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「NPSは収益に直結する指標だ」ソニー損保の顧客ロイヤルティ戦略の秘密 第1回

ソニー損害保険株式会社
CXデザイン部長
片岡 伸浩 様

高い顧客満足度を誇り、ダイレクト自動車保険市場では、他社を大きく引き離して14年間売上一位の地位を維持してきたソニー損害保険株式会社(以下、ソニー損保)。そこには、お客様に対してフェアでありたいという企業文化から生み出される、優れた顧客体験の創出があった。

「顧客利益を最優先することが結果的に自社の収益向上につながる」という考え方の正しさを実証しているソニー損保が、具体的にどのような取り組みを行ってきたのか、CXデザイン部長 片岡氏にお話しをお聞きした。


■収益に直結する指標であるNPSが与えた社内へのポジティブな影響
■他社には真似できない顧客体験によって差異化を図る
■スペック競争でも価格競争でもなく、いかにしてお客様に愛される保険会社になるか?


14年連続売上1位の理由

-まず始めに、御社の事業の現状についてご説明いただけますでしょうか。

片岡氏:当社はソニーグループの一員として1998年に設立され、営業開始は1999年です。最初から主にインターネットと電話を使って加入いただくダイレクトビジネス専業で始めました。

ダイレクト自動車保険については、当時、既に何社か先行する会社がありましたが、伸び悩む会社や撤退してしまう会社もある中、おかげさまで当社はダイレクト自動車保険の中では14年連続売上(保険元受正味保険料)でナンバーワンの位置をキープしています。

-2015年度の自動車保険の売上は二番手のおよそ2倍、約850億円とダントツの1位ですね。

片岡氏:自動車保険の保有契約件数でいうと165万件となっています。ある外部調査機関によれば、事故対応時の満足度も2年連続のNo.1です。Webサイトやコールセンターでのサポート状況も同じく外部評価で高評価を頂いています。

出所:ソニー損保公式Webサイト

-14年間連続、ダントツ1位の理由はどのようなところにあるとお考えでしょうか。

片岡氏:いくつかの要因があると思っています。ひとつには、「走行距離」などに応じて保険料が決まる「リスク細分」型の自動車保険であり、お客様にとって納得感が得られやすく、わかりやすい「商品性」があると思います。

その他にも、もちろんソニーグループであるという「ブランド力」もあったと思いますし、「口コミ評価」も大きいと思いますね。事故対応やロードサービスの対応が実際に良いことと、外部評価も高いので、「ソニー損保いいらしいよ!」という認識がお客様の中にも形成されてきました。口コミ評価に加えて、先ほどの商品性やブランド力によって相乗効果を出すことができたのが成長要因ではないかと考えております。

収益に直結する指標であるNPSが与えた社内へのポジティブな影響

-なるほど。自動車保険は1年更新ですから、新規契約数を増やすだけでなく、既存契約者の評価が高く、その結果としての「リピート率」が高くなければ売上は年々積み上がっていかないわけですよね。

片岡氏:そうですね。そこが、NPS(Net Promotor Score:ネットプロモータースコア*)を導入した理由でもある訳です。当社では、2013年にトライアル的にNPSを取ってみました。先ほど申し上げたように、これまで当社の顧客満足度はずっと90%台をキープしておりいわば高め安定の状態でした。社内でも「今のままでも、満足度は毎年90%台で維持できてるよね・・・」という雰囲気でした。

*(編集部注)「NPS」とは顧客満足度を測定する指標の一つで、知人などへの推奨意向を0~10までの11段階で聞いた結果から、顧客を「推奨者」「中立者」「批判者」の3つに分類した上で算出する数値である。NPSの数値が高いほど顧客ロイヤルティが高い。NPSの数値を向上させるためには、「推奨者」を増やすこと、また「批判者」を減らす施策に取り組む必要がある。

しかしいざNPSを取ってみると、決して悪い数値だということはないのですが、必ずしも安心していられる状況でもありませんでした。実際、顧客インタビューで継続理由を調査したところ、「他社検討が面倒」などの消極的理由によるものが思ったよりも多いことが分かりました。つまり、お客様の中には、「ソニー損保だから」と、契約更新時に積極的に選択してくれているわけでない方もいらっしゃるということです。

そして、さらに調査を進めると、NPSの数値と継続率、また好意的な口コミの回数とも正の相関関係があることが確認できたのです。すなわち、NPSを上げることはリピート率向上新規獲得数増加につながるということです。要するに「NPSは収益に直結する指標である」ということですから、経営にとっても大変インパクトがある、重視すべき指標となります。

