マーケティングテクノロジーは差別化ポイントにはならず!クリエイティブこそ競争優位性の根源【GDO志賀氏インタビュー】
【マーケティングテクノロジー活用事例】
マーケティングテクノロジー活用の先進企業
「ゴルフダイジェスト・オンライン」
日本最大級のゴルフポータルサイト「ゴルフダイジェスト・オンライン」を運営する株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下GDO)。今回は同社が取り組むデジタルマーケティング施策について、同社お客様体験デザイン本部副部長 志賀智之氏に、テクノロジーとクリエイティブの両面からお話しいただきました。
※所属および肩書きはインタビュー当時のものです。
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お客様コミュニケーションの全体統制を行う「お客様体験デザイン本部」
GDOでは、オンラインでのゴルフ場事業(ゴルフ場予約やゴルフ場の営業サポート)、EC事業(グッズ販売)、広告枠を提供するメディア事業の3つを主な事業内容としています。
志賀氏が所属するのは、「お客様体験デザイン本部」という、一般的な組織では見られないユニークな部門。この部門には、ブランド推進を行うチーム、CRMをメインとしたお客様との関係性作りの推進を行うチーム、サービスのユーザー体験向上(ユーザビリティ向上など)を推進するチーム、ユーザ行動を分析するチーム、そしてユーザーとのコミュニケーションのための共通基盤としてのITシステムの構築・運用を行うチームが含まれています。「共通基盤」とは、会員マスターデータベース、様々な顧客関連データを統合したデータウェアハウス(以下、DWH)、そして、マーケティングオートメーション(以下、MA)などのマーケティングテクノロジーが含まれます。
志賀氏曰く、
『お客様体験デザイン本部は、情報システム部とマーケティング部を合わせたような部門です。』
ゴルフ場事業、EC事業、メディア事業の各部署は、お客様体験デザイン本部が運営管理を行う共通基盤を利用して、それぞれのユーザーとのコミュニケーションを行うわけですが、お客様体験デザイン本部は、単に共通基盤を提供するだけではありません。「お客様体験デザイン」という部署名の通り、お客様にとって最適な体験を創出できるよう、メールの運用ルール等を定めています。
従来であれば、各部署が個別に様々なメールを配信していたため、会員に様々な種類のメールが次々と届き、過剰なコミュニケーションになるケースがありました。そこで、お客様体験デザイン本部がルールを定め、メールの送信通数を制限するなどして、全社の統制を図ることで、顧客体験の最適化を図っているのです。ここに、お客様体験デザイン本部が、情報システム部とマーケティング部の両方の機能・役割を備えている意義があると、志賀氏は考えています。
マーケティングオートメーション導入の経緯と成果
GDOでは、他社に先駆けて様々な顧客データを統合したDWHを構築済であり、BIツールを用いてDWHから抽出した顧客データを分析、複数の顧客セグメントを設定して、それぞれのセグメント別のメール配信を行ってきました。
しかし、よりきめ細かなコミュニケーションを行うため、GDOでは数年前からMAの検討を始めていました。以前から利用していた大量メール配信ツールでは難しい、コミュニケーションシナリオを自動実行したかったからです。
例えば、メールを「開封した・しなかった」、あるいは「クリックした・しなかった」といった会員の反応の違いによって異なる内容のメールを送り分ける、といったコミュニケーションの分岐を伴う複雑なシナリオです。
複数のMAを検討した結果、2015年に導入したのがSalesforce.com社の「Salesforce Marketing Cloud」(以下SMC)です。なお、導入を支援したのはネットイヤーグループ(株)でした。
MAの導入によって、お客様のエンゲージメント(企業に対する好感度)を高めるためのきめ細かなメール施策が行えるようになりました。前述したコミュニケーションの分岐を伴うシナリオ、例えば、新規に会員登録された方へまず登録お礼メールを配信。その後、反応に応じて、徐々に自社サイトの魅力や使い方、ゴルフそのものの魅力を伝えるメールなどを自動で出し分け可能に。
