DX推進の一歩目にふさわしい業務【マーケティング編】「デジタル・トランスフォーメーション入門」
自社で実際にDXを推進するにあたって、各部門・業務にフォーカスをあてていきましょう。今回はマーケティング部門について取り上げます。マーケティング業務におけるDX推進によって、Small Start, Fail First(スモールスタート、フェイルファースト)がどう機能し、業務効率化や定型業務の自動化などへとつながるのか。仕組みとともに、運用できる体制作りも鍵となります。
マーケティングにおけるDX推進で大切なことは?
以前までの回で述べてきたとおり、DXとはデジタル化を通じて「顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革する」ことです。DX推進の前提には、自社の(潜在)顧客や社会のニーズ、さらにはユーザーがどのような意思決定プロセスを経て購入に至るか(=カスタマージャーニー)を理解する必要があります。それらに親和性の高い部門が、デジタル化およびデータ活用に最も速く、大きく影響を受けてきたマーケティング部門と言えるでしょう。
マーケティングにおけるDXは、大きく分けて2つを押さえるべきだと筆者は考えます。1つはデジタル化に対応しデータを活用することで、従来から行われていたマーケティング業務の効率化や自動化を図ることです。これらはDXの最初の一歩として大きな意味を持つ動きです。
もう1つが、マーケティング部門が顧客のニーズやカスタマージャーニーに精通している(はずの)バックグラウンドを活かして、自社のサービスや製品の戦略・あり方にDXを持ち込み、そうした取り組みを通じて社内のDX推進化の旗振り役を担うことです。
効果の最大化の背景に、顧客データの一元管理
まず1つ目の、既存業務の効率化について考えましょう。主眼は、データ活用によってカスタマージャーニー最適化のためのより詳細なインサイトを手に入れることで、自社のマーケティングチャネル施策の改善に結びつけることです。
改めて背景を押さえておきます。インターネット広告に代表されるデジタルマーケティングの普及によって、従来までは効果の確認が難しかったマーケティング費用のROI(Return of Investment:投資対効果)が可視化され、さらに結果の分析も可能になりました。例えば、電車の中吊り広告をオンライン広告へと変えることで、ユーザーの自社広告への接触頻度や、接触後の行動履歴のデータを取得可能になります。ソーシャルメディアの動画で言えば、各ユーザーの視聴時間、離脱状況、接触頻度の高いSNSなどについて、より詳細なデータをマーケターが入手、活用可能となります。
マーケティングを通じてのDX推進の一歩とは、一連のデータ分析を通じてどのような広告がより最適なのかを導き出しやすくすることです。
だからこそ求められるのが、データを活用できる仕組みや体制作りです。ここでもし、メール配信担当、ソーシャルメディア担当、Webサイト担当など、マーケティングチャネルごとにチームをサイロ化していると、より大きなデータ活用が難しくなります。
データ活用の最大化を求めるなら、顧客データを一元管理できるプラットフォームを作るべきでしょう。その上で、マーケティングチームの誰もが包括的な顧客像(どのような顧客がターゲットなのか、実際の顧客がどのように購入まで至ったのか、といった情報)を理解し、それらに基づく適切な施策作りができるかどうか、という次のフェーズが見えてきます。
仕組みを活かせる体制作りも大事
次に2つ目の、マーケティングチームが自社サービスや製品戦略にDXを持ち込むことについて考えましょう。
包括的な顧客像を利用できるプラットフォームを作っておけると、自社側の誰もが、顧客が何を必要として、どのような痛み(不便)を感じているのかを調べ、理解する機会が持てます。マーケティングチームが取得する顧客に関するデータは、実際の顧客へのインタビューやトライアル(試用)、e-mailやWebサイトからのインタラクションによって集められたものです。こうした(潜在的な)顧客の声を集積し、分析したデータがあることで、従来では捉えられなかったユーザーのニーズに気づき、革新的なプロダクトを生む可能性をもたらすわけです。顧客データの一元管理と、それを活かせる体制作りは、DX推進の両輪としてどちらも追求すべきこととなります。
事例から学ぶ、DX推進の礎への道のり
最後に、マーケティングチームが自社にもたらすDXについて、成果を生み出したわかりやすい海外事例をご紹介します。
2007年頃の話になりますが、当時、売上や利益が落ち込んでいたスターバックスが数多くのコーヒー愛飲者に、「コーヒーショップに何を求めているか」というインタビュー調査を行いました。調査を通じてわかったことは、多くの人たちが求めていたのはコーヒーではなく「リラックスできること」や「いい雰囲気」、「そこがお気に入りと思える場所であること」でした。
これらの結果を基に、実際の店舗を実験用に改装し、丸いテーブルを配置したり、木や石を多用したサービスカウンターを作り、親しみやすい雰囲気を作り上げていきました。こうした取り組みが、最終的にはコーヒーの価格を値上げしても顧客に受け入れられるようになり、売上が伸びる成果へとつながっていきました。
このように分析と活用の両方ができると、マーケティング部門を通じて成果をもたらしながら社内のDX推進の試金石、プラットフォームの礎として受け入れられていくのです。
次回は・・・
実際に自社でDXを推進する業務の1つとして、マーケティング以外の分野にもフォーカスしながら、具体的にどのようなところから始めるべきかを説明します。
野澤 智朝(のざわ ともお)
現役マーケター。「ニテンイチリュウ」運営者。デジタルクリエイティブ、デジタルマーケティングに関するメディアで連載を担当してきたほか、各種記事の寄稿多数。