デジタル時代にどう人を動かすのか?~「行動デザイン」を学ぶ~(連載中)

デジタル時代にどう人を動かすのか?~「行動デザイン」を学ぶ~ありそうで、意外になかった組み合わせ

第1回のコラムで「行動デザイン」の成り立ちなどエッセンスを少し紹介したが、今回は「そもそも」に立ち戻り、なぜ2013年に「“行動”と“デザイン”という異質な言葉を組み合わせてみようと思い立ったのか」について解説する。


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目次

「行動」と「デザイン」が結びつかなかった理由

2013年当時、すでに「デザイン」という言葉は単なるグラフィックデザインを指すものではなく、もっと拡張された概念で理解されていた。「コミュニケーションデザイン」や「ソーシャルデザイン」、あるいは「デザイン思考」という言葉をどこかで聞いたことがあるだろう。最近では2018年5月、経済産業省・特許庁が「”デザイン経営”宣言」を発表し、その重要性を謳っている。このようにデザインという言葉はいろいろな言葉と結びつく。

さらに、デザインは、イノベーションを実現する力になる。なぜか。デザインは、人々が気づかないニーズを掘り起こし、事業にしていく営みでもあるからだ。供給側の思い込みを排除し、対象に影響を与えないように観察する。そうして気づいた潜在的なニーズを、企業の価値と意志に照らし合わせる。誰のために何をしたいのかという原点に立ち返ることで、既存の事業に縛られずに、事業化を構想できる。
出典:「デザイン経営」宣言(経済産業省・特許庁)より

なのに、なぜ「行動」と結びつくと思われていなかったのだろうか。

それは、人が持つ「スキーマ(脳の中のある事柄に関する記憶のネットワーク)」(※1)に理由がある

(※1)スキーマについては連載第1回目にて解説。

「行動」は視覚となじまない

「デザインスキーマ」は、おそらく視覚的な要素の連想が強いネットワークである。子どもの頃に初めて「デザイン」という言葉に触れたとき、そこに必ずポスターや洋服などの視覚的なイメージや体験を伴っていたはずだ。そしてデザインが視覚的要素と不可分な概念であるために、人は直感的に、デザインを「何か目に見えるものに関わる行為」、あるいは「目に見えないものを見えるようにする行為」と捉えてしまうのだ。「デザイン思考」とか「デザイン経営」というキーワードは、思考や経営という形のない、目に見えないものを、どうしたら可視化し共有することできるのかという問いから生まれているはずだ。

一方で、「行動」というのは時間の中で連続する一連の動作であり、固定した形状を持たない。行動を視覚化しようとすると、せいぜいコマ送り(パラパラ漫画)という形でしか、視覚的に表現することが難しいことに気づくだろう。「行動」は極めて具体的でフィジカルな実存なのに、なぜか意外に視覚となじまない。それが「デザイン」と「行動」が結合されにくかった原因だと想像している。

行動デザインとは、人と環境のインタラクションの創造

しかし、一度「デザインと行動」を組み合わせてしまうと、逆に今度はそこからいろいろなことが見えてくる。例えば、お店のレジの前に引かれたラインは「視覚刺激」であると同時に、「列に並ぶ」「進む」という人の行動をフィジカルに制御していることがわかる。一本の線が、人と行動のインタラクションを生み出している

同様に、成田国際空港の第3ターミナルに向かう歩道は、「陸上競技の長距離トラック」に見立てた青と赤の塗装とコースを示す白線でデザインされている。そのコース上を、利用者はキャリーケースをがらがらと引きながら、630mの距離を自然に歩いている。このように、単なる視覚情報を越えて直接的に行動をつくりだす(行動の瞬間に介入し、望ましい行動を誘発する)機能が、デザインの持つ底知れぬポテンシャルなのだ。筆者が目指す行動デザインとは、このような人と環境のインタラクションの創造だ。


成田国際空港 第3ターミナル


デザインを(おそらく初めて)行動との関係で考えた人に、アメリカの知覚心理学者であるジェームズ・J・ギブソンがいる。彼は「アフォーダンス」という造語で対象(地面や壁、椅子など)が、人の行動を人知れず支えているという関係性を明らかにした。それを受けてアメリカの認知科学者、ドナルド・アーサー・ノーマンが「椅子は人が思わず座るようにデザインされるべきだ」と解釈を加えた。人とモノ(対象物)の間に行動が介在しており、「行動を通じて人はモノと関わっている」という行動デザインの基本原理は、このような「アフォーダンス理論」が一つの基盤になっている。

「意味」からではなく「動詞」から考えよ!

読者の中には、今まさに「UIデザインやUXデザイン」の改善に取り組んでいる人も多いと思うが、それらが単なるWebページの視覚的な改善(デザインインタフェース)にとどまらず、直感的な操作を基にした、人と情報(コンテンツ以外のCTAボタンやリンクなども含む)のインタラクションをどう設計するかという課題であることは、すでにお気づきだろう。行動デザインはUIやUXにも活用可能なアイデアだ。なぜなら、多くのWebデザインはテキストや動画などのコンテンツを重要視し、その分、視覚以外の触覚や聴覚などを伴う身体的感覚を軽視しがちだからだ。

実はこうした身体的感覚が、強い体験記憶を形成し、行動を喚起する(その逆もあるから注意)。「意味」からではなく「動詞(=行動)」から先に考えよ、と筆者がいつも言っているのも同じことだ。人は意味を理解してから行動に移るのではなく、行動しながら(行動の中で)意味を理解していく身体的な生き物なのだ


身体的感覚の活用はWebデザインに限らず、商品開発などさまざまなな分野で応用が可能だ。例えば、「食べる」という動詞から商品を開発するとしたらどうだろう。「食べる」という動詞(=行動)は意味的には「食べ物」という名詞と同じ仲間だ。だから、ふだん「食べ物」とは意識されない「ラー油」と組み合わせてみる(食べるラー油)と「適度な不一致」効果が発生し、思わず試してみたくなる。同様に「飲む」という動詞に、食べ物である「カレー」を組み合わせる(カレーは飲み物)と、「それって何? どんな味?」となるだろう。このように、「ありそうなのに、意外になかった組み合わせ」には強い行動喚起力がある

次回は・・・

「レーンチェンジ」というキーワードで、「ありそうで、なかった組み合わせ」の活用法を紹介する。


國田
國田 圭作(くにた けいさく)
嘉悦大学経営経済学部教授、博報堂行動デザイン研究所フェロー(名誉所長)、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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