競争優位をもたらすAI導入プロセスとはー日経デジタルマーケティングカンファレンスレポートー
AIを導入する企業は増加傾向にあるように感じます。少しずつ事例も出始めている。そう感じられるようになりました。しかし、多くの場合、導入したことは知ることができても、どのように考えて導入したのかという詳細なプロセスは開示されません。そこで今回は、昨年2017年に開催された日経デジタルマーケティングカンファレンスのセッションから「住信SBIネット銀行」のAI導入事例をご紹介したいと思います。
このセッションの最大の特徴は、具体的なプロセス(4つのステップ)を知ることができる点です。「住信SBIネット銀行」の菅野氏はコンサルティング会社出身ということもあり、実に論理的で説得力がありました。実際に、AIを導入しようとしている企業様にとっては、このプロセスは非常に参考になるかと思います。
【AI導入のためのステップ①】導入してから知見を貯めていく考え方を採用する。
菅野氏が最初のステップとして語ったのは、「AIの特性」を把握した上で導入方針を決めるという考え方です。「AI」という技術は新しい技術で、「AIの技術」によって利益を拡大した企業は基本的に今時点はない(おそらく)。そんな最先端技術を活用する上で大切な考え方は、「Quick&Dirty」を許容し、実験と評価を繰り返すことだと語りました。何が正しいのかは分からない中でどんなに会議をしても結論を導き出せないのであれば、トライ&エラーを繰り返すことが最も良い方法であるということです。
【AI導入のためのステップ②】AI技術の整理
住信SBIネット銀行では、次にAI技術の再整理を行ったそうです。「予測・推論」「パターン認識」「言語解析」「会話応対」といったAI技術を『学習能力の軸』と「間をおいて応答」「その場で学習して応答」という『応答能力の軸』で区分したそうです。その上で、各技術が自社のどの部署で適用可能か当てはめていったとのこと。そうすることで、どの部署ではどの技術を「使える/使えない」が明確になり、結果としてどのAI技術が自社では「使える/使えない」にもつながるのです。
【AI導入のためのステップ③】重点検討領域の選定
次に、これら「適用可能な技術」と「適用場所」を自社にとっての「コア領域」と「非コア領域」に分類します。ネット専業銀行として顧客価値の源泉となる部分とそうでない部分を区別することで検討すべき領域を絞り込んだのです。技術的にもオペレーション的にも予算的にも実施可能ではあっても競争優位性や差別化要因とならない領域にはAIを適用することを避けた。こうすることで、企業として意味のある領域でのトライ&エラーを繰り返すことが可能になったとのこと。
【AI導入のためのステップ④】トライ&エラー(POC=概念実証)
POCとは、「新しいアイディアを実現可能か試してみる。試した結果、実現できたか確認する」ということです。つまり住信SBIネット銀行は、AIの効果的な活用アイデアが実現可能か試してみる、そして結果、実現できたかを確認するという作業をしました。そのとき3つの点を重視したそうです。その3つとは下記の3点です。
- 「成功」の定義
- 複数概念の実験
- 設計の内製化
【1】の『「成功」の定義』をするのは、終わってからどう評価するのかを決めていては無駄な実験となってしまうからです。どうなることが成功なのかを明確にすることで正しい努力をするように努めたそうです。
【2】の『複数概念の実験』というのは、異なる角度からのアプローチを実施することで一つが失敗しても他の実験で成功できるようにしたということです。最初に記述したように未知なる技術を活用するわけですから、すべてが成功するわけではありません。失敗することを前提としても前に進めるようにしておくということです。
【3】『設計の内製化』というのは、未知なる技術である「AI」活用法を外部企業の力に頼ってしまうことで利益拡大の源泉が外部企業の能力に依存することになってしまう。先端技術だからこそ、社内で進めたとのことでした。
ここまでがAI導入におけるステップの概要です。AIを導入するに当たってどう考えたのかについて非常に分かりやすくそして実践的な考え方が示されていたと感じています。この考え方を使うことで業種にこだわらずAI導入の検討を進めることが出来るのではないでしょうか。
また、最後に菅野氏が語った「今後の課題」の中で2つご紹介します。
課題①:AIは最初は「子供」である。
精度向上には「教育」が必要であり、そのためにAI技術者との日常的な議論が必要。
「AIは最初は子供」という言葉に私はとても共感を得ました。データをAIに入れてしまえばそれだけで何か有益な特徴量が導かれるわけではなく、どんなデータをどのように入れるのかによってAIの精度が変わるということを強調していました。AIから有益な特徴量を導くためには、日常的に試行錯誤が必要であり、そのためのAIに精通した人材が絶対必要です。
課題②:「汚い」データからは粗悪な結果しか出てこない。
AIにおいてもデータ欠損値の補完などの地道な作業は絶対に必要ということでした。統計分析するときも同じですね。ここはAIにしても変わらない部分であり、データクレンジングは大切ということでした。