発注・依頼をうまく進めたい!最適なオリエンテーションの開き方~受注側の本音に迫る~
発注側と受注側との間で行われるオリエンテーションについて、今回は「受注側の本音」に耳を傾けてみましょう。受注する立場の制作プロダクションのプロデューサーを招いて、受注側から見たオリエンテーションの現実や、問い合わせや見積もりを巡る本音に迫りながら、発注側と受注側に溝を生まず、円滑で建設的な関係性を築くためのヒントやコツを探ってみたいと思います。
- 田代 靖和(オリエンを実施する/受けるの両方の立場)株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長 - 制作プロダクションA(主にオリエンを受ける立場)デザイン・Web制作会社に勤務
自らもデザインする傍ら案件の責任者も務める
簡単に見積もりは作れない
ー最初に、以前のエントリーで示した、オリエンテーションに臨む上で押さえておきたい要素を改めて確認させてください。
⓪ なぜそれが必要なのか(背景情報)
+
① ゴール(何を成し遂げたいのか)
② やり方(どうやって成し遂げたいのか)
③ 予算(いくらまで使ってよいのか)
④ 納期(いつまでに必要なのか)
+
(1〜4のいずれかに)自由度や制限はあるのか
田代:制作するお立場として、これまでの経験上、「これは困った」というオリエンのお話を教えてください。
制作プロダクションAさん(以下Aさん):私たちは、Webサイトや動画、紙パンフレットなどの印刷物など、いわゆる制作物を成果物として制作する立場です。「これは困った」というケースに該当するかはちょっと疑問もありますが、「発注者の方が制作上のルールや作法を知らないで相談をしてくる」といったケースは困りますね。しかも、そういう方に限って、どんどん先の結論を求めてくるので、そうなると正直ちょっと困ってしまうことが多いです。こういう方、最近増えている気もしています。
ー本来、(仕事につながる)問い合わせはありがたいはずなのに、ですね。
Aさん:はい。そうなんです。お問い合わせはとてもありがたいです。この記事でも、決して発注側のすべての人に対してクレームをつけたいとか、発注側を悪者にしたいわけではないことをご理解いただきたいです(笑)。
その上で申しますと、どのような成果物にも、さまざまな前提条件があって、完成までに数々の工数がかかります。そのあたりをすっ飛ばして、「今すぐ見積もりを出してほしい」「すぐに提案できますか?」と言われても、困ってしまいますね。
田代:上で示した1〜4がどうなのかの前の、そもそも0(背景情報)が一切説明されない状態で要求されてしまうケースですかね。違うか、その企業の情報でもないから00みたいな状態か(笑)。
Aさん:0でも00でも良いのですが(笑)、例えば、「初めてWebサイトを外注することになったのだけれども、そもそもWebサイト制作予算の相場もよくわからず、社内で予算を握れていない状態」と、社内で押さえている予算があって「予算内で具体的にできることを問い合わせる状態」では、問い合わせの質が違いますよね。初めて外部に依頼するような前者の場合、せめて自社がどういう状況かを最初に、正直に伝えていただけるだけでも、こちら側としてはとてもありがたいです。
田代:経験の浅い担当者の方で多いのが、どういう風に作られているか、誰がかかわるかといったことをご存じない方もいらっしゃいますね。「勉強してください!」とも言えないのですが、「初めてなんで教えてください」と言ってもらえるだけでもコチラの覚悟は変わるような気がします。知らないことを知ったかぶりするのは止めたほうがいいかもしれません。結構バレるので(笑)。
モノ作りには時間がかかる
ー発注側の最初の一歩が「軽く相場感を聞いてみよう」くらいのトーンだと、悪気なく「見積もりくらい簡単に出してくれるもの」と思っているかもしれません。
Aさん:そうですね。最近コロナ禍もあってメールやフォーム経由などテキスト情報での依頼が増えているのも理由としてあるのかもしれません。軽く聞かれているか読み取れないパターンですね。本来、見積もりは、発注側の状況に最適化して出すものです。精緻な仕上がりを求めるほど、見積もりの作成には時間がかかります。これは見積もりだけでなく企画も含めて同じですが。
田代:発注側と受注側は、どうしても立場が違います。受注側の本音としては、自分たちの都合を一方的に言うつもりはないのですが、どの程度の確からしさで良いのかを教えていただけるとありがたいですね。確からしいものを提出するとなるとそれ相応の準備に時間や労力も伴いますし。なんというか、その辺りのズレみたいなものは感じる時がありますね。
ーもう少し掘り下げてみましょう。例えば、どのようなケースがあったりしますでしょうか。
Aさん:Webサイトにしても紙のパンフレットにしても、
・伝えたい内容にあわせて素材の撮影をするのか?
