仮説の質を高めよう。 実務で求められる「仮説力」について
ビジネスを進める上で「仮説」は重要です。実際の動きや数字、結果に基づく解釈から仮説を立てることで、成果をもたらす(かもしれない)施策を導き出せるからです。では、どのように仮説を立てると効果的でしょうか? 人によっても、施策の規模や種類によっても、さまざまな解釈が考えられる「仮説」について、「マーケの強化書」編集部が考えます。
- 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長 - 担当T株式会社ジェネシスコミュニケーション
「仮説」と聞いて、何を思い浮かべる?
田代
2024年に入ってから、編集会議でよく話題にしているのが「仮説の立て方」についてです。仮説については、1度この場で僕たちなりに整理してみたいと思っていました。
T
会議では「仮説に対する正解って、何?」みたいな話をしてきました。
田代
仮説について取り上げたコンテンツは、書籍でもWeb上にもよく見かけますね。それらの多くには、参考になる内容が書かれています。一方で、本当にどれほど書かれたことを実行できるかがカギなんじゃないかと思う。「実務でどうしているか」をもっと深く考えてみませんか?
T
僕は仮説を意識して仕事をしてきたことがあったかどうか(苦笑)。そもそも、人によって「仮説」の捉え方が違うじゃないですか。
田代
うん、そうだね。例を挙げながら考えてみましょう。
例1 さまざまな広告施策全体を通じた、大きな枠組みを前提に基づく仮説
と
例2 資料請求数や問い合わせ数を増やすために、広告形態ごと(リスティング広告、YouTube広告…etc.)で考える仮説
これら2つを比べると、どうだろう?
T
前提条件が違うと、仮説を考える上での構成の立て方や、何というか粒度が違ってきそうです。どちらも、言葉は同じ「仮説」ですが…。
田代
厳密に考えると話が進みづらいので、今回は、「こういうことも仮説と言える」という例を挙げながら、仮説を巡る考察を深めていくことにしよう。
どういう仮説だと、納得する?
田代
まず「仮説」という言葉の定義についてググってみると、グロービス経営大学院のMBA用語集にはこう書かれています。
仮説とは、物事を考える際に「最も確からしいと考えられる仮の答え」のこと。
グロービス経営大学院「MBA用語集」より「仮説」の項目
ただし、ビジネスではより広く、「ある論点に対する仮の答え」もしくは「わかっていないことに関する仮の答え」という意味合いで使う場合が多い。具体例で言えば、「この事業は儲かるはずだ」あるいは「この事業では大手顧客ほど収益性が低いようだ」、「この問題の原因はここにあるに違いない」といったものだ。科学的な厳密な意味の仮説とは異なり、普遍的なメカニズムではなく、「おそらくこうなるだろう」「多分、こんなことが起きているに違いない」といった、限定的な対象や範囲にのみ当てはまる仮の答えといえる。科学的仮説と位置づけは異なるが、「検証」というプロセスを必要とするという点では共通している。
田代
一言で言うと、「確からしい仮の答え」だと。
言い換えると、何がしかの事象や課題に対して「●●すると、答えが出るはず/改善されるはず」というアイデアのこと、だと思います。もっと違う表現がしっくり来る人はいると思うので、「マーケの強化書」の考え方くらいで聞いてほしいのですが。
T
なるほど。
田代
例えば、自社サイト経由で「資料請求の数が増えていない」という事象が起きていたとします。当然、数を増やしたいよね。じゃあ、どうやったら増やせるのか?
T
この場合だと、増やすという成果を引き出すために、取るべき手段や方法の元になる考えおよびアイデアが「仮説」にあたる?
田代
そうなるよね。この例では、自社サイト内に資料請求を促すためのページがあって、ページ内に資料請求のためのボタンが置かれてあったとしましょう。この状態で「数が増えていない」場合、どうすべきか?
もっとボタンを大きくしましょう
ボタンの位置を変えましょう
ボタンの数を増やしましょう
もっとコンテンツを増やしましょう
etc.
こういう提案なら、割と簡単に考えつくと思うけれど、どう?
T
うーん、正直に言うと微妙(苦笑)。結果として、そうした判断に落ち着く可能性は否定しませんが。
田代
その通りかな(笑)。上の提案例は、どれも見た目しか考えていなかったり、その場しのぎのような返答ばかりだったり。まあ、「ボタンを大きく」というのもそもそも小さければ、「押しにくいのでは?」という仮説の1つとは言える。でも、もっと根本的に考えた末の何かを聞きたいと思うと、「もっと考えてよ!」となる。
もし、このWebページを読むユーザーがどういう人たちかを分析して、その人たちにどのようなアプローチをすると資料請求してくれるのか、みたいな話が聞けたら?
