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「行動デザイン」を学ぶ 第33回:行動をどのようなサイクルに刻むべきか(「デイリー(日次)」編)

前回は、サブスク型(有料定期会員型)取引に持ち込むことが顧客のLTV獲得に有効であることを解説した。今回からは、人間の習慣づけた行動について着目し、アナログで物理的なプロセスを必要としながら商品やサービスの顧客維持(カスタマー・リテンション)にどう結びつけていくかについて、考察していこう。

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目次

慣れ親しんだ生活サイクルを疑う

前回取り上げたサブスクリプションサービスは、年払いプランもあるが、一般に月次課金が多い。これは顧客側に常に途中解約リスクがあること、年間金額が大きくても月割りで小分けされると相対的に少額に見えること、クレジットカードの引き落としが月給(日本では給与は月払いが多い。米国では隔週や週払いが一般的)に紐づけられて月次になっていることなどが関係していると思われる。

今回と次回を通じて、「月次」「週次」「日次」といった、我々の日常の生活サイクルについて一度確認しておこう。生活の中に当たり前のように溶け込んでいるので、こうした生活サイクルを日常的に意識することは少ないが、行動習慣という点では非常に重要なトリガー(きっかけ)になっている。今回は特に「日次」(デイリー)のサイクルに着目したい。

人類は、太古から太陽と月という2つの天体を観察し、身体感覚のレベルでそのサイクルを感じながら暮らしてきた。その意味で最も身体感覚に根ざしたサイクルは1日(デイリー)だろう。日の出とともに目覚め、夜がふけると寝静まる生活サイクルは、これだけ24時間化とデジタル化が進んだ世界でも、どこの地域に行っても、変わることがない。

最近は働き方改革や雇用確保の困難から多くのチェーン店が23時過ぎには店を閉めるようになったので(新宿歌舞伎町など一部例外はあるが)、都会でも深夜は人通りがほとんどなくなっている。これは深夜ビジネスの機会が街中から家ナカにシフトしていることを意味している。例えば、真夜中(24時ちょうど)をリミットにしたECのタイムセールなどは効果がありそうだ。

「〜時間」より「日」単位がしっくりくる理由

1日のサイクルは、太陽の運行から朝(日の出)、昼(南中)、夜(日没)、という3つの時間帯として身体的に識別することができる。しかし、これをさらに1時間(60分)に分割するのは人工的・概念的サイクルなので、我々の身体的感覚では「時間」という単位は認識できない。時計的な道具が必需品なのはそのためだ。

「3時のタイムセール」「3時のあなた」「3時のおやつは●●●●●」など、過去には「時間」をトリガーにしたマーケティングが行われていた。地上波ドラマの「月9」(毎週月曜午後9時に始まるドラマ)などもその一例だが、最近は人々の生活リズムが同期しなくなっているので、「時間」(定時時刻)をトリガーにするのは少し難しくなっているかもしれない。

さらにその根底を探っていけば、そもそも「時刻」という生体リズムが人間の中に存在していないことが言えるだろう。したがって「1日(の始まり、あるいは終わり)」で区切った方が、多くの顧客を巻き込むことができるとは言えないだろうか。

「●曜日は、●時にこのテレビ番組があるから」といった行動を、久しく「していない」という人が多いのかも?

タイニー・ハビット(小さな習慣)の具体例

例えば、ソーシャルゲームの多くは1日1回限定で無料のログインボーナス(ログボ)を提供している。これは早朝4時ごろに更新されることが多い(朝9時、昼12時など例外もある)。つまり、普通の人が朝目覚めて最初に行う行動である「スマホを触る」という行動の中に、そのゲームサイトへのログイン行動を組み込んでいる。

筆者が教えている大学の学生の多くも、1日が無料ガチャ(ログインボーナスを使用してガチャを回す)から始まる、と報告している。ゲーム内課金に持ち込むにはまずログインしてもらわなくては始まらないので、無料の報酬をぶら下げて毎日のログインを習慣化させるのは、「習慣の小分け化」(タイニー・ハビット※)の定石といえよう。

※タイニー・ハビット…スタンフォード大学の行動科学者BJ・フォッグ著『Tiny Habits: The Small Changes That Change Everything』で説かれている行動に関する考え方。タイニー・ハビットの詳細は、第35回で解説予定。

若者の中には、一種の「その日の運試し」のルーティンとして無料ガチャを回す人もいる。無料ガチャだけ楽しんでログアウトすれば健全だが、そこそこの当たりが出てしまうと離脱は難しい。そこが狙いなのだ。

1日のサイクルというトリガーは習慣化のツボ?!

また、ライブ配信アプリでも、デイリーポイントを提供しているところがある。例えば、ツイキャスでは毎日100ポイントが無料で付与され、それを「お茶」「お団子」などの応援(投げ銭)アイテムとして推し配信者に投げることができる。この無料ポイントはすべて使い切っても、翌日にはまた100ポイントまで回復するので、利用者はその日のうちにポイントを投げきり、また翌日のライブ配信を待つという行動が習慣化していく。

このように、日次のトリガーは習慣化のツボである。リアル消費でも、例えば飲料の自販機で当たりが出るタイプがあるが、若者の中には「毎朝、大学に着いたらいつもの同じ自販機で同じ飲料を買い、そこで当たりが出るかどうかで、その日の運試しをするのがルーティンになっている」という人もいる。

1日の始まりのルーティンは、単なる生体リズムにとどまらず、スピリチュアルな意味を持った「儀式」として、太古の昔から我々の生活の重要な節目になっている。この朝の「儀式」習慣をうまく利用したマーケティングの成功例として、「朝マック」や「ワンダ・モーニングショット(朝専用缶コーヒー)」が挙げられるだろう。

1日のスタートに、毎朝のメニュー、毎朝この缶コーヒーを、と習慣化していませんか?
次回は・・・

行動を習慣化させるための慣れ親しんだサイクルに着目し、今回の日次(デイリー)に続いて、次回は週次(ウィークリー)や月次(マンスリー)についても考察する。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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