・素材はあらかじめ用意されたものがあるのか?
・コピーは新たに書きおこすのか?
・書きおこすのであれば、社内で用意できているのか?
・コンテンツのための取材が必要なのか?
など、企画に応じてさまざまな要素にどうアプローチするのかを選択しないといけません。
予算が限られてくれば、メインビジュアルだけをオリジナルで撮影して、残りの素材はレンタルポジを使うといった判断も出てくるでしょう。各要素について、1つずつ状況にあわせて丁寧に詰めていきながら、工数をかけて完成に向けて進めていきます。こうした裏側の一端だけでも気にかけてもらえると、やりやすくなりますね。
発注側の事情にも配慮する
田代:昨今はデジタルの進化で、成果物と一口に言っても、さまざまな表現があります。1人の担当者が細かいところまですべてを把握するのは酷かもしれません。ですので、窓口となる担当者に完全な対応を求めないにしても、「モノ作りには時間や負担がかかる」という見通しを持っていただき、受注側→発注側という縦の関係というよりも、外部にいる良きパートナーといった理解の方がうまく進むかもしれません。
ーそうなると、冒頭で示した0〜4の用意の仕方も変わってきそうです。
田代:発注側の事情をもう少し考えてみると、最近は情報漏洩にとても敏感です。コンプライアンス上、契約前の相手に細かく自社内の情報を伝えることができず、一部の情報しか開示できない事情も抱えています。限られた情報の中で、受注側がうまく対応する必要もあるのではと考えます。
Aさん:そうですね。もちろん、お声がけいただく際に、何から何まですべて揃えてほしいわけではありません。決まっていたりいなかったりの事情も分かっているので、「ここまでは、社内で決まっていることです」「ここから先は決まっていません、よくわかっていません。注意が必要ですね」などと一緒に整理ができていくとお互いストレスなく進められるような気がしますね。
限られた条件に基づく提案は可能
田代:先ほども少し話がでましたが、「知らないから、相場感だけでも確認したい」という発注側の本音や都合は、実は結構よくわかります(笑)。まったく相場がわからないから、率直に目安が知りたい。知って初めて、社内で予算承認に向けて動ける、というケースもありますし。
逆に予算の目星がついているなら、少しでも予算は抑えたいものです。たとえ予算の自由度があっても、下限で止めたい。一方で受注サイドは、「より良いものを」と考えると上限に近い提案になりがちです。
Aさん:あるあるですね(笑)。ただ、私どもも「どうしてもこの予算内でやらないといけない」というラインがあれば、その中で最善な方法を考えます。クリエイティブにはさまざまな方法・手段があるので、工夫次第で制約の中でふさわしいやり方を提示できますからね。初めてのお取引では難しいのかもしれませんが、なるべく話せるところは話してもらったほうが提案の幅は出せそうですね。
田代:理想は、コンプラとかもあって難しいですが、0〜4について率直に隠さず伝えてもらいたいですよね。中でも、いくらか予算に幅があると、最低限できることに加えて、プラスアルファの提案ができます。オリエンテーションに提案の伸び代を期待したいなら、受注側に「下限の条件に固執しない提案」を促せるかですかね。
決定権のある人に出てきてほしい
ーここまでは、主に制作への理解の有無が悲劇を生みかねない話でした。他に「これだけは何とかしてほしい」を挙げるなら、何かありますか?
Aさん:「誰が何をどこまで決めるのか?」を知りたいですね。できれば、後戻りできないタイミングでは決定権、決裁権のある人に出てきてもらいたいところです。発注側の社内都合もあるので、「どうしても」という言い方はできませんが、なるべく立ち会ってもらいたいです。
田代:とても実感のこもった話です。局面が進むごとに、それは担当者個人での判断なのか、チームとしての判断なのか、決裁権を握る人の判断があるのか、となりますからね。
Aさん:正式な発注にも関わることになります。企画で言えば、その場ではウケが良くても、その内容を受けて社内の上層部に担当者が相談したらNGになってしまうこともたびたび経験してきましたし。また、デザインに関することは、プロジェクトがある程度進んだ段階でNGが出てくると、対応が難しくなります。特に動画に関しては本当に難しい。かなりの工数がかかるので。
田代:トップの鶴の一声でNGになる、という展開は、もっとも避けたいところですね。
Aさん:致し方ないケースもあるのですが、初めての取引になるケースでこれをやられてしまうと相当辛いです。担当者レベルでOKでも、最終的にトップ、決裁権を持つ人がダメという“ちゃぶ台返し”はなるべく避けられる形を取りたいですね。
ーこのたびは、ありがとうございました!