発注・依頼をうまく進めたい!最適なオリエンテーションの開き方
Webサイトやランディングページ、動画やバナー、SNSページなどなど。デジタルが自社のビジネスに身近になればなるほど、自社だけで制作は完結せず、信頼できるパートナーを募って制作を進めることが増えるでしょう。この制作前に行われるのが、発注側と受注側との間で行われるオリエンテーションです。今日は上手なオリエンテーションのコツについて、「マーケの強化書」編集長とともに考えます。
- 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長
成否の鍵を握る4つの項目
ー例えば、Webサイトや動画などを作りたい場合、依頼先のパートナーや新規のパートナーに対してオリエンテーションを開くことが多いです。発注側にとって実りのある結果をもたらすコツみたいなものはあるのでしょうか?
田代:オリエンテーションの登場人物は、ものすごくシンプルに考えると、仕事を依頼する側(発注側)と、成果物を作るパートナー(受注側)に分かれます。
これはWebの制作に限った話ではないのですが、オリエンテーションはとても大事です。オリエンテーションのレベル感と納品物のクオリティは相関するのではないかと思うくらい大切です。ですが、結構おざなりなオリエンテーションも多いのが現実です。私たちは、オリエンテーションに臨むにあたって以下の要素といいますか、考え方をもって臨んでいるかもしれません。
0 なぜそれが必要なのか(背景情報)
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1 ゴール(何を成し遂げたいのか)
2 やり方(どうやって成し遂げたいのか)
3 予算(いくらまで使ってよいのか)
4 納期(いつまでに必要なのか)
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(1〜4のいずれかに)自由度や制限はあるのか
田代:ある程度分けて説明しますね。
まずは、0の背景情報です。継続した関係性を築けているパートナーとであれば、0の部分は不要かもしくは極小でも良いかもしれません。ただし、間に代理店さんが入っているケースは注意が必要です。発注主としては、口を酸っぱく伝えているにもかかわらず、その先の制作チームに降りていないなんてケースもあります。
1〜4が実際にプロジェクトなり制作となる部分です。このうちどこが譲れない項目で、どの項目には自由度があるかを伝えてもらえると、受注側としては戸惑いが少ない状態になります。ココで勘違いをしてはいけないのは、『1~4すべてを雁字搦めに決めてオリエンをしなければならない。ということではない』点ですね。
発注主の方もすべての案件に精通しているわけではないですから、ある程度曖昧でも良いのです。そこをパートナーに考えてもらいたいのか。それとも言われたとおりに作ってもらいたいのか。当然考えてもらうまでを含むほうが作るだけよりも費用的には高くなります。そこに予算的な制約はあるのかといった点を受注側は気にします。
ーつまり、オリエンにおて、各種条件や基準を明確にしておけば、受注側はオリエンテーションを受けて根拠のある提案がしやすくなり、発注側も基準(1〜4)に沿って判断できるということですね。
田代:そうですね。難しいのは1~4で相反する要素が混在する点です。例えば納期までは短期間、しかも激安でという制限が付きつつ、やり方は提案してほしい(=自由度がある)というオリエンテーションであれば、正直お断りするしかないかなと…。そこを曖昧なまま進めてしまうと、揉める可能性が出てきやすいです。というか揉めます。
ここからは、1〜4を軸に、それぞれのポイントで、特に発注側にとって「こうすると、オリエンテーションがうまくいく」ことについて考えていきたいと思います。
譲れない条件はなんだろう
田代:例えば、1(ゴール)、2(やり方)、3(予算)、4(納期)のどれもがある程度納得できるレベルで明確に用意されているプロジェクトをイメージしてみてください。このプロジェクトであれば迷わず進めやすいのではないでしょうか。ただ、面白くないかもしれません(笑)。
すべての条件がガチガチに決まっていれば、プロジェクトとしては予算を抑えて、納期も一般的な進め方が可能かもしれません。一方、受注サイドとしては、要件が完璧に定まってしまっているので、特に制作物案件の場合、クリエイティブの自由度が(少)なくなります。この場合、発注主の予想をはるかに超える魅力的な納品物にならないリスクも出てきそうですね。
ークリエイティブで力を発揮したい制作会社だと引き受けづらそうですが、引き受ける相手が見つかれば、無難に仕上げてくれそうです。
田代:継続案件の場合を除きますが、実際の現場では、1〜4がほぼ完ぺきに、明確に決まっているプロジェクトはあまり多くないです。特に新規のプロジェクトになればなるほど、何かしら曖昧な要素があるものです。
