コンサルタントのコラム

ライオンの地域に適応するマーケティング ~マーケティングカンファレンス2017~

2017年10月22日(日)に日本マーケティング学会が主催する「マーケティングカンファレンス2017」に参加してきました。今後、数回に分けてカンファレンスで参加したセッションの内容をこの「マーケの強化書」にアップしていく予定ですのでお楽しみに!学会のカンファレンスなので学術的な内容をわかりやすく説明するように努めたつもりですが、難しく感じてしまう部分もあるかもしれませんがご容赦ください。

まず今回書かせていただいたのは、ライオン株式会社取締役上席執行役員榊原健郎氏の「日用消費財メーカーにおける国内事業戦略の方向性」というテーマの基調講演についてです。この講演は、国内人口減少・市場成熟化・価値観の多様化に直面したナショナルブランドが国内市場でどのように戦うことが出来るのか?特に『国内の各地域毎にどうローカライズするのか?』というテーマで開催されました。ローカライズというのは、各地域毎に施策を変え、各地域の特性に適応した施策を実施することですが、ライオンでは、各地域毎にコミュニケーションの内容を変えることで成果を上げた事例を紹介しました。

日本は、諸外国と比べると地域差がないと言われますが、各地域によってニーズや考え方が異なることはよく知られています。例えば、世帯当たりの貯蓄額は東京と沖縄では3倍以上の違いがあるし、世帯当たりのタクシー代支出では、1位の長崎県は群馬県の数倍もの違いがあったりします。市場が縮小していく中でこのような地域ごとの違いに適応していくことは、シェアを伸ばすための1つの方法になり得ます。

講演は、国内市場の現状を整理した上で、ライオンはどのような戦略を取っているのか?そして、具体的な事例(中国・四国地域で実施したコミュニケーション施策の事例)の説明という流れで進みました。

国内市場の動向について

まず、国内市場の動向についてですが、基本的にはこれまでも様々なメディアでも言われているように中高年層の市場が増加すると考えているとのこと。そのため、ライオンの戦略としても中高年層にフォーカスした戦略を実施しているとのことでした。皆さんも聞いたことはあると思いますが、下記のようなデータを提示していました。

・「販売個数は減少」していくが、「販売単価は微増」(2020年まで)していく。
・販売単価の微増は中高年層の清潔意識・健康意識の高まりによってもたらされる。
・若年層(29歳以下)の消費支出は低下傾向になる。
・中高年層は「いつもの店でいつもの買い物をする傾向」が強まる。(商圏が狭くなる)

 

ライオンの戦略について

このような現状においてライオンでは国内市場においては「高付加価値商品開発」と「新市場の創造」の2つの軸によって中高年層の取り込みを実施しているのだそう。国内市場は、2020年以降(東京オリンピック以降)はさらに縮小していくことが予想されるため「自社の質的成長」を意識して取り組む必要があると考えているそうです。人口が減る中で成長するためには他社からシェアを奪い取るか、新しい市場を創造するしかないわけですから当然と言えば当然の戦略と言えますね。

中国・四国地域で実施した「アクロン」のコミュニケーション施策

そして、ライオンがそんな中で実施している施策の1つとしてローカライズの話になりました。ライオンとしては製品自体に地域差を出すことはできないため、コミュニケーション施策を地域によって変えることで対応しているそうです。色んな地域がある中でも今回は中国・四国地域で実施した「アクロン」のコミュニケーション施策の事例を紹介していただけました。

ライオンの「アクロン」は「おしゃれ着洗い用洗剤」として販売されているものですが、この「アクロン」の売上を地域別で見てみると中国・四国地域の占める割合は非常に少なかったそうです。なぜ、中国・四国地域がこんなにも低いのか?を調査してみた結果、下記のようなことが分かってきたそうです。

まとめると中国・四国地域では、清潔さを求める傾向があるものの、クリーニングではなく家で洗濯する傾向がある。でも、「アクロン」は売れていないという状態ということです。これまでコミュニケーション施策としては、全国一律の「おしゃれ着用洗剤」として訴求してきたわけですが、中国・四国地域では上手くいってなかったということになります。では、どうコミュニケーション施策を変えれば良いのか?その施策を考えるためにさらに調査をしたそうです。その調査した結果は下記の通りです。

