数字に強いマーケターになろう!【バイアス】
KPIの精査、ビジネスや成果のシミュレーションなどデジタルマーケティングに数字はつきものです。ただ、意外と苦手なんだよね・・・という方も多いはず。
という訳で、今日から『数字に強いマーケターになろう』と題して、統計学や数学の難しい話はしないけど、マーケティングやリサーチの基礎知識、日常的に目にする数値やデータ分析を行う際に必要な視点、つまりあなたの『数字への強さ』を強化していくシリーズを始めてみたいと思います。どこまで続けられるか分かりませんが。
バイアスについて
第1回目のテーマは『バイアス』です。
バイアスを三省堂大辞林で引いてみると
バイアス [0] 【bias】
(1)布目に対して,斜めに裁つこと。バイヤス。 「布地を-に取る」
(2)バイアス-テープの略。
(3)トランジスタなどを作動させるために加える電圧。
(4)考え方や意見に偏りを生じさせるもの。 「発言に-がかかる」
このように書かれています。数字を扱う上でのバイアスは(4)の意味合いです。
バイアスの語源は斜めや傾斜を意味するそうです。そこから、偏りを生じてさせるものや見方、考え方の偏りと意味が変わっていったそうです。
スタジアム観戦者調査を例として
さて、私の大好きなサッカーリーグでは、観客の動向を把握するために、年に1度「スタジアム観戦者調査」という調査が行われています。
調査概要を以下に記してみます。
[調査時期]2018年4月21日~10月14日
[調査対象]スタジアム観戦者、11歳以上の男女個人:23,416 名
[調査方法]スタジアム内における集合配布法を用いた質問紙調査法
[回収状況]有効回収数:22,657 票
出典:スタジアム観戦者調査2018 サマリーレポート
調査対象の詳細を見てみると、各チーム1回ずつ、収容人数が多いスタジアムのチームでも、少ないスタジアムのチームでも、おおよそ400~500人に対して調査のお願いをし、ほぼほぼ回収できていることが分かります。
今日はこの調査を例にバイアスの考え方、バイアスを見つけたというお話ししたいと思います。もちろん、コストなどいろいろな制約を受けながらの調査だとは思うので、「この調査が正しい。」とか「間違っている。」ということではなく、潜んでいるバイアスについて考えてみたいと思います。
2つのバイアスの可能性
とてもサッカーが好きな立場からすると、今時点でのやり方には、大きく2つのバイアスが発生してしまう可能性があると思われます。
- 調査対象日
- 調査時間
のバイアスです。それぞれ詳しく見てみましょう。
1.調査対象日のバイアス
まず、調査対象日です。調査の概要を見ると、調査実施日は春先から秋口まで幅広く実施されていることが分かります。天候もさまざまです。“雨一時雷”という悪天候で調査を実施した時もあったようです。当然悪天候であれば屋外のスタジアムの場合濡れてしまいますので、小さなお子様がいらっしゃる方などは、せっかくチケットを持っていたとしても行くことを躊躇してしまう可能性もあるでしょう。
また、対戦クラブもまちまちです。ダービーマッチが調査対象日となっているチームもあれば、人気チームを相手にした試合が調査対象日のチーム、逆にそれほどお客さんが多くなさそうな対戦カードが調査対象日となっているチームとばらばらになっています。優勝争いに向け成績も良い状態。ライバルチームとの対戦となれば、もしかしたら前売り券は完売。プレミアチケットになる可能性だってあります。逆に、順位は低迷。相手チームもそれほど人気がないとなれば、集客は遠のくでしょう。
この調査では1つのチームで1年に1度の調査をおこなっていますので、結果が上記のような条件に左右されてしまう可能性の元での調査であるという理解をしておく必要がありそうです。
2.調査時間のバイアス
続いては調査時間です。私もスタジアムで一度この調査に回答したことがあるのですが、その際は、アンケートの配布は試合の始まる数時間前に行われていました。
さて、あなたはスタジアムでスポーツ観戦やライブ観戦をする際、開演の何時間前に会場へ到着しようと予定を組むでしょう?
30分前でしょうか?2時間前でしょうか?
私が調査に参加した際は2時間近くキックオフまで時間があったと記憶しています。試合開始2時間前に会場を訪れているファンは、かなり熱狂的なファンの可能性が高いといえます。
Jリーグを始めとするプロスポーツでは、おおむね指定席と自由席とが用意されていることが多いですね。自分の見る位置が固定されている指定席のチケットを持っている場合、そんなに急がなくても自分の席は確保されているわけです。逆に自由席の場合、早めに行かなければよい位置で見ることができません。
このことから、試合開始のかなり前に調査をおこなってしまうと、回答者は自由席を確保したい熱狂的なファン=サポーターの割合が多くなってしまうと推測できます。
いろいろな実施条件でこのような形で調査がなされていると思いますので、その結果にケチをつける訳ではありませんが、数字を見る際にはこうした『バイアス』(バイアスとまではいかなくとも結果を左右しかねない要因)を見抜く視点が大事だと言えます。
数字を鵜呑みにするのではなく、これはどうした手法で行われた調査の結果、どういった手法で集められた結果出た数字なのかな?と少しフラットな立ち位置から数字を見てみるとよいでしょう。
昔々の失敗談
15年以上前の話になりますが、こんな失敗話を聞いたことがあります。
旅行会社の認知度調査の話です。
ネットリサーチの結果が出そろうと『〇〇トラベル』の認知度や利用経験がやけに高い結果になっていたそうです。通常の調査、他社が行った調査よりはるかに高い認知度、利用経験になっていました。
色々な仮説をもとに検証したのですが、なんのことはありません。今回調査を実施したネットリサーチ会社が『〇〇リサーチ』だったというオチだったそうです。
今や老若男女、小学生の子どもでさえスマホでインターネットに接触する時代になっていますが、当時はそれほどスマホも普及していません。iモードでガラケーからアクセスしていた時代です。当時は、ネットリサーチ会社は各社の調査パネルの募集方法が異なり、場合によってはサンプル母体に偏りがありました。
現在ではアンケートまで実施しなくても、サイトに来ている方のデータや数値が、リアルタイムで取得出来ます。マーケターは様々な数値を見ている時に、数字だけを追うのではなく、数字の奥にある理由や人の心情を読み込めるよう引き続き一緒に学んでいきましょう。
本日のマーケティング用語
バイアス:偏り。
主に調査やデータの偏りについて指摘する時に使われる。
布の端を始末するのに使うバイアステープは語源に近い使われ方。
用例:「この調査ってバイアス入ってんじゃない?」
「こんな聞き方したらバイアスが入るに決まってんじゃん」