志賀氏は、
『ゴルフ場予約後に配信される一連のメールや、ショップユーザーのうちカートの中に商品を入れっぱなしのお客様へリマインドメールを出すといった「イベントドリブン」型メールの配信など、顧客の好意度アップや収益増につながる適切なコミュニケーションを確実に行えるようになったことを高く評価しています』
と述べます。
好評を博している新規会員向けステップメールとは
では、MA導入によって新たに組み込んだ、新規会員となった方へのステップメールについて詳しくご紹介します。GDOでは、新たに会員となった方に対してメールマガジンを配信し、自社に対するブランド構築と関係性強化のために「ステップメール」を送っています。個々の新規会員の入会日を起点として、約1カ月にわたり合計20通のメールを逐次配信する施策です。
ステップメールを設計するにあたり、コピーライターとして同社が起用したのがGDOの若手社員「原田尚子」氏でした。この原田氏は、大好きなお父様の影響で学生時代からゴルフを始め、新卒でGDOに入ったという女性です。会員登録をすると、まず御礼とご挨拶を兼ねたメールが原田氏から届きます。原田氏の自己紹介から入り、文末には手書きの名前と顔写真が添えられ、受け手の親近感を高める仕掛けを作っています。
あらかじめ用意された文面が逐次送られるステップメールでありながら、原田尚子氏という実在の社員のキャラを立てることで、あたかも私的なメールが、個別に届いているかのような印象を与えています。実際、励ましなどの返信をくれる方も多いそうです。
志賀氏によれば、原田氏のキャラを立てた20通のステップメール送ることについては、社内で賛否両論があったとのこと。しかし、あえて振り切った施策にチャレンジし、ふたを開けてみれば、会員からの好反応を得ることに成功したとのことでした。
志賀氏は言います。
『ステップメールを最終回まで閲覧した会員と、そうでない会員の「ライフタイムバリュー(LTV)」、すなわち「累積購入金額」を比較したところ、ステップメールを最終回までクリアした会員のほうが、LTVが高いという分析結果を得ており、施策の効果に手ごたえを感じています。』
タッチポイント別の顧客心理を重視したコミュニケーションを展開
GDOでは、会員の一連の行動を可視化する「カスタマージャーニー」の作成をあまり重視していません。また、主要なペルソナはクリエイティブに活かすために活用しています。
『なにより重視しているのは、タッチポイントにおける適切なコミュニケーションです』
と志賀氏。
お客様デザイン本部配下にはCS部門があり、顧客満足度調査等を実施しています。CS部門を通じて得られるお客様の生の声をフィードバックにして、お客様の状況別にインサイト(本音)を想定し、適切なコミュニケーションを行うことができる点はGDOの大きな強みと言えるでしょう。
志賀氏は続けます。
『例えば、GDOを通してゴルフ場へ予約を入れてくださったお客様が、予約がきちんとできているか、念のためゴルフ場へ直接電話を掛けて予約状況を確認された、というケースがありました。GDOを通じて予約を入れてくださるお客様はこんな不安を抱えている可能性があるということです。私たちは、お客様が感じる様々なネガティブな感情を解消するため、より適切なコミュニケーションを取っていく必要があります。』
マーケティングテクノロジーの高度化はクリエイティブの高度化を求める
志賀氏は最後にこう締めくくりました。
『MAのようなマーケティングテクノロジーは他の会社でも導入可能です。他の企業との差別化のポイントにはなりません。大事なことは、MAを使って行うお客様とのコミュニケーションに、相手の感情を揺り動かすことができるような優れた接客、シナリオやクリエイティブをいかに開発し組み込めるかです。テクノロジーではなく、クリエイティブこそ競争優位性の根源だと思います。』
マーケティングテクノロジーを活用すれば、顧客データの分析に基づいたきめ細かなコミュニケーションが可能になりますが、連動して、個々のお客様に最適なメッセージ、クリエイティブを多数開発することが必要となります。
テクノロジーの高度化はクリエイティブの高度化を要求する。これこそが、マーケティングテクノロジーから成果を引き出すポイントです。GDO、志賀様のインタビューを通じて私たちはこのように感じました。