別の例で考えると、1(ゴール)と3(予算)、4(納期)がはっきりしていて、2(やり方)は特に指定がないとします。2の制約がないと、制作側にクリエイティブを考える余地が出てくる分、オリエンテーションでは発注側が想定しない表現の提案が出てくる可能性があります。発注側もそうしたところを期待しているかもしれません。
ー可能な限り、何が譲れなくて、どの点は自由度があるかを明確にすることが大事ですね。
田代:もちろん 2(やり方)に自由度があっても、他の諸条件で制約が強いと、クリエイティブで展開できる幅も制約が出てきますが、自由度の有無で受注側の取り組み方が変わりますし、オリエンテーションを受けての制作進行も変わっていきます。
各項目の譲れない条件が、本当にどこまでも譲れないのか? 多少でもバッファ(余裕)があるのかでも変わります。1(ゴール)、3(予算)、4(納期)がそれぞれ決まっているとしたけれど、3(予算)にいくらかの余裕を見てOKなら、2(やり方)の幅が出しやすくなります。例えば、コピーライターを入れたり、動画を組み込むといった、予算は上乗せとなるけれど表現力を高める提案が期待できます。
受注側の立場を想像してみる
田代:受注側として、もっとも厄介に感じるのは、1〜4のそれぞれがどれも曖昧で、ふわふわしているような案件です。
ー依頼主(発注側)が外部発注に慣れていないと、つい起こりがちかもしれません。
田代:事前に(発注側の)社内で各条件を詰めておくことが大事です。自社内でも曖昧で、担当者次第でどうにでも解釈できる状態は、相手からすればより一層困惑した状態でしかありません。パートナーとなる受注側に明示できることが何なのか、託したい要素や自社だけでは考えつかない要素が何か、をそれぞれ説明しましょう。
ーとはいえ発注側からすれば、詰めておけない事情がある場合もあります。
田代:現場で話を進めておかないと、上層部の承諾が得られないようなケースもあるでしょう。そうした状況を率直に最初から共有して、そのことを念頭に置いた対策と進め方が求められます。例えば、納期が優先される案件なら、スケジュールで無理を強いる分、予算でカバーする必要があります。その点は社内で同意を得られている状態でしょうか? 予算が社内で詰めきれていなければ、ある段階から進まないはずです。先に上層部への理解を優先して進めるなどの対策が急務です。
往々にあるケースが、この曖昧な状態を解きほぐす作業を『見積もり』とセットにされてしまうことです。これは辛い。特に制作案件で多い印象を持っています。曖昧なオリエンだったので、時間をかけて要件や仕様を解きほぐした結果、費用が高いとそのままの仕様で他社に発注しましたなんてケースもよく見聞きします。
ーオリエンテーションを行う前に、発注側と受注側の双方で事前のすり合わせをした方が良さそうです。
田代:発注する段階で、1〜4の各項目で詰めきれていない点が多い場合、発注側で詰めていくだけでなく、パートナーを交えて一緒に各要素を検討し、調整する手はあります。その分の時間を受注側は拘束されるので、時間や費用の都合が許される場合となりますが、曖昧な点が多く見切り発車するくらいなら、事前交渉の場を持てるとトラブルが回避しやすいです。
抽象度の高い要望には要注意!
田代:他にも注意してほしいのが、案件の性質です。例えば、依頼の対象が「Webサイト」や「ランディングページ」の制作であれば、わかりやすいですよね。ですが「社内のDX化を促進したい」と言われると、そもそも「DX化が何を指すのか」を明らかにするところから始める必要があります。
ーはい。目線を合わせておかないと、言った側と言われた側で解釈がズレそうです。
田代:社内でもDXが何を意味するのか、統一が取れているかがわかりません。このようにゴールイメージが概念的で、なかなか共通の解釈が出づらいものは、依頼する前段階での社内の議論が欠かせません。社内で埒が明かないからと、外部に丸投げのような状態でお願いをしても、お願いされた方が戸惑うばかりです。
ーわからないなりに十分に社内で揉んだ上で依頼できることが、1つの出発点と言えます。
田代:オリエンテーションを通じて、自社にとって最適なパートナーを探すことでもあるわけです。概念的なテーマの場合は、何かしらお試しで一度頼んでみるやり方は(可能であれば)アリです。DX化というお題に対して、解決策の小さな一歩としてWebサイトやランディングページを用意するという形でミッションを小さく切り出して、試しにランディングページ制作について依頼してみるのです。自社と相性のいい相手かどうかを実務で探るのも一手です。
次回は・・・
オリエンテーションに招かれ、企画案を披露する受注側(制作側)との対談を通じて、オリエンテーションの現実と、成功を導くオリエンテーションにするためのアイデアやコツについて考えます。現場で奮闘するプロダクションを招き、「マーケの強化書」編集長が対談します。