成長を促す「新任担当者」のための仕事の任せ方
「ある日の編集会議」は、「マーケの強化書」編集部が毎月行っている編集会議の現場から、広く多くのユーザーにも共有したい内容を凝縮して展開するシリーズものです。今回は、春先に行われた編集会議の話題から、新任担当者への仕事の割り振り方を取り上げます。職場やチームに新たに加わるメンバーにはぜひとも活躍してほしい。では、新任担当者にどう仕事を任せるといいでしょうか? 現実的に「どう対応すべきか」について話し合いました。
- 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長 - 担当T株式会社ジェネシスコミュニケーション
たくさんの仕事を任せるべき? 控えるべき?
田代
今日の編集会議では、年度初めにちなんだ話題として、社内に新たなメンバーを迎えたとして「新任担当者にどう仕事を振り分けると理想的か?」について話し合いたいです。若手を含む新たなメンバーにどれくらいの業務をお願いするのかは、時代を問わず普遍的に悩ましいマネジメントの課題だよね。
T
どれくらいの量(ボリューム)を、どれほどの品質を期待して、いつまで(期間)任せるか…などを気をつけますかね。
田代
前提として、新任としてしまったけど、該当職務の経験者か未経験者かで大きく違いますよね。経験者なら即戦力として大きな期待をかけますし。対極なのが、新任であり新人さんみたいなケースかなと。右も左もわからない状態だろうから、迎える側は十分な理解と配慮のもとで対応すべきです。
T
厳密には「新任」も幅が広い言葉なので、すべての新任担当者を同一線上で考えると無理が出てきますね。経験とは別に、それぞれのストレス耐性もあるでしょうし。ここでは、あくまでも一般論としていくつか前提も踏まえながら話を進めたほうが…良さそうですね。
田代
そうだね。古今東西、仕事の任せ方としては、大きく2種類あると思うんです。仮に、
「むちゃぶり」タイプ…鍛錬や育成の意味を込めて、多め(溢れぎみ)のボリューム感で仕事を任せる
or
「やわらか」タイプ…社内の仕事の流れを確実に覚えてもらうまで、抑えめのボリューム感で仕事を任せる
としましょう。ここにいるメンバーは年齢的にも「むちゃぶり」タイプで育ってきたかなと思うので(苦笑)、「やわらか」タイプで育った経験はあまりないかもしれないね。これは時代的にしょうがないかもしれない。どうしても「むちゃぶり」タイプの経験に引っ張られてしまうので、この議論に適しているのかは疑問の余地もあるけれど、僕たちと似た立場で悩ましくしている人は少なくないとも思っています。
T
今の時代は「やわらか」タイプが推奨されていますからね。無理に「むちゃぶり」タイプを美化する必要はないとは思いますが、「むちゃぶり」タイプで育った人たちが「実際にどう考えているか」みたいな視点はもしかしたら共有できるかもしれませんね。
人は追い詰められて初めて目覚める!?
田代
「むちゃぶり」タイプで育った僕ですが、振り返ると当時はその進め方が嫌で嫌でたまりませんでした。
T
仕事を受ける側として納得できる説明は少なく、とにかく「やれ」だったり…。「君の返事は『はい』か『YES』しかないよ」なんて言われたりしましたよね。
田代
いたねー、そういう人(笑)。自分の場合なんだけど、嫌だったからこそ、後輩ができ、チームメンバーを引っ張っていく立場になった時、「やわらか」タイプのようなイメージで仕事をお願いしていた時期がありました。でも、あまりうまくいかなかったんだよね。決して「むちゃぶり」タイプを正当化したくないんだけど(苦笑)。
T
なぜでしょう?
田代
いろいろなケースがあるので一概には言えないけれど、人は楽をしたいから、緩くて物わかりの良い状況では「なかなか真剣に仕事と向き合わないのではないか?」と考えると、そうなのかなと。僕も振り返るとキツイ場面を乗り越えた方が経験値が増えたような記憶があるし。RPGで強い敵倒すと、経験値がいっぱいもらえるみたいな。もちろん「むちゃぶり」タイプは今の時代には合わないし、これからも合うことはないと思うのだけど。
T
それだけに仕事の任せ方は難しいですね…。
田代
人は追い詰められてこそ、火事場の馬鹿力を発揮するところがある。若い頃つらかったけれど、そういうことなんだろうな、という気持ちもあります。マネジメント都合の詭弁だけれど、真剣に仕事と向き合ってもらうために、上司が新任者をギリギリの状態にするというか。
T
理屈としては、ある程度無茶な量に直面しながら必死に仕事を覚えて、やがて質も高まっていくのはあるかもしれないですね。
田代
「やわらか」タイプで難しいのは、個々人の力量や体力を見極めながら、適切なボリューム感でかつ難易度も調整して渡すことになるのだけれど、年齢を重ねてある程度の立場になった時、当人がこれまで直面してきた仕事の仕方ばかりではうまくいかないという根本的な問題があること…。マネジメント層の腕の見せどころと言われそうだけれど、実際は「やってみないとわからない」ことも多いし。
T
「むちゃぶり」タイプで育ってきた自分の周りには、「やわらか」タイプで成功している人が少ないようにも思います。自分だけでなく周りも、似たような理不尽さに耐えてきた人たちなので。これは世代論かもしれないですけど。
田代
マネジメント層の自覚として、「むちゃぶり」タイプで任せることにはかなり注意深くありたい。仕事を任される側には、「むちゃぶり」タイプ寄りになる上司の思考パターンを知っておいてほしいです。
グッと仕事力が身につく瞬間とは?
