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14年連続売上ナンバーワン ソニー損保の顧客ロイヤルティ戦略の秘密 第2回

ソニー損保 片岡伸浩氏
ソニー損害保険株式会社
CXデザイン部長
片岡 伸浩 様

高い顧客満足度を誇り、ダイレクト自動車保険市場では、他社を大きく引き離して14年間売上一位の地位を維持してきたソニー損害保険株式会社(以下、ソニー損保)。そこには、お客様に対してフェアでありたいという企業文化から生み出される、優れた顧客体験の創出があった。

「顧客利益を最優先することが結果的に自社の収益向上につながる」という考え方の正しさを実証しているソニー損保が、具体的にどのような取り組みを行ってきたのか、CXデザイン部長 片岡氏にお話しをお聞きした。


■お客様側の保険会社でありたい。だからあえて”ありのまま”に伝える
■部門横断でカスタマーエクスペリエンス改善に取り組む
■課題を効果的に解決するためには「構造化」が重要
■NPSへの本気度が試される、部門長クラスによる批判者への即時ヒアリング
■今後の課題は、推奨者づくりと競争優位性を確保するための企業文化の醸成


お客様側の保険会社でありたい。だからあえて”ありのまま”に伝える

お客様の口コミ評価
※「ご不満」の声を含め、ソニー損保の評価・評判をありのままに公開致します。

片岡氏:始めた時期はそれぞれ異なりますが、当社のお客様側の保険会社であろうと取り組んできた具体的な事例をいくつかご紹介しましょう。

例えば、お客様の口コミ評価をネガティブな評価も含めて全件Webサイトに掲載しています。さすがに名前などの個人情報はマスキングしていますが、それ以外の内容は当社に都合が悪くても、お客様側の誤解であっても全件そのまま公開しています。

自社に不利なものも含めた情報の「両面提示」の考え方は、当社が以前からWebサイトのコンテンツやその他お客様とのコミュニケーションを取る上で大切にしている価値観です。都合のいい情報だけではなく、「ありのまま」の状態をお伝えし、その上でソニー損保が本当に信頼に足る会社かどうかをお客様自身に判断していただきたいな、と思っています。

その他にも、当社のサービス内容について誤解を招かないように、競合と比べて不利な点も含めてしっかりと掲載している「ソニー損保について知っておいてほしいこと」というコンテンツもあります。

-このような「ありのまま」を伝えてしまうやり方に対し、社内では異論は出ないのでしょうか。

片岡氏:それはないですね。正直にやっていこうという創業当時からの企業文化的なものがありまして、むしろ弊社に関する良い情報のみを前面に押し出すような偏った表現だと、「それは(お客様に対して)フェアじゃないんじゃないか?」というような声が聞かれたりするほどです。

短期的には損をすることでもありのまま伝えることでロイヤルティが向上

片岡氏:その他にも、関東地方で大雪があった際にカーポートが崩れて車に傷がついたりすることが多数発生した時のエピソードがあります。大雪の影響で”カーポート”でのツイート数やキーワード検索数が大幅に増えていました。

よく調べてみると、Q&Aサイトでは事実と異なるデマが出回っていました。それは「カーポートが崩れて車に被害があった時の対応は、フルカバー型の一般車両保険に入っていないといけない(正しくはエコノミー型の車両保険でも補償される)」「ダイレクト自動車保険の場合は補償されるかどうか、すべて自分で判断しなければならない」というようなものです。実際には、エコノミー型の車両保険でも補償されますし、ダイレクトの自動車保険でもご相談いただければ対応可能ですから、明らかに間違った情報だったのです。

そこで、当社は、そのようなケースやその他屋根からの落雪による損傷も車両保険の対象になることを、Webサイトに掲載するとともに、ご契約者の皆さまにメールでも一斉配信しました。これに対してお客様からは、多くの感謝や賞賛の声が寄せられました。

片岡氏

同様に、契約途中で誕生日を迎えた場合には、より保険料が安くなる年齢条件に変更できることをメールでお知らせしています。その際、すでにお支払いいただいていた保険料と、新たな契約条件に基づいて安くなった保険料との差額を返金することも併せてお伝えしています。
年齢に応じて契約条件を変えることができ、保険料が安くなる可能性があるといったことを認識されていないお客様も多くいらっしゃるからです。

このようなご案内をすることは一時的に当社の収益を圧迫する恐れはあるのですが、結果的には継続率に好影響を及ぼしていることが検証できています。これは顧客本位で行ったCX向上が長期的には財務的な好結果を生み出すことになる、という良い事例ではないかと思っています。

部門横断でカスタマーエクスペリエンス改善に取り組む

-片岡さんが統括されているCXデザイン部の主な役割を教えてください。

片岡氏:CXの質やNPSを高める様々な企業活動を推進する事務局のような位置付けですね。たとえば、顧客体験の可視化を目的とするカスタマージャーニーのワークショップを自前で内製化して実施しています。CXデザイン部のスタッフがファシリテーター役で、現場(顧客対応部門)のコールセンターのスタッフなどと一緒にカスタマージャーニーを作り、課題を洗い出すワークショップを行っています。

カスタマージャーにマップをもとに各タッチポイントにおけるお客様の気持ちや行動を洗い出す

ワークショップでは、カスタマージャーニーマップを基に、各タッチポイントにおけるお客様の気持ちや行動をわれわれがファシリテーションしながら洗い出すという作業から入ります。コールセンターやマーケティング部門などの部門長、マネージャクラスの方々が参加しますが、一旦各部門の立場を忘れて、純粋にお客様の視点で洗い出すということを特に意識しています。「これはこういう事情だからしょうがないんですよ」のような言い訳モードに入らないようにルールを明確にして行っています。

ただし、ワークショップで出てきた課題は一種の仮説ですので、いきなり解決に着手するのは適切ではありません。そこでわれわれは、コールセンターの通話録音を聞いたり、現場にヒアリングを行ったりしてその課題を裏付ける作業をしています。しばしば、現場がすでに答えを持っている場合があるからです。

こうして裏付けを十分に取った上で、プロトタイプの形で改善策のテストや修正を行ってから本運用に入ります。こうすることで施策の成功確率が高くなります。

課題を効果的に解決するためには「構造化」が重要

片岡氏:また、3カ月に1回ぐらいの頻度で、部門横断で大きな改善テーマに取り組む「NPS向上会議」というものも実施しています。同会議では、NPSを向上するための課題を解決していくにあたって、まず「課題の構造化」という作業を行っています。課題一つひとつに対してやみくもに対応策を出しても、数が多すぎてどこから手を付けたらいいのか途方に暮れるからです。

そこで、カスタマージャーニーに沿って様々な課題を抽出した後、課題を一定の切り口でグルーピングしていきます。ただし、「Webサイト」や「レター」に関することなど課題の属性でカテゴライズしてもあまり意味がありません。むしろ、それぞれの課題の背後にある「お客様の心理」でグルーピングすることによって、「○○に対する不安がある」や「××が分かりにくい」など、根本的な原因を特定していくことができます。

-なるほど。顧客のNPSに大きな影響を与える、大元の原因に遡っていくような構造化を行うのですね。

片岡氏:はい。その根本原因を解消するような改善施策をぶつけることで成果も出やすくなります。このようにNPSを共通言語にしてCX改善に取り組むことで、以前は少なからずあった部門間でのせめぎあいや、部門長と部