当社においても、NPSを導入することで、「NPSを高めると収益が向上する」という前提で顧客ロイヤルティ施策を展開できることから、従来の「お客様の満足度」と異なり、「ROI」の話に持ち込めるようになったことがNPSの大きな意義だと思います。

同時に、NPSの活用は社員の「従業員満足」や仕事のやりがい向上にもつながります。収益性向上は会社としては最も重要ではあるものの、現場の社員にとってはもう1つピンと来ない場合もあります。しかし、NPSの向上を目指すことは、お客様に「薦めてもらう」こと、すなわち「ロイヤルティを上げる」ことを目指すことですから、NPSは、各自の持ち場でどんな行動をとるべきかの明確な指針となるのです。

「顧客満足度調査」は、どちらかと言うと「不満点」を見つけるためのものでもあり、至らない点があるとそこばかりフォーカスされて「怒られネタ」のようになっていました。しかしNPSにおいては、「推奨される」ために、「私の職務においては、お客さまにどんなことをしてあげたらいいのだろう?」という前向きな考え方をするようになるのです。

-NPSは、経営者層だけでなく、それ以外の社員のそれぞれに対してもポジティブな効果を与える指標なんですね!

片岡氏:はい、そうです。

他社には真似できない顧客体験によって差異化を図る

片岡氏:NPSとは結局、「顧客価値」=ロイヤルティを計測して数値化しているものです。この顧客価値は、1つは商品やサービスのスペック、すなわち補償内容や保険料などの商品そのものの内容と、無料ロードサービスなどの商品に付随するサービスの内容で決まります。

しかし、保険商品には特許という制度はないため、これら商品スペック自体での差異化は困難です。たとえ業界初の商品やサービスを投入しても、すぐに他社が追随して類似のものが出てきます。当社が「走る分だけ」という商品を出すと、似たような保険がどんどん増えました。また、付随するサービスもすぐにスペック競争に陥ります。このような状況は、あまりお客様にとって価値のないニッチなところでの競争になりますし、行き着く先は価格競争になってしまいます。

しかし、商品スペック以外に顧客価値の良し悪しを決める要素があるのです。それが、「顧客体験」です。
お客様にとってあまり意味のないスペック競争をするよりも、顧客体験の方が差異化の余地が大きい。

また、顧客体験においては、企業カルチャーに根差したものもありますので、競合がやっているからといっても、そうすぐには真似できないものです。
そこで、当社では「優れた顧客体験」の提供に取り組むことが競争優位性を保つために重要だと考えたのです。

どの業界においても、このような理由から最近、「CX(カスタマーエクスペリエンス)」の重要性が叫ばれているのだと思います。

スペック競争でも価格競争でもなく、いかにしてお客様に愛される保険会社になるか?

-従来のマーケティングの考え方では、商品自体は「本体価値」、そして、商品に関わる顧客体験部分は「付加価値」といった位置付けになりますが、現在は、その付加価値的な部分が他社には見えづらく、また真似することが難しい差別化要因となるため、顧客体験により一層力を入れる必要がある、ということでしょうか。

片岡氏:はい。当社が成長するために取るべき基本戦略は、スペック競争でも価格競争でもなく「いかにしてお客様に支持される保険会社になるか?」ということだと考えています。お客様にとって最愛の会社になることを目指すので、私はこれを「最愛戦略」と呼んでいます。「最愛戦略」はコミュニケーションデザイナーの河野武さんが提唱されていて、私自身が以前から強く共感している概念です。

-最高でもなく最安でもない、「最愛」とお客様が思ってもらえる企業を目指すということですね。

片岡氏:はい、当社がこれまで取り組んできたCX改善によるロイヤルティ向上の活動の根底にあるのは、「最愛戦略」の考えと同じだと考えています。

次回は・・・

ソニー損保片岡様独占インタビュー第2回は以下の内容でお伝えします。

  • お客様側の保険会社でありたい。だからあえて”ありのまま”に伝える
  • 短期的には損をすることでもありのまま伝えることでロイヤルティが向上
  • 部門横断でカスタマーエクスペリエンス改善に取り組む
  • 課題を効果的に解決するためには「構造化」が重要
  • NPSへの本気度が試される、部門長クラスによる批判者への即時ヒアリング
  • 今後の課題は、推奨者づくりと競争優位性を確保するための企業文化の醸成
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株式会社ジェネシスコミュニケーション

ジェネシスのマーケティングプロフェッショナルが編集を担当。独自の視点で厳選した実践的ナレッジをお届けいたします。

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