このような調査から、まず「制服洗濯のためのアクロン」という訴求方法があり得るのではないか?と考えたそうです。また「おしゃれ着」という言い方を中国・四国地域ではやめて「普段着ではない制服などに使える」という訴求方法に変えてみたとのこと。このコミュニケーションを基本として、地元企業とのタイアップや中国・四国地域限定でCMの内容を変えるなどの施策を試みたそうです。具体的には、下記のような施策を実施したとのこと。

  • 学生服メーカー(カンコー社)とタイアップし、保護者へのセミナーの時に「アクロン」での洗濯の仕方を教えたり、制服の採寸時にサンプリングを実施。
  • CMでは桐谷美玲さんの「おしゃれ着に使える」ではなく「買った状態が長持ちする」という訴求に変更。
  • 中国・四国向けCMのみ最後に「制服にも!」というコメントを入れた。
  • 昨年春にナチュラルソープの香りの「アクロン」を新発売。

結果、2016年春以降からは1.15倍の売上を記録しているとのこと。現在でも好調を維持しているそうです。

榊原氏は最後にこんなこともおっしゃっていました。

『「おしゃれ着洗い」はあくまで企業目線でした。こう使って欲しいという企業の勝手なお願いみたいなものです。しかし、時代の変化とともに潜在的な不満は変化するし、地域によってニーズは違う部分もある。なので、ライオンでは徹底した調査を常に実施しています。そして、その調査は「ask(質問する)」ではなく「listening(聞く)」ということを徹底したものです。その取り組みが今回の施策と結果につながったと考えています。』

また、この基調講演後のパネルディスカッションではこんなことも言っていました。

『私がライオンに入社したとき、ライオンはオーラルケアの市場で6割のシェアを持っていました。しかし、今ではたったの3割のシェアになっています。このシェアの減少は一気に奪われたのではなく、知覚過敏用歯ブラシなど、どこかに特化した商品によって少しずつ剥がされていくように減少していったんです。』

もしかするとライオンがシェアを失ってきた歴史は、価値観の多様化が進んだ歴史とも言えるのかもしれませんね。そんな苦い経験をしてきたからこそ、ここまでしてお客様の声を常に聞く体制を整え、施策に活用しているのかもしれません。小さな変化でもそれにきっちり対応していくことで、少しずつ剥がされていったシェアを取り戻そうとしているのかもしれないと感じました。

人口減少・市場成熟化・価値観の多様化の時代を生き残るには、マーケティングが重要

人口減少・市場成熟化・価値観の多様化は、大企業でも零細企業でも大きな問題です。そんな時代にどうすれば生き残っていけるのか?この基調講演を聞いて私も色々と考えさせられましたが、私は業界の特徴や自社の特徴(強み・弱み)を見極めた上で自分たちが勝ち残ることができる「どこか」にフォーカスしていくことが大切なんだと考えています。多様化したお客様すべてに対応することはナショナルブランドでさえ難しくなってきた(前述のように何十年にわたって多様化が進んできた)中で「全てで勝つのではなく、どこかの分野では必ず勝つ」という戦略なしにこれからの時代を生き残ることはできないと思います。

そして「どこにフォーカスすべきか?どう進んでいくべきか?」という重要な課題を解決できるとしたら、それはマーケティングしかないと思います。消費者・自社・競合を見据え、どのような切り口で生き残っていくのかは、まさに「マーケティング戦略」です。ライオンのように徹底した調査を常に実施することでお客様の変化に素早く対応することができるのも一つの強みでしょうし、埼玉県を中心に店舗展開し高い利益率を誇るスーパーのヤオコーのように地理的な部分で強みを発揮するのも一つの方法だと思います。(ヤオコーは基調講演後のパネルディスカッションで話に上りました)マーケティングをどれだけ実践できるかが生き残れるかどうかの大きな分かれ道になるのだと強く確信することができた講演でした。

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