T
「むちゃぶり」タイプで育った僕たちは、そのやり方で仕事を覚えてきた感覚が残ってしまっていますからね。
田代
「むちゃぶり」タイプを通じて今がある、これは否定できないから(苦笑)。仕事を振られる立場の人たちに伝えたいのは、自分1人で抱え込もうとしないことです。もちろん、断れない現実があるだろうし、そもそも仕事を任せる側が新任者に不要な悩みを抱え込ませるべきではないんだけどね。
T
組織として、新任担当者が「できないと思ったら、相談できる」体制というか雰囲気は作りたいですね。
田代
自分の過去を振り返ると、中には「かつての若き僕のキャパシティを見て、仕事を振ってくれていたのだな」と思える上司はいました。まあ、「エグいな」という振り方だったけれど(笑)、最後のギリギリのラインは見てくれているなとも思う。でも僕が勝手に美化しているだけで、まったく相手はそんなことを考えていなかったかもしれないけど(笑)。
T
今の時代に合わせたアプローチを模索しないといけません。
田代
例えば、上司から担当者が、10日後に期日を迎える仕事を任されたとします。「10日後、クライアントへのプレゼンテーションを担うのが君だよ」と。10日の間には、前々から楽しみにしていたコンサートとかサッカーや野球の試合、今は少ないのかもしれないけど合コンとか予定が入っているかもしれない。
T
僕なら初めに「あーあ、行けなくなる」と、がっかりしそう(苦笑)。
田代
任せた上司からすると「納期までの“スケジュール”含めて、あなたに任せましたよ」でもあるからね。準備の稼働、本番含めて10日後にしっかり対応できるのであれば、コンサートや合コンに行ったて構わない。ただし、任せた側に不安に思われてもいけない。本番の何日か前に社内で模擬プレゼンもやったほうが良いし、資料の進捗も丁寧に報告する。一連の対応も含めて「スケジュールを任せた」でもあるのだけど、仕事を任せれた側にも、このあたりが疎かになる風潮が昨今あるような気もするね。
T
確かに。「こちらに任せたのだったら、もう口出ししてこないで!」みたいな風潮を感じる時はあります。細かく言うと嫌がるし、放任すると報告が上がらないみたいな。
田代
さっきの例でコンサートに行くなら、そこを含めて「どうやるか」をあの手この手と考えて動くはず。この過程でグッと現場力というか仕事力が身につくような気もするね。火事場の馬鹿力みたいな。
逆にダメなのは、やることをやっているのに、上司が「不謹慎だ」とか感情的な面で文句を言ったり、行かせないように誘導したりするのは完全にアウトかな。それは嫌がらせであり、いじめです。
外部パートナーへの負担も考えよう
田代
少し逸れるかもだけど、もう1つ、「むちゃぶり」タイプで気をつけたいのが、「むちゃぶり」の皺寄せが外部パートナーにも向かってしまう問題かな。任された新任担当者が現場を主導すると、初めのうちは特に仕事がうまく運ばない可能性もあるよね。現場で新任担当者と外部パートナーたちとが噛み合わなかったり。その分、通常よりも外部パートナーに負荷がかかってしまうのは避けたい。そこまでマネージャーは面倒見ないといけないかな。
T
一昔前だと、遠慮なく口を出していた外部パートナーもいました。説教したり(笑)。
田代
そうだね。でも今は、そういうのが本当に難しい。社外の人に注意なんてよほどのことがない限りできない。外部の人たちの本音は、「しっかりと仕事を覚えてから出てきてよ」だろうし。「こちらは、あなたたちに何も言えないのだから」と。
T
外部パートナーからすれば、「こちらが教える立場にはない」ですからね。
田代
新任者に現場を任せて、現場を通じて仕事を覚えてもらうことは、自社目線ではいいんだよね。でも、自社以外の立場への配慮が必須で、外部パートナーに思わぬ負荷がかかる仕事の進め方は本来NGです。
T
「鍛える」や「育てる」「その人のためだから」みたいな都合のいい理由づけをして、乱暴に新任担当者に任せっぱなしにすることは避けるべきです。
田代
これぞという決まった言い方はできないけれど、マネジメントは常日頃から「任せっぱなしではない任せ方」や「配慮を忘れない任せ方」を考えていく必要がありますね。まだまだできていないことも多いけれど、気をつけましょう。