数字に強いマーケターになろう!【合計と平均、外れ値】
あなたの『数字への強さ』を強化していくシリーズ。スポーツの話題が多くなってしまうのはご了承下さい。いつも見慣れている売上データやアクセスデータ等から離れて、スポーツ関連の数字を見ながら一息つきましょう。
今回のテーマは合計と平均、外れ値。今回もJリーグの数字をお借りして話を進めていこうと思います。数字以外にもJリーグ界隈の情報にも強くなってしまうかもしれませんが。
2018年度 Jリーグ クラブ経営情報より
1)J1・J2・J3合計の事業規模は、Jリーグ史上初めて1,100億円を突破いたしました。
成長率は約112.9%となります。
2)前年と比較し、営業収益が約 131億円増加( 2011年度以降、 8年連続増加)
同時に営業費用も約118億円増加し、 引き続き拡大均衡で推移しております。
3)様々なクラブが営業収益を増加させている中でも、 ヴィッセル神戸はJリーグ史上最高営業収益96.6億円を計上し、100億円まであと一歩というところまできています。
参考までにこれまでの最高額は、2017年浦和レッズ の79.7億円となりますので、その水準を神戸が大きく上回り、最高記録を樹立したということになります。
4) 36クラブが前年より営業収益を伸ばしており、その内、15クラブが高い成長率(平均以上) を計上しました。
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出典:2018年度 クラブ経営情報開示(先行発表) メディア説明会 発言録
どうですか?これだけの情報を耳にするとJリーグの活況な様子が想像できますね。自分の所属する会社や周辺環境と比較してみてください。こんな景気の良い話を会社で聞いていらっしゃるでしょうか?
営業収益・成長率を散布図にしてみました。
2018年度クラブ経営情報開示資料:公益社団法人日本プロサッカーリーグクラブ経営本部クラブライセンス事務局よりマーケの強化書編集部が再作図
縦軸は営業収益。横軸は成長率を置いています。横軸で100%より右側のクラブは前年より営業収益が増したクラブ。左側は減ってしまったクラブです。
さて、こう整理してみるとヴィッセル神戸の営業収益が飛びぬけていることが分かります。結構ギリギリなところではありますが、『データとしてはヴィッセル神戸を、外れ値として考えても良いかもしれない』というのが、今回の数字に強いマーケターになろう!の視点です。
もっと分かりやすく5人の子供に例えて話をしましょう。
5人の子供たちが親から毎月お小遣いをらっていると仮定します。
子供Eのお小遣いが他の子に比べて高いために、平均値を底上げしていますね。
もしあなたの子供がAだとして、『友達みんなのお小遣いの平均が5000円、自分のお小遣いも5000円に上げて欲しい!』と言ってきたらどうでしょう?
お財布事情が異なる家庭のお小遣いを合計し平均値から値上げ交渉をされても、私は困ります。ちなみに子供Eを除くと、平均は3750円。2000円の賃上げは無理でも雑誌一冊を買ってあげるくらいの対応なら我が家でも出来そうです。
ニュースや報道では単純に数値を足しあげた平均(算術平均)を使って解説がなされることがありますが、飛びぬけた数値があるとプラスにもマイナスにも引っ張られてしまうことがあります。平均所得などが良い例でしょう。データ上こうした飛びぬけた数値がありそうかと、少し疑ってかかる視点を持ちたいものです。
ヴィッセル神戸 大躍進のカラクリ
さて、もう少しだけヴィッセル神戸の数字を深堀してみたいと思います。
2018年7月22日(第17節)ヴィッセル神戸・湘南ベルマーレ戦の後半13分、スペイン代表経験もありFCバルセロナでも活躍していたアンドレス・イニエスタ選手が、Jリーグ初出場を果たました。
イニエスタやポドルスキ、引退を発表したダビド・ビジャのような世界的な名選手の加入で、ヴィッセルの事業収益はどう変わったのか?もう少し調べてみましょう。
ヴィッセル神戸 年度別決算から営業収益・営業費用を抜粋
入場料収入、物販収入も確かに右肩上がりですが、営業収益に占める割合は1割程度とインパクトはそこまで大きくはありません。(それでも2年で入場料収入が約2倍、物販収入は約3倍になっています。凄いことですね。)
営業収益の内訳で半分以上を占めるのが、スポンサー収入です。2016年度の22億円から2018年度には62億円まで増えていることが分かります。費用の方を見ると、チーム人件費も2016年度の20.6億から2018年度は44.7億まで増えています。世界的名選手の加入と合わせてスポンサーからの収入を増やし賄ってきたと推測できます。スポンサー収入の内訳は明らかにされてはいませんが、親会社からの収入が多いのでしょう。
ちなみに2018年度J1クラブ決算一覧でスポンサー収入のトップ3は、
No1.神戸:62億円、No2.名古屋:33億円、No3.浦和:32億円。
となっています。
2018年度のJ1クラブにおけるスポンサー収入の平均を出してみると21.3億円となりますが、2位名古屋の倍の数字になっている神戸を除くと18.9億円です。
先程、子供のお小遣いに例えてのお話もしましたが、他のチームとはやや事情が異なる(=真似できない?)ヴィッセル神戸を他のJ1チームと同じ土俵で語ってしまうと、Jリーグ全体を指しめす数字としてはやや数値のインパクトやイメージが先行してしまう可能性がありそうです。
ヴィッセル神戸のやり方がどうという話ではなく、数字に強いマーケターを目指すならば、安易に合計値や平均値だけの代表値に惑わされず、その数字の全体傾向をヒストグラムや散布図を確認する癖や、個々の数値を眺めてみる手間を惜しまないようにしたいところです。
用語の説明
では、本日の用語の説明にいってみましょう。
合計値:数値を合わせて、足し上げた値。
代表値:多数の数値の特徴をあらわすための値。平均値、最頻値、中央値などがある。
なぜか平均値が代表値の代表のような顔をしている。
平均値:幾何平均や調和平均なども世の中に存在するが、平均といえば普通は算術平均のこと。
2つ以上の合算した数値を、合算した個数で割ると出てくる。
中央値:数値を順序よくならべ、その中央、真ん中にくる値をとる。
例:1、2、3、4、[ 5 ]、6、7、8、9
中央値は、真ん中の5
平均値を出した時に、なんだか少し気持ち悪かったら確認してみる値。
外れ値:全体の傾向からみて大きくハズレている値。
極端に大きな値だったり、極端に小さな値だったりする。リサーチデータでは、外れ値を考慮して考えることもある。
※自分の作った資料の値がもし予想より良かったりしたら、外れ値となる異常値や入力ミス等が、紛れている可能性もあるので見直すこと。