マーケティング心理学 顧客満足度の低下を防ぐメールテクニック
社会心理学の「接種理論」を応用した顧客満足度の低下を防ぐメールテクニックとはどんな手法でしょうか?実際に行われた研究事例をもとに読み解いていきましょう。
eメールのメリット
「eメール」は、デジタルマーケティングにおけるコミュニケーションシナリオにおいて、いまだ中心的な役割を果たしています。
なぜなら、eメールには以下のようなメリットがあるからです。
1 基本的にすべてのターゲットユーザーがeメールを利用しており、リーチ率が高い
2 企業側の都合のよいタイミングで送信(プッシュ)することができる
3 適度な分量の内容を送ることで「説得効果」を高めることができる
(HTMLメールであれば、画像や動画を利用したリッチコンテンツとしての効果向上も可能)
ただし、eメールの利用率や開封率は低下傾向にあります。したがって、今後は、利用者が増えており、また即時開封度合いの高い「LINE」等との併用が進むことは間違いないと思われます。とはいえ、プッシュできるツールとしてのeメールの地位はまだまだ揺らぐことはありません。
そこで、今回は、製品・サービスの購入に関連するeメールの研究事例をご紹介します。
航空会社での研究事例
この研究は、ドイツと英国の研究者によって行われたものです。研究チームは、欧州のある航空会社にフライトに先立ち、以下の2通のメールを予約客に送信してもらいました。
[1通目:航空会社のサービスの良さが伝わるような内容]
具体的には、
「サービスの質へのコミットメントにより様々な賞を受賞しています」
といったことを述べたもの
[2通目:考えられる苦情についてやんわりと反論する内容]
具体的には、
「混雑時には手荷物引き渡し場での長い待ち時間をなくすことはできません」
といったことを述べたもの
上記2通のステップメールを事前に送る狙いは、
・この航空会社に対する好ましい印象を形成すること
その上で、
・利用客が不快な状況に遭遇したとしても、同社に対する好印象を持続してもらうこと
にありました。
研究チームでは、手荷物引き取り場で長く待った方について、2通の事前メールを受け取った人と受け取らなかった人とに分けて、それぞれの「顧客満足度」を比較しています。その結果、2通のメールを受け取っていた人のほうが、受け取っていない人より満足度が高いという結果を得たのです。
すなわち、研究チームの狙い通り、2通のメールは、不快な事象に遭遇した場合でも、顧客満足度の低下を防ぐ「予防接種」の効果を持つことがわかったのです。
ちなみに、満足度の低下を防ぐためには、顧客の「事前期待値」を下げるという方法もあります。
今回の実験から「接種理論」とは
今回の実験についていえば、「手荷物引き渡し場での長い待ち時間は仕方のないこととしてあきらめてください」といったことをストレートに伝えれば期待値は下がります。つまり、過度な期待をさせないことで、事後の満足度の低下を避けることが可能です。
しかし、期待値を意図的に下げることは、ブランドに対する評価やイメージを低下させるリスクがあり、そもそも利用者数が減少する可能性もあります。
実際、日本では2012年、スカイマークエアラインズが「スカイマーク・サービスコンセプト」として、以下のような明確に顧客の期待値を下げる宣言を機内リーフレットに掲載し、物議をかもしました。
お客様に対しては従来の航空会社の客室乗務員のような丁寧な言葉遣いを当社客室乗務員に義務付けておりません
さて、今回の研究チームが行った「予防接種メール」では、好印象を形成するメールとソフトに反論するメールの2通を組み合わせることにより、期待値を下げることなく、ネガティブな事象に遭遇した顧客の満足度低下を防ぐことができています。
これは、最初の主張に対してソフトな反論をあえてすると、むしろ最初の主張に対してのこだわりを強化できるとする、社会心理学の「接種理論」を応用したものです。すなわち、2通のメールは、たとえ手荷物の受け取りに時間がかかっても、この航空会社のサービスは依然として優れている、という顧客の認識を強化できたということです。
具体的な文面を作成するには細心の注意が必要ですが、顧客満足度向上のため、「予防接種メール」をコミュニケーションシナリオのひとつとして組み込んでみてはいかがでしょうか?
・「顧客の不満」を事前に予防する法(『ハーバード・ビジネス・レビュー』September 2016)
“Don’t try Harder: Using Customer Inoculation to Build Resistance Against Service Failures.”
2016/8/19に公開した記事を再編集してお送りしました。マーケティング心理学これからもまだまだ続きます。