テレワーク先駆者が語るリモートワークとの向き合い方
リモートワークにまつわる最適解とは何でしょうか? マーケの強化書編集部では、総務省「テレワーク先駆者百選」に選出され、『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』の著者でもある池田朋弘さんを招き、自身に適ったリモートワークのあり方について、話をうかがいました。出社 or リモートという二項対立で考えず、働き方の本質について、池田さんと一緒に考えてみましょう。
本来「働き方」は、全社一律には決められない
ー組織に属する立場だと、自分の意思とは関係なく、社内で働き方の方針が決まる現実がありますよね。結局、声の大きな人の意見で働き方(出社 or リモート)がすでに決まってしまう……。
池田:会社や組織の規模、業種業態でも異なりますので、一概には言えませんが、働き方は「チーム単位で考えること」が最善です。チーム内で各メンバーの期待値調整を行い、希望の働き方を決められるといいでしょう。
ーつまり、会社全体で一括りに考えない?
池田:はい。各種の調査で、人間は内向型と外交型がそれぞれ約50%ずつ存在する、と言われています。内向型であれば「人と一緒にいると疲れる」、外向型だとその逆で「人と一緒にいても苦ではない」などのタイプを指します(※1)。
当然、会社の規模が大きくなるほど、内向型と外向型の人間もそれぞれ増えます。組織全体で決めると、どうしても無理が生じるわけです。半分の人にはよくても、もう半分の人には受け入れづらいわけですから。そうであれば、普段一緒に働くメンバー同士(=チーム)で、最も働きやすい形(=成果につながる形)を考えた方が各現場に適した判断が出てきやすいです。
例えば、Amazonは2021年11月に、出社かリモートワークかを決める意思決定はチーム単位で行うというポリシーを新たに発表しました(※2)。
チームが異なれば、チームが抱える業務範囲もバックグラウンドも異なります。エンジニアチームならリモートが向いているかもしれませんし、インサイドセールスチームなら対面機会が作りやすい出社の割合が多い方がいいかもしれません。もしくは、育児中のメンバーが多いチームならリモート優先だと安心ですし、業務を問わずメンバー自身の性格の問題もあるでしょう。
池田:繰り返しますが、全社一律で働き方を決めてしまえば、半分の人が歪みを感じるものです。チーム単位で検討できることが理想です。
出社方針の会社でリモートワークを続けたいなら?
ーリモートワーク中心だったのに、コロナ禍の状況次第で出社中心へと戻す企業も少なくありません。それでもリモートワークを続けたい場合、どう会社に働きかけるといいでしょうか?
池田:希望(リモートワークの実現)を引き出す鍵は、経営者や上司とのコミュニケーションです。相談の仕方を工夫することで、相手からの理解を引き出しましょう。アメリカの例ですが、上司や経営者の72%がリモート否定派だという調査結果もあります(※3)。この結果は日本の現場の肌感覚にも近いと思います。
ー出社だと、上司は同僚や部下といった相手の姿や様子を自分の目で確認できますしね。
池田:先ほどの出典には、5つの理由が示されています。整理しておきしょう。
1 評価しやすい
2 管理したい
3 存在感を出したい
4 モチベーションへの不安
5 生産性への不安
ー会社側が出社を求める場合の背景に、こうした理由の存在は意識しておきたいです。
池田:そこで、こうした考えを持つ相手の説得について、推奨したい5点のアプローチを挙げておきます。
1 会社としての必要性(リモート対応の重要性)を伝える
2 自分の生産性を記録し、アピールしよう
3 必要時に出社への対応姿勢を示す
4 上司の不安解消に対応しよう(連絡が取りやすい体制 etc.)
5 率直に出社不安を吐露する(コロナ禍の状況 etc.)
池田:上司や会社を説得する際に心がけたいのは、“自分がしたいから”ではなく「会社として対応すべきでは?」と訴えることです。例えば、リモートワークを選べると今の社員が引き続き在籍しやすくなるのでは? 採用面でもリモートに理解がある会社ほど魅力があるはず、といった趣旨を伝えます。
ー希望を伝えるだけでなく、2のように根拠を伝えられると説得力が増します。
池田:リモートによって生産性に不安を感じる気持ちは理解できます。そこで、きちんと生産性を記録し示すことが大事です。職種によって数字の出し方は異なりますが、成果を可視化してアピールする工夫もしましょう。
ー例えば、「マーケの強化書」のようなオウンドメディア担当者なら、決められた期間に何本のコンテンツを公開できたか、公開のための取材や企画会議を経て、実際に具体化までの動きとして何をしたかなどを示せれば、会社側も判断しやすくなります。
池田:後は、頑なに「会社には行かない」ではなくて、状況によって「行きますよ」という臨機応変な姿勢も伝えましょう。また、自分と連絡が取りやすい手段や体制も敷いておきたいです。会社にとっての不安要素を仕組みや態度で十分にフォローすれば、自ずと理解も引き出しやすいはずです。
「非同期の働き方」のススメ
ー出社とリモートワークの両方を取り込んだハイブリッドワークを掲げる会社も増えています。この点はどうお考えですか?
池田:冒頭でお話をしたことと共通します。チームごとで受け入れやすい働き方がハイブリッドと合致するかどうかを確認しましょう。1点注意したいのが、ハイブリッドワークにしてもリモートワークにしても、「場所」に縛られた働き方になりがちなことです。
ー具体的に説明していただけますか?
池田:例えば、リモートワークだけれど、1日中、頻繁にオンライン会議をしていたら出社とかわりないですよね? 会議に参加している場所が違うだけで、“働き方”ではなく働く“場所”が変わったに過ぎません。オフィスでできたことをリモートで再現するだけではなく、せっかくなら働き方の本質を模索してほしい。そこで勧めたいのが「非同期の働き方」です。
ー「非同期」について説明してください。
池田:非同期の働き方とは、関わる相手と場所や時間が異なり、リアルタイムにコミュニケーションをしていなくても、仕事のバトンタッチができて、つつがなく業務を遂行できることです。例えば、メールやSlackなどを使って互いに意思表示をしながら(文書として履歴が追える状態にしておく)、自分の業務をどんどん進めていけるかどうかです。
「非同期の働き方」をチーム単位で実現するためには、以下に挙げたスキルを磨きましょう。
1 チーム内の信頼関係の醸成
2 文章でのコミュニケーション
3 業務プロセスの可視化
4 状況の可視化 etc.
池田:チーム単位でルールを決めて、各種のツールを取り入れながらいかに仕組みを作れるか、ですね。
ーこのたびはありがとうございます!
次回は・・・
直接、相手と対面する機会が持てないリモートワーク体制で不利と考えられることが、新規顧客の開拓です。リモート体制でも新規(顧客)開拓を可能にするために取り組んでおきたいことについて、池田朋弘さんと一緒に考えていきます。
(出典一覧)
※1:Forbes JAPAN 「欠点でなく長所かも? これからは「内向型」人間の時代」
※2:THE VERGE「Amazon’s new work-from-home policy: let teams decide」
※3:SHRM「SHRM Research Reveals Negative Perceptions of Remote Work」