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「行動デザイン」を学ぶ第18回:普及率16%地点の捉え方

今まで連載で解説してきたイノベーション普及プロセスの初期(16%地点)に待ち伏せる決定的な曲がり角(「クリティカル・マス」や「ティッピング・ポイント」あるいは「キャズム」などと呼ばれる)について、どうやったら超えることができるかを考えてみたい。

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目次

「イノベーションの普及プロセス」についての復習

第15回の連載で、「イノベーションの普及プロセス」は「S字カーブ」を描くと解説した。

参考:連載第15回:普及、イノベーションについて

「S字カーブ」(シグモイド関数という渋い別名を持つ)は、実は正規分布のような山型(釣鐘型)のピークを持つ確率分布を累積させたものである。山型の正規分布グラフが示す山の頂点が最も反応率が高いポイントである。

例えば、コーヒー1杯の価格は100円以下から1,000円以上までさまざまに設定されているが、最も多くの人が飲むコーヒーの平均価格は大体300円前後だろう。横軸を価格、縦軸を飲用者数としてグラフを書くと、300円あたりを頂点とした山型のグラフが書けるはずだ。その時、飲用者全体を100%として、横軸に価格、縦軸に累積比率を取るとS字カーブを描く。おそらく100円のあたりで急に曲線が立ち上がり、600円を超えたあたりからは線は平坦になっていくだろう。平均に対して左右対称の正規分布の場合は、最初の変曲点が累積16%くらい、最後の平坦になる変曲点が84%くらいとなる。

イノベーションの普及が「S字カーブ」を描くとしたエベレット・ロジャーズは、新しい技術や製品の採用時期の違いに関しても正規分布が適用できると考えた。そこで、平均的な採用者に対し一種の「外れ値」として「人より早く新規格を採用する層(「革新者/イノベーター:約2.5%」と「前期少数採用者/アーリーアダプター:約13.5%」の計16%ライン)を想定した。つまり「一般的(標準的)」な人と、「一般的ではない人」の線引きがこのあたりにあるということだ

ロジャーズモデル(イノベーター理論)

ロジャーズモデルより

そこから、新製品の普及率が16%あたりを超えると、一気に社会全体に普及が広がるという「定理」が生まれたわけである。この「定理」は別名「クリティカル・マス(critical mass)」と呼ばれたり、閾値を超えて一気に普及する「臨界点」という意味で「ティッピング・ポイント」と呼ばれることもある。

S字カーブの立ち上げる地点の呼称一覧

「S字カーブの立ち上がる地点」を巡り、著者がまとめた表。クリティカル・マス、ティッピング・ポイント、キャズムを比較している

事実、電気洗濯機やエアコン、パソコンなどの普及率は10%〜20%あたりで急速に普及が拡大するS字カーブを描いている。

普及率16%前後を超えられるか?

だからといって、すべての新製品や新技術が16%ラインを超えれば一気に普及するというわけではない。社会的な背景としても高度成長期と、消費が飽和した現代では普及プロセスは違ってくるはずだ。

さらに、ジェフリー・ムーアは「キャズム理論」を掲げ、この16%ライン(ティッピング・ポイント)を超える困難さ、つまり「普及の溝=キャズム」に落ちる危険度の大きさを指摘した。実際、発売されてから結構時間が経つのに普及率16%ラインにまで届かず足踏みしている製品・サービス(例えばロボット掃除機)や、ようやく16%は超えたものの、爆発的・指数関数的な普及は起こっていない製品・サービス(例えば新電力や電動歯ブラシ)なども多数存在している。

では、どうしたらみなさんの会社の製品・サービスが「キャズム」を超えられるのだろうか。そもそも今どき、「万人向け」の製品・サービスなどほとんど存在しないので、どこまでの普及率をゴールに設定する必然性があるのか、については一度考えてみる必要がある

例えば、ハイエンド・ブランドのように世の中の1%が買ってくれればいい、というビジネスも存在する。その場合は、むしろキャズムを超えることは陳腐化につながり、希少性という付加価値を失ってしまう。逆に普及しすぎないように気をつけなくてはならない。

普及率16%前後を越えやすいタイプ

プラットフォーム・ビジネスのように、ゼロか1かという「勝者総取り」型の競争も存在する。規格間競争などでは、早期にキャズムを超えて一気に普及しないと、他の規格に負けてしまう。「みんなが使っているから、ますます使いやすくなる」(=ネットワーク外部性)という経済効果が働いて、「勝ち組」規格が指数関数的にどんどん強力になっていくからだ。

スマートフォンと、SNS(例えば、LINEアプリ)は、当初の予想を上回る速さで、一般的に後期採用者である高齢者層まで普及した。これは初期採用層である息子・娘夫婦や孫たちとつながりたいという強いニーズに加え、彼らのサポートが期待できるというリスク緩和の期待が伴っていたからだと考えられる。夫婦や家族で同じOS(アップルのiOSか、アンドロイドか)に揃えることも多いだろう。

こうした、他の人とのネットワークの中で機能する製品やサービスは、比較的キャズムを超えやすい。ファッションアイテム(衣類や装身具)は、外で他の人に自己顕示したり、仲間で揃えたりという行動が存在するので、これらも一種のネットワーク型製品と言える。だから、ファショントレンド(流行)が存在するのだ。

次回は・・・

イノベーション普及プロセスの初期(16%地点)について、様子見をする層はどうすると(「クリティカル・マス」、「ティッピング・ポイント」、「キャズム」を)超えてくれるだろうか? イノベーション普及プロセスの初期における「様子見層」への向き合い方について解説する。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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