T
「ちょっとは考えてくれているな」となります。思ったのが、キャリアが浅い人は田代さんが今言ったような可能性が、頭に浮かんでこないと思うんです。だから、パッと返答を求められた時に表面的な変化や小手先の対処くらいしか言えない…。
困った時、適切な「仮説」を立てられる?
田代
たしかにね。そもそも仮説だから、(仮説を通じた)狙いが当たることがあれば、外れる可能性もあります。外れること自体はおかしいことではない、と考えて仮説を立てられるかどうか。
T
問われるのは、納得できる仮説を立てられたか、ですかね? 外れていいので、次につながる内容だったか。
田代
仮説への見通しが甘いと、先々の対応を難しくするとは思うんだよ。「ボタンを大きくしました」、結果は「特に何も変わりませんでした」だと、「そんな表面的な修正で解決する状況じゃないでしょ?」「導線とか、根本的なことの見直しに踏み込んでよ」とツッコミを入れたくなる。
田代
では、こういうのはどう思う?
自社サイト経由で「資料請求数が増えていない」という事象に対して、自社だけでは頭打ちだとします。「誰かに相談したい」と。そこで、SEO対策が得意だと謳う相手に相談したら?
T
あれこれ言われて、最終的にSEO対策を勧められそう(笑)。
田代
そうなるよね。SEO対策が功を奏して、成果を引き出しているケースはたしかにあります。そのことを否定したいのではなくて、この場面にSEO対策が適当なのか?
T
そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。ただし、相談した相手がSEO対策推しだと…。
田代
データの裏づけなどの確からしさがないと、素直に納得しづらい。「どうせポジショントークでしょ」と。「相談相手が悪かった」とか「最初からそんな相手に相談するな」となるかもしれないけれど、本当に困った場面で、自社にとって適切な相談相手を見つけてきて、なおかつ、その相手が課題にふさわしい解決手段を提示しているかどうかを判断できるかな? 現実は難しいと思うんだよ。
T
こうした場面が「仮説の質が問われる状況」の1つですね。
何が事実で何が仮説かを整理する
田代
じゃあ、「データの裏づけ」を意識して「GA4を毎日見ておこう」という話でいいのか、ともなる。果たして、そうかな?
T
と言うと?
田代
今から言うことは、GA4を見ることの否定ではありません。
GA4でWebサイトのデータを見ていて、
A 「新規ユーザー数(ファーストアクセスのユーザー数)が多い」
Aという事実がわかったとします。さらに、過去のアクセス数を見ていくと
B 「直近4月のPVがとりわけ多かった」
とします。Bも事実だよね。でも春先で、一般的に社内異動がある時期だから、
C 「これからマーケティングについて習熟したい若年層もしくは新任のマーケターが来訪しているに違いない」
みたいな見立てをした時、それが確かな事実とまでは言いきれないよね。
T
そういう可能性はありそうなだけで、確実ではないです。
田代
つまり、Cは事実を踏まえた「仮説」と言えるかもしれない。
T
細かな属性へと分け入っていくと、事実と断言できない読みの部分が出てきます。
田代
MAを駆使して、仮説を裏づけるようなデータを取得できているなら別ですが、GA4だけでは読み取れる限界があるからね。
話を続けると、もし対象ページが「5分でわかるマーケティング」みたいな解説ページだったとします。
事実:このページには新規来訪者が多い
仮説:新規来訪者のほとんどが新任マーケターではないか?
事実と仮説から、「無料でマーケティング勉強会を開きます」という企画を思いつき、該当ページ内にその情報を加える。若年層が多いと考えて、「スマホからの参加もOK」みたいな対策案も浮かんでくる。これらは仮説に基づくアイデアだよね。
T
はい、たしかに。
田代
出てきたアイデアがうまくいくかどうかは「やってみないとわからない」けれど、実務ではこうしたアイデアをたくさん出して、その中で優劣をつけて、優れたものから実行したい。
T
そう考えると、「そうだよね、試しにやってみよう!」というアイデアを出すところまでが「仮説」ですね。
田代
実務で求められるのは、次へとつながる「仮説」を立てる力、と言えそう。ひとまず今回について総括すると、「仮説が意味すること」を理解し、「仮説および仮説起点のアイデアの大切さ」を再認識すること、です。
次回は・・・
仮説の質や精度が高まると、仮説に基づく実務の質が高まります。では、質の高い仮説を立てるにはどうするべきでしょうか? 次回は、「どのように仮説力を鍛えるといいのか」について話し合う予定です。