「ルンバ」日本正規総代理店マーケティング部長徳丸氏インタビュー【第1回】進化し続けるロボット掃除機「ルンバ」のマーケティング課題とは?
ロボット掃除機の本家本元である米国アイロボット社の「ルンバ」。
日本では2004年に発売され、今や知らない人はいないほどの高い知名度を持ち、売上も好調だ。そのルンバの日本国内での事業戦略からマーケティング、販売施策を一手に引き受けるのがアイロボット社の日本正規総代理店セールス・オンデマンド社である。
大手広告会社出身者が主軸となって設立された同社がどのような戦略を用いて、ロボット掃除機という新たな市場を切り開いてきたのか? 取締役マーケティング部部長 徳丸氏にお話をお聞きした。
※所属および肩書きはインタビュー当時のものです。
【第1回】進化し続けるロボット掃除機「ルンバ」のマーケティング課題とは?
■対象ブランドの戦略、マーケティング、セールスのすべてを統合的に展開するセールス・オンデマンド
対象ブランドの戦略、マーケティング、セールスのすべてを統合的に展開するセールス・オンデマンド
-セールス・オンデマンドの事業内容や取扱製品についてお聞かせいただけますか。
徳丸氏:当社は、主に外資系のクライアントを担当していた広告会社出身の人間が中心となって2004年に設立されました。設立に際しては私も支援しており、2006年から移籍して、”中の人”として活動しています。外資ブランドが日本に進出する際に成功したケースもある一方、失敗したケースも多くあります。それらを見てきた者たちが「自分たちなら、外資系企業の日本市場進出に関して、もう少し何か違う支援ができるんじゃないか?」という思いから生まれた会社です。
-外資系企業が製品やサービスを日本市場で展開する際に、広告会社の人間としていろいろやってきた経験を活かしてよりよい支援を行いたいということだったんですね。
徳丸氏:外資系企業の日本進出の際、全体事業戦略的な部分の多くはコンサルティング会社がサポートするものの、事業戦略の下層レイヤーとなるマーケティングの実務レベルになると、いきなり広告会社にポーンと降ってくる。
そして、実際にモノを売る段階になると、また分断され、流通依存度が高まり、セールス部隊は「どうやって売ればいいんだ・・??!」となる。そんな場面をよく見てきたわけです。つまり、一連のビジネスプロセスが分断されてしまっているのだと。
そこで、全体事業戦略の構築からマーケティング、さらにセールスまで一貫して請け負う会社を作れば外資系企業から歓迎されるのでないかという着想につながったのです。ですので、いろいろ考えた末に創業者が「セールス・オンデマンド」という社名をつけました。
設立当初いくつかの提携候補がありましたが、まずは米国アイロボット(iRobot)社との話しがまとまって同社製品の販売権を獲得、以来iRobot製品を日本で展開する事業を中心に行っています。
その後、5年ぐらいでルンバについてはある程度形ができてきたので、次の展開としていろいろな方向性を検討した結果、スウェーデンのブルーエア社という空気清浄機のメーカーがちょうど日本へ参入したがっていたタイミングでしたので、同社の販売権を勝ち取ってブルーエア製品の展開に取り組んでいます。
-やはり戦略、マーケティング、セールスといった一貫したサービスを提供しようとすると、「販売代理店」という形での展開になるということなんでしょうか。
徳丸氏:そうですね。総販売代理店という形での提携を行うことで、我々の社名が表舞台に出ることは少ないのですが、日本市場については本社の方針を受けつつ、黒子として対象ブランドに関わるすべてを当社で企画・展開していく、ということをやっています。
日本市場の要望も的確に反映して進化を続けるルンバ
-ルンバは好調に売上を伸ばされていますが、販売数や利用者数はどれぐらいでしょうか。
徳丸氏:はい、世界で1600万台、日本でも200万台以上販売させていただいており、日本においては、当社が把握している登録ユーザー数は数十万規模になっています。
-これからルンバはさらにどのように進化し、どのような製品展開をされるのでしょうか。
徳丸氏:iRobotはロボット開発会社ですので、家電メーカーの作るロボット掃除機とは根本的に異なっているところがあります。家電メーカーだと既存の掃除機をどう動かすか?という考えで巨大なものを試作品として作ったりしていました。
