトはこちら⇒

JOBKULはオンラインの転職支援サービスです。iettyと同様、転職希望者はコンサルタントとのチャットを通じてキャリアの相談に乗ってもらったり、転職先となる求人案件の紹介を受けたりすることができます。

出所:転職相談 ジョブクル

面白いのはスマホアプリをダウンロードして基本プロフィールを入力後、チャットでコンサルタントからの質問に答えていると最後には「職務経歴書」が完成してしまうところです。

いわゆる「転職サイト」に登録して求人案件の紹介を受けるには、履歴書に加えて過去の勤務先や仕事内容を詳しく記載した「職務経歴書」を作成しなければなりませんがこれが結構面倒なのです。しかしJOBKULならコンサルタントとチャットで気楽なやり取りをしている過程で過去の仕事内容が文字化されていき、「職務経歴書」として仕上がってしまうというわけです。

生身のコンサルタントがオンラインで対応する仕組みはJOBKUL側にもメリットがあります。転職相談をリアルな面談で行うと一人あたり通常2時間程度は必要になります。コンサルタントが1日に対応できる人数はせいぜい3~5人程度が限界です。ところがオンラインチャットは非同期のコミュニケーションですから、一人のコンサルタントが一日で対応できる転職希望者はリアルでの面談より多くなるわけです。その数はなんと150人にものぼるとのこと。

JOBKULの場合は、リアルな面談をオンラインチャットに切り替えることによって大きなコストダウンも同時に可能にしています。その結果求職者を紹介、採用を決めた企業に請求するコミッションは一律70万円と完全成果報酬に加え低価格をも実現しています。

 

まとめ

以上、セルフサービス型のWebサイトやアプリが多い分野で生身の人間が接客を担う「ヒューマニゼーション」に取り組んでいるオンラインサービスの事例を2つご紹介しました。

前述したように、今後のオンラインでの接客・顧客対応は生身の人間だけではなく、AIやダイナミックCMSやMAと組み合わせたハイブリッド型になっていくことは間違いないと思われます。

人間心理の機微に触れる試み=「ハイタッチ」を取り戻す

重要なのは、顧客一人ひとりを「個」として認知し、個々人のニーズや価値観などに合致した適切な情報や納得感のあるアドバイスを人間味あふれる形で提示すること、そして顧客の心が大きく動く仕掛けや仕組みを組み込み、MOW(Moment of WOW)を生み出すことです。

テクノロジーの進展により、あらゆることが以前よりも便利になりましたが、その分人間味が失われ味気ない思いをすることが最近ふえてきました。ヒューマニゼーションが目指すのは、人間心理の機微に触れる試み=「ハイタッチ」を取り戻すことです。

皮肉なことに、いま「ハイタッチ」を取り戻すためにはAIのような最新のテクノロジーの採用が不可欠となっています。「ハイテク」を適切に活用して「ハイタッチ」なマーケティングを目指す。これからのオンライン戦略・デジタルマーケティング成功の鍵はここにあります。


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松尾順

執筆者:松尾順

株式会社ジェネシスコミュニケーション
マーケティングインテリジェンス部
執行役員/マーケティングコンサルタント


 

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