データで顧客を見れば適切なマーケティングが実施できる~【独占レポート】HeartCore Digital Marketing Day 2016~
2016年11月18日、株式会社ジゾン主催の「HeartCore Digital Marketing Day 2016」が開かれ、マーケティング最前線を行く有識者が登壇、マーケティングを進化させるポイントについて様々な切り口からセッションを行った。
その中から当記事では、アビームコンサルティング株式会社(以下、アビーム)の本間充氏のセッションをレポートする。
大手消費財メーカーを経て2015年入社したアビームにおいて、本間氏は事業会社や広告会社、SIerのマーケティング支援を行っている。同時に、東京大学大学院数理科学研究科客員教授やビジネス・ブレークスルー大学客員講師も務めている。
データを見れば日本市場に大きな変化が起きていることが分かる
アメリカで起きていることは、日本にも関係のあること。
「2016年11月、アメリカのトランプ氏が大統領選を制しました。『なぜ、海岸地区にヒラリー支持が、内陸部にトランプ支持が多いのだろう』、『なぜ、ピッツバーグやデトロイトにいるホワイトシニア層の間でトランプ支持が多いのだろう』と、多くの日本人は疑問を持ったと思います」
と、本間氏はアメリカ大統領選の結果から始めた。
ピッツバーグは鉄鋼の街と言われ現在は衰退し、デトロイトは同じく車の街から衰退した、いずれも低所得者が多く住んでいる街である。トランプ氏は今のアメリカに大いなる不満を持つ低所得者層の支持を得たことが勝因であると言われている。アメリカ大統領選では、しばしば「2:8」(にはち)という言葉が使われた。これは、2割の富裕層が8割の富を独占していることを言い表しており、低所得者層の不満が大きい。
本間氏は、
「日本人はアメリカ大統領選を通じて、アメリカ固有の問題を見ているつもりだった」と述べつつ、実は、アメリカの問題が現代の日本にも当てはまることを示した。すなわち、日本も所得の二極分化が進んでいるということである。
市場は変化している。
「日本の『世帯年収のグラフ』を見てください。グラフは、左右対称になっていません。日本の世帯年収が「2:8」に近づいていることが分かります」
と本間氏。示されたグラフを見ると、世帯の平均年収は530万円。この数字に疑問を感じる人もいるはずだ。なぜなら、東京在住の大手企業で働く新卒の社員同士が結婚した場合、2人の初任給を合わせると年収530万円を超える。つまり、日本全体の平均年収は新卒カップルよりも低い。他にも、一番多い世帯年収の層は年収200万円であり、全体の14%にのぼることがグラフから分かる。
「20年前とは想像つかないほど市場が変わりました。デジタルマーケティングとは何かを考える以前に、このような市場の変化を理解しなければなりません」
と、マーケティング対象となる市場の現状を理解する必要性を本間氏は強調した。
例えば、テレビ普及率は低下している。
本間氏は、日本市場の変化を、テレビ普及率からも説明した。47都道府県のテレビ世帯普及率」のグラフを見ると、一番高い普及率が三重県の97.8%、一番低いのが沖縄県の88.9%。9%もの差がある。
「全ての世帯にテレビがあると思うのは間違いです」
と本間氏。実際に本間氏が「テレビを持っているか」と大学院生に聞くと、10人中4人しか見られる環境を持っていないそうだ。近年、急速にテレビの影響力が落ちていることがうかがえる。
データを重視したマーケティングが必要とされている。
「市場は大きく変化しています。現代のマーケティング担当者は、目の前のデータを見て、今何が起こっているかを考えながら判断しなければなりません」
とマーケティング担当者の心がまえを説明する本間氏。続けて
「諸外国では、データ重視のマーケティングがすでに行われているのです」
と、日本が諸外国に比べて遅れていることを暗示した。
本間氏の説明によると、ニューヨークがあるマンハッタン島では、生活用品店「ウォールマート」が1店もない。あるのは富裕層向けの百貨店「メイシーズ」。ウォールマートがあるのは、低所得者層が多いエリアとほぼ同じである。
中国でも、沿岸部と内陸部で全く違う商品や、違う価格帯の商品が売られているそうだ。つまり、アメリカや中国では、エリアごとに異なる特性を理解してマーケティングを行わなければならない状況が昔から続いているのだ。データを重視する必要のある環境があったというわけである。
データを見れば「真ん中」はないことがわかる。
「消費財メーカーで働いていたころ、1990年代のマーケティング会議では『ターゲットは真ん中を狙おう』と言えました。しかし20年以上が経った今、同じことを言ったら『先輩、真ん中ってどこですか?』と聞き返されるでしょう」
と本間氏。
