ジェネシスの仕事の進め方を大解剖! どうやって「ブランド」を作るのか【vol.02】経験的ブランドとは
前回から「マーケの強化書」編集長と社員との対談シリーズをスタート。対談を通じて「マーケの強化書」を運営するジェネシスコミュニケーション(以下ジェネシス)の業務内容について、わかりやすく説明します。今回は、ジェネシスがクライアントの「ブランド作り」を手がけた過程について、「経験的ブランド」にフォーカスし、議論を進めます。
- 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長 - 佐藤 直美株式会社ジェネシスコミュニケーション ディレクター
「マーケの強化書」編集スタッフ
どうすると「経験的ブランド」を整理できるのか?
前回の説明で、ブランドには「認知的ブランド」と「経験的ブランド」という2つの側面があることに触れました。今回はそれらを念頭に置いて、実際に手がけた施設型ビジネスのブランド作りについて話を進めます。
前回の話を受けるとなると、スタートはそのクライアント(施設型ビジネス事業者)にとって「認知的ブランド」と「経験的ブランド」のどちらが向いているか、を判断したということになるのでしょうか?<
その通りです。このプロジェクトのクライアントさんは、いわゆる消費財メーカーさんではなく、サービスの検討の際に認知と併せて中身が問われやすいと判断しました。利用者の体験に紐づく「経験的ブランド」を突き詰める方が向いている、と考えたわけです。
では、どう「経験的ブランド」について整理すべきか? 古くからある認知的ブランドと異なり、経験的ブランドは何かしらの対処方法が教科書に書いている分野ではありません。自前でやろうとしても、何をすべきかが想像できず、多くのクライアントがスタート時点から迷うわけです。
そうですね……、何をどう組み立てていったのか、わからないですね。
考えやすくするために、ジェネシスでは以下のような資料をクライアントと共有しました。
経験的ブランドは、真ん中にある「コアバリュー」を軸にすると考えやすくなります。
5つの要素で「コアバリュー」を考える
このプロジェクトでは、経験的ブランドのためにコアバリューを導き出す工程を経ました。つまり、対象となる「ブランドが何か」「ブランドの核心的価値が何か」に迫る作業を行ったというわけです。
5つの要素とは、「属性」「機能的価値」「情緒的価値」「理想顧客像」「パーソナリティ」ということですね。
施設型ビジネスを例に、各要素について説明します。まず「属性」は、ビジネスの主体である施設事業者がどんなサービスを提供しているかということと考えます。
ここはわかりやすいですね。
「機能的価値」は、対象となるサービスの機能面、実用面を洗い出します。顧客が利用することで、(そのサービスの機能を通じて)得られるメリットを整理しましょう。例えば、施設の特徴が何かであるとか、どんなカリキュラムが用意されているか、などです。
一方「情緒的価値」は、サービスを利用することで、利用側の感情に訴えかけてくる要素を整理します。例えば、サービスを通じて、やる気が出てくる、とか習慣的に取り入れたくなる、みたいな感情や気持ちの動きを洗い出していくわけです。
実際の機能と、機能を通じて湧き出てくる感情の側面を分けて整理するイメージでしょうか。
その通りです。特に今回のプロジェクトでは施設のオーナー、店長さんによって少し提供するサービスのこだわりの部分が異なる=均質化できていないという課題があったので、いろいろな店舗で同じ話を繰り返し聞いていきました。
「理想顧客像」は、対象商品やサービスを「このように使ってほしい」という理想通りに利用してくれるお客様を言語化します。注意してほしいのが、ターゲットとは違う点です。理想は20〜30歳代で、Aという趣向の持ち主と考えていても、実際の利用者の多く(ターゲット)は40歳代でBの趣向を伴う人向け、ということがあるからです。
確かにターゲットと混同しそうですので、気をつけたいです。
最後に「パーソナリティ」は、以上の4要素を踏まえた特徴を「人」だと捉えて、人格や性格としてまとめていきます。
ビジネスの規模拡大には、地道なブランド作りありき
これらを実際に作るとなると、結構地味な作業(具体的に言うとヒアリングになるのですが)を積み重ねることになります。机上で考えてもできません。クライアントさんに協力いただいて結構な時間をかけてヒアリングを行いました。クライアントの本部はもちろん、実際にサービスを提供する各施設の複数のスタッフさんたちにも時間を取ってもらうわけです。
「あなたが考える商品やサービスの価値は何ですか?」
「商品やサービスを通じて、心に残るエピソードがあれば教えてください」
「商品やサービス利用者に、どのように喜んでもらったことがありましたか」
などを、あらゆる角度から可能な限り、たくさん聞き出していきます。
こうした作業をしていく末に、ようやくコアバリューが見えてくる……?のでしょうか。
はい。付け加えると、こうした大変な作業がブランド作りにいつでもどのタイミングでも必要だとは考えていません。
今回のプロジェクトでいうと、ちょうど今の事業規模をもう少し大きくしたい、ゆくゆくは全国展開していきたい、といったクライアントさんの思いがありました。各施設でサービスの質が均質化できていないかもしれないといった課題もお聞きしていましたので、こうした一見遠回りに見えるかもしれませんが、多くのプレーヤーを巻き込んでヒアリングを重ねてという進め方をしました。ある程度規模を拡大したいという狙いがあるなら、やっておいても良いのでは?と考えます。
それはなぜでしょうか?
クライアントが「相談したい状況にある」ということは、現状は「ブランドがうまく作れていないから」と推測できます。先ほども言った通り、現状は店舗間で格差が出ている可能性、均一のサービスが提供できていない可能性がありました。ブランド作りを通じて、きちんと自分たちのブランドを言語化できれば全社的な共通理解の基盤となり、どの店舗でも均質的なサービス提供につながります。
アウトプットのために必須の「コアバリュー」作り
コアバリューはブランド作りの出発点です。コアバリューを起点にして、さらにブラッシュアップを進めた最終段階でクリエイティブ、見える形へとアウトプットする必要があります。
ブランド作りについて、ジェネシスが考えている進め方をまとめたのが以下の図です。
相談する側の意識は、相談するとすぐに「ロゴやデザイン」といった成果物の案が出てくると思っているかもしれませんが、実際は、ロゴやデザインが出てくるまでの手前にあたる作業がぎっしりあるわけですね。
デザインやロゴは、なんとなく見映えがいい、という基準で作るべきではないのです。私たちが知る限り、コアバリューからきちんと作り込む過程を取ったほうが、労力を伴う作業だからこそ、言語化できた暁には、ブランドとしての強みも大きくなるのではと考えます。
次回は・・・
前回と今回を通じて、ざっとですがブランド作りを通じて成果物ができるまでを見てきました。次回は、出発的であるコアバリューの作り方について、もっと詳しく解説します。コアバリューを支える5つの要素について、それぞれの具体的な考え方を紹介し、みなさんの現場でも活用できるあり方を示します。