しかし、iRobotはそういうアプローチではなく、「いかに労力をかけずに部屋をきれいにするか。それを人の代わりに行うロボットがルンバ」というコンセプトに基づいて、家具の間や下をスムーズに通れるように、筐体の形状や大きさ、高さが決められています。このコンセプトは2002年にルンバが生まれた時から変わってはいませんが、誕生から10年、ハードウエアの機能もソフトウエアも劇的に進化しています。
実は、製品の進化という意味では、私たちが運営する日本拠点がiRobot全体にとっても非常に重要な位置づけになっています。私たちは、いわゆる「顧客の声」として実際のお客さまの家でどんなことが起こり、何が原因でどういう不具合が起こったのか、またそれに対してどういう対応を取ったのかというようなことを収集し、すべてデータ化しています。もちろんコールセンターに入ってくる情報もです。
そしてそのデータに基づく改善要望を米国本社に上げることを10年間続けています。本社では、そのデータを元に改善がなされていますし、新商品開発においても日本からのリクエストをどんどん取り入れてくれています。
-ルンバの姉妹製品といえる、床拭きロボットの「ブラーバ」はどのような位置付けになりますか。
徳丸氏:日本では「雑巾がけ」という文化が昔からあるので、水拭きできる商品があれば大きな市場機会があるという話しを以前していたことがあり、そこから生まれたのがブラーバです。
日本発の製品といえば少し言い過ぎかもしれませんが、日本のマーケットを非常に意識している製品です。iRobotには、既に水を出しブラッシングする「スクーバ」といいう製品がありました。これは欧米の土足文化に対応したハードフロアを掃除するものであり、日本のように靴を脱いで家屋に上がるようところには合わない。なので「雑巾がけみたいなのがあればいいのでは?」ということで生まれたのがブラーバです。
初めは乾拭きしかできず、機能としては十分なものとは言えませんでした。もし水拭きができれば非常に可能性が大きいということで、水拭き可能なモデルを開発してもらい2年前に日本市場へ投入しました。
おかげさまで、ブラーバの売上も順調に伸びてきています。直近では、水を吹き出しつつ振動する洗浄剤入りパッドでさらに床をきれいにしていくタイプの新しいブラーバ「ブラーバ ジェット」を投入したところです。今秋以降は「水拭きロボット」という新たなカテゴリーが完全に確立していくな、という手応えを感じています。
-ブラーバは、既存のルンバユーザーの方が購入されるケースも多いのでしょうか。
徳丸氏:はい。初期ロットを購入いただいた方のうち、およそ半分の方はルンバユーザーでした。
知名度9割を超えるルンバのマーケティング課題
-すでに高い知名度を獲得し、着実に売り上げを伸ばしている今、ルンバのマーケティング上の課題はどのようなものでしょうか。
徳丸氏:「人に代わって部屋をきれいにしてくれる」という基本コンセプト自体はかなり受け入れられてきてはいます。それでも、まだそれを受け入れられない層もまだまだ存在しています。”手抜きと感じるから(掃除くらい自分でやるべき)”というのだけではなく、”使いこなせない”というケースも含めてです。
これはマンションなどで最初から食器洗浄機が備え付けになっているのに、さまざまな理由で食器洗浄機を使いこなせないユーザーと同じようなケースだと思います。こうした層をどうやって啓蒙していくか、それが最大の課題です。
例えば、「掃除なんか面倒でやりたくない」と言いながらも、やはり自分でやらなきゃ気が済まない、というような人もいるわけです。そうした人たちに、「掃除はルンバに任せて空いた時間をつくりましょう、その時間で他のことを行ったり家族との大切なだんらんに使いましょう」といったことをさらにしっかりと訴求していくということがいまだ大きな課題です。
とはいえ、都市部を中心に「機械やロボットに依存することに抵抗がない」という合理的な考え方ができる土壌が確実に広がってきているという手応えも感じていますけどね。
-ロボット掃除機の市場はまだまだ飽和していないというお考えでしょうか。
徳丸氏:はい。まだまだ浸透しているとは言えません。空気清浄機や食器洗浄機ぐらいまでには少なくとも普及すると考えています。世帯普及率で言うと3割から4割ぐらいまではいけると思っています。
また、既存のお客さまに対しても買い替えや買い増しにつながる施策もいくつか打っています。1階の掃除が終わったら、今度は2階にルンバを移動させて2階の掃除をやる、というお客様も多いのですが、その移動すら面倒になって2階用のルンバを買い増ししていただく、という方も結構いらっしゃるのです。
アイロボット製品公式Webサイトはこちら⇒
セールス・オンデマンド社公式Webサイトはこちら⇒