DX推進の一歩目にふさわしい業務【経理編】「デジタル・トランスフォーメーション入門」#9
自社で実際にDXを推進するにあたって、前回は法務部門を取り上げました。今回は経理部門について、データやテクノロジーの活用によってどのように業務効率化が図れるのかを見ていきましょう。
効率化を阻む要因を探る
みなさんは日本CFO協会をご存じでしょうか。日本CFO協会とは「日本企業の経理・財務をはじめとしたグローバルな経営管理手法と倫理の高度化を目的として発足した非営利団体」のことです。
2020年4月、日本CFO協会によって行われた調査では、70%ほどの企業が新型コロナの影響でテレワークとなったものの、そのうち41%はテレワーク中に「紙の書類への対応」などで出社する必要が生じた、という結果が出ています。
他にも、テレワークにならなかった30%の企業について、「書類や証憑証跡のデジタル化がなされていない」「PC を家に持ち帰ることができない」「会計システム含む社内システムがクラウド化されていない」「外部から社内の業務システムにアクセスできない」など、データを資産化し利活用するといったDXがうまく進んでいない現状が浮き彫りになっています。
新型コロナウイルスによる日本企業の経理財務業務への影響についての調査結果と考察について(日本CFO協会)プレスリリース / 調査結果
もっと専門性を活かせる体制にしよう
このような対応が生じてしまう背景には、大きく2つの理由が考えられます。
1.経理業務には、紙の書類が多い
2.経理業務には、定型業務が多い
経理部門は、他の部門と比べて請求書や領収書など紙の書類の扱いが多いです。そのため、データとしての処理が難しく、例えばハンコの確認、証憑書類の原本の保管など、人がマニュアルで処理する必要が出てきます。その結果、業務効率が下がる傾向にもあります。
また、紙の請求書の処理や入出金管理、紙の経費精算処理など、マニュアル化された定型業務が多いです。1つひとつの業務負荷は高くないものの、経理部門では膨大な定型業務を遂行する必要があるため、結果として業務負荷が高くなります。これらの問題点の解決には、DX推進が不可欠です。
2019年3月に発表された、「電子請求書TIMES」編集部が実施したアンケートによると、「経理・財務部門が本来担うべき役割」について、「会計処理などの基本業務」は1位ですが3割に届いていません。2位「経営戦略の提案」や3位「データ分析・提案」といった声にもっと注力すべきです。
つまり、紙からデジタルへと移行し定型業務を自動化できると、データ分析や経営戦略の立案など経理部門の専門性を活かせる業務にリソースを集中しやすくなる、と言えそうです。
業務ごとにスモールスタートを
「紙の書類が多い」という課題には、経理システムを導入してペーパーレス化を図り、業務を自動化することが近道です。しかしながら、一足飛びにすべてをペーパーレスへの移行は、ユーザーとしての社員の利便性や慣れ、さらに外部のベンダーとの関係性などを考慮すると、現実は難しいでしょう。
そこで、現状の業務フローをできるだけ変えずに効率化を図る進め方として、AIの活用で従来よりも高精度で文字を読み取ることができるAI-OCRサービスと、人が行う作業をコンピュータに記録させ再現することで、定型作業の自動化を図るRPA(Robotic Process Automation)がそれぞれ注目を集めています。これら2つのサービスの組み合わせによって、紙の書類の内容を高精度でデジタル化し、別の業務システムへと効率的な連携が可能です。
このように現状を一気に変えるのではなく、業務にあわせたスモールスタートを繰り返しながらステップを経て(例:AI-OCRサービスとRPAの導入→経費精算システムの導入→購買管理システムの導入→決算処理システムの導入)、徐々に経理業務全体のDX推進へとつなげていけると現実的です。
現代はバックオフィス業務の転換期
こうした一連のプロセスで重要なことは、最初の段階で究極的なシステムのグランドデザインを描いておくことです。最終的には、業務別に導入したシステムがシームレスに連携している必要があるからです。
前々回に取り上げた人事、前回の法務も含めて、バックオフィス業務は今後さらにデジタル化が進んでいくでしょう。現代は、バックオフィスの業務が変わる分岐点にいる、とも言えます。
次回は・・・
バックオフィス業務において、DXを導入した企業は数々あります。そうした企業のDX推進事例を取り上げます。
野澤 智朝(のざわ ともお)
現役マーケター。「ニテンイチリュウ」運営者。デジタルクリエイティブ、デジタルマーケティングに関するメディアで連載を担当してきたほか、各種記事の寄稿多数。