ジェネシスの仕事の進め方を大解剖!自社の強みをどう見せるべきか?【vol.01】
「マーケの強化書」編集長と編集部員が対談しながら、「マーケの強化書」を運営するジェネシスコミュニケーション(以下ジェネシス)の仕事の進め方を明らかにする連載。今回から第3弾がスタートします。
今回は、クライアントからの「自社の強みをうまく見せたい」という要望に対して、どのように最適なソリューションを提供していったのか?プロジェクトの完了までのプロセスを3回に分けて説明します。
- 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長 - 佐藤 直美株式会社ジェネシスコミュニケーション ディレクター
「マーケの強化書」編集スタッフ
クライアントにとっての最適解を提供する
今回は、ハンドアウト(紙媒体)で「クライアントの良さを示したい。競合に勝ちたい。」という案件を受けた時の話をします。
紙媒体なのですね。Web系のデジタルでなく紙にもジェネシスは対応するというお話でしょうか?
結果として、今回のプロジェクトでは、クライアントが望むハンドアウトでの納品となりましたが、そこが肝なのではなく、「クライアントにとっての最適解は何か?」を考える回だと思ってください。ジェネシスに相談があった時点から、いかに「クライアントが現状抱える課題を見つけ出して、最善の形でソリューションを提供できるか」についての動き方やプロセスを参考にしてほしいです。
解決策が要望通りのハンドアウトになるとは限らない、ということでしょうか?
課題を紐解く中で、そういうケースも出てくると考えます。相談を受ける立場として、クライアント自身が気づいてない課題が抽出できれば、「相談を返す」=「提案をする段階」で、そうした問題提起を行い、軌道修正するかも含め、どうするかをクライアントが改めて検討できる形にしたいのです。
必ず課題の背景を探る
まずは、ジェネシスが行った「クライアントが抱える課題の読み解き方」を説明します。
相談時点では「印刷物の内容が古くなったのでリニューアルをしたい。できれば自社の強みを良く見せたい。」という要望でした。ジェネシスの場合、初回の打ち合わせ時点で、クライアントのことをかなり調べます。この過程でハンドアウトの役割が見えてきました。
1 .多数の来場者が集う説明会向けに必ず用意すべきツールである |
2. 競合他社も含め、来場者に配布されるツールである |
3 .来場者が自分に適した会社を見つけるための判断材料となるツールである |
情報を更新して綺麗に整形できたらOK、という単純な問題ではなさそうだったということですか?
事前にハンドアウトの役割についてヒアリングの機会をもらうと、複数の競合他社よりも自社が魅力的で、連絡・相談したくなる相手だと来場者に思わせる役割があったのです。役割を果たすためには、根本からハンドアウトの構成や位置づけを再考すべきだと考えました。
最初にSTPを整理する
ハンドアウトの構成を考えていくと、競合に対してどこで戦い、どこで勝つのかといった点であやふやになっていることがわかりました。そこで、ハンドアウトの企画に先立って、最初におこなったのが「STP」の整理です。「STP」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?STPとは、サービスや商品、商材の立ち位置をセグメント/ターゲット/ポジショニングで説明できるようにすることです。これらの整理することなく、クリエイティブ開発に入ってしまうのは危険ではないかということで、整理することにしました。
「STP」という言葉を知らない方もいらっしゃるかもしれませんので、STPについて少しだけ説明したいと思います。まず「STP」の「S」にあたるセグメンテーション(市場細分化)についてです。
一言で言えば、提供するサービスや商材を受け入れてくれるであろう方に向けて再分化することです。最近ではあまり見かけませんが、年齢や性別を問わずオールラウンドに向いている商品があったとします。その商品を男性向けに工夫してみるとか、年齢で区切って若者向けやシニア向け商品として打ち出すとか、もしくは収入で区切ってエグゼクティブ層向け、職業・職域で区切って経理向け、技術者向けといったように、区分をすることをセグメンテーションと呼びます。モノやコトが溢れている現代では単純に区切っただけで売れることは稀ではありますが。
次の「T」にあたるターゲティング(標的市場の選定)では、「S」で整理したセグメントから標的となる市場を選ぶ段階になります。例えば、職業や職域で分けると決めたのであれば、経理職に関わる人向け、技術者向け、などと定め、徹底的にサービスを磨いていく段階です。その人たちに届くようにですね。
最後の「P」にあたるポジショニング(競争優位性)とは、T(標的となる市場)に存在する競合他社との違いが何かを明示することです。例えば、技術者向けの中で他社の扱いが弱い特定分野・技術について秀でたサービスや商品を提供しているなら、その立ち位置をしっかりと打ち出すことで優位性を見出す段階になります。
なるほど、クライアントさんにも同じように説明をされたのでしょうか。
はい。このプロジェクトでは、なぜこのような一見回りくどいやり方をするのかをクライアントさんに理解してもらうことがとても大事でしたので、丁寧にご説明しました。ちょっとしたマーケティング論の授業みたいな感じでしたね。
実際にクライアントさんに説明した時に使った事例を挙げると、「朝専用」を打ち出したアサヒ飲料の「WONDA モーニングショット」ですね。新登場となった2002年当時、缶コーヒーは、仕事・労働を終えた後に飲むものというイメージがありましたので、その状況に対して各メーカーが打ち出していなかった「朝専用」を強く訴求することでポジショニングを確保。今に続くロングセラー商品となっています。
このように、TVCMなどでよく目にする事例を使ってイメージを持ってもらいました。
段階別で検討する手順を提示する
先ほども伝えましたが、ただSTPで整理しただけの商品やサービスは、今の時代、なかなか見つけることはありません。STPで分けただけでは、競合他社との優劣がつきにくいからです。STPでは競合他社と優劣がつきにくいとなると、他の方法を選ぶ必要があります。今回のプロジェクトでは、STPの整理を含めて5つの検討手順を用意しました。
STPでは整理できないとなると、次に考えるべき工程が、USP(ユニーク・セリング・プロポジション)と呼ばれる「独自の売り」です。自社ならではの強みを明らかにして、その強みを訴求します。
さらに次の段階が「ポジショニング」を変えるフェーズです。「STP」の時もポジショニングという言葉が出てきました。「STP」の際の「ポジショニング」は、企業側目線で、市場におけるポジショニングという意味合いに近かったのに対し、ここでいう「ポジショニング」は顧客・ユーザー目線でのポジショニングになります。ユーザー目線に立った際に優劣をジャッジする基準や軸に焦点を当て、企業目線では見えてこなかった基準で自社サービスが訴求できないかを検討するという段階です。
つまり、「戦う土俵を変える」ということでしょうか?
その通りです。これまで価値としていた基準をずらしてしまうことで、戦えないかと考えるのがこの段階になります。もっと工数のかかる段階、となると「カスタマーインサイト」です。顧客・ユーザーの深層心理について調査をかけて、より根本的にサービスや商品の捉え方を問い直す工程を経る必要があります。
最終的には、新たにブランドイメージやエピソードを作るというフェーズにまで行き着きます。
検討すべき段階が進むほど、当然工数が増えて、予算や時間も必要になります。ちなみに今回のプロジェクトでは、3段回目の「ポジショニング」=「軸を変える段階」まで行ければ、競合と戦えそうだとなりましたので、「ポジショニング」を変えることを強く意識して施策に反映していきました。
次回は・・・
自社の強みを明示する上で、USP(独自の売り)や、自社目線ではなくユーザー目線で考えた際の特徴や強みを整理するプロセスについて解説します。自社とユーザーとの間に存在するギャップを理解して、ターゲットとする市場での勝機へのつなげ方を考えます。Vol.2はこちらから