「もはや真ん中はない、ということを理解することが重要です」
と続けた。
「総務省が用いる『標準4人世帯』の定義は、お父さんが働き、お母さんは専業主婦です。果たしてこんな家庭がどれほどありますか?」
と、いつまでも古い市場認識がはびこる日本に危機感を示した。
サブカル漫画のボリュームは35万人・日本トップシェアの生活用品のボリュームは50万人
「少年ジャンプに掲載されている人気漫画の『ハイキュー!!』をご存知ですか?」
と、本間氏は質問を投げかけ会場を見渡した。手を挙げたセッション参加者は1割にも満たない。
「ハイキュー!!」は高校バレーボールを題材にしたサブカルチャー(以下、サブカル)の漫画である。ツイッターには34万人のフォロワーがいる。これは、新宿区民35万人に肩を並べる数字である。
本間氏は、ある大手消費財メーカーの主力商品である洗剤のシェアを購入顧客数に置き換えると50万人くらいになると伝えた上で、
「漫画の『ハイキュー!!』と『大手の主力商品の洗剤』を比べてください。皆さんがサブカルと思っているボリュームと、日本でトップシェアを誇る生活用品のボリュームは、ほぼ一緒なんです」
と、マイナーと思われているグループが相応の市場規模を占める事実を示した。
正しいマーケティングのために、適切なメディアを選択する
市場の変化を十分に説明した本間氏は、続いて、メディア選択の例を使い、正しいマーケティングをするためのポイントを説明した。
メディアの特徴を理解する。
「ECサイトと店舗の違いは何だと思いますか」
と本間氏。店舗で買い物する人はショッピングリストをあらかじめ作るような人。一方、アマゾンなどのECサイトで買い物する人は、思いつきで買い物する人。自社ECサイトで買い物する人は、店舗やアマゾンなどのECサイトを経て、自社ECサイトで買い物することを選んだロイヤリティーの高い人が多くなる。
つまり、ECサイトと店舗では、顧客層もニーズもまったく違う。店舗販売はマスマーケティングに向いているかもしれないが、ECサイトはOne to Oneのコミュニケーションが求められると本間氏は解説する。
たとえば、インターネット広告はテレビCMよりも単価が高くなる場合がある。
「Google社は、自社サービス『Google Play』のテレビCMをおこなっています。なぜ、Google社がインターネット広告を使わずにテレビ広告を出すのでしょうか?」
と本間氏は問いかけた。
本間氏の説明によると、3億円のテレビ広告費をかければ80%の世帯にリーチすることができる。ところが、GoogleやFacebookなどを活用したインターネット広告は、6億円かけても3割の世帯にすらリーチできない。
「インターネット広告は低額から出稿できますが、リーチを増やすコストは高いんです。『テレビ広告は高い』と言われますが、それは絶対的な広告メニューの単価が高いと言うことであり、一人当たりのリーチ単価で見るとインターネット広告より安いんです」
と、本間氏はメディア特性を見極めることの大切さを説く。
データから「誰に何をどう話すのか」を決めること
ターゲット顧客に適切なマーケティングを選ぶべき
「今日の話の中でデジタルマーケティングの話はほとんどしませんでした。なぜなら、顧客層に基づいて、まずどんな手法を選ぶのかが大切だからです。ターゲットとなるリーチが広い場合はテレビ宣伝広告を選ぶべきであり、インターネット広告は選ばなくていいんです」
と本間氏。
全てのマーケティング手法をやみくもに取り入れようとして失敗するケースや、新しいマーケティング手法が必ずしも自社に有効とはかぎらないことが強調された。
マーケティング担当者が頭に入れておくべき大切なこと
「大切なことは、誰に何をどう話すのか(Target, what to say, How to say)であり、そのことは昔から今まで変わっていません。ただ、少し難しくなったということです」
と本間氏。続けて、マーケティング担当者が頭に入れておくべきことを解説した。
Targetは、マスターゲットがいなくなったことで複雑になりました。性や年齢で分けるのか、文化的背景や社会的背景で分けるのかなど、ターゲットを明確にセグメントする必要がある。ターゲットが1つとは限らない。
What to sayについては、優先順位を見極めるべき。優先順位が高いものは、人を使って、すなわち対面で「伝えたいこと」を丁寧に伝える、一方、優先順位が低いものは自動化するのもよい。
How to sayについては、テレビやインターネットなどのメディアから最適なものを選定する。
本間氏は、マーケティングスキームを議論することの大切さ、データを見て議論することの大切さを訴え、最後に「データを使ったマーケティングをするために、マーケティングをデジタル化してください」との言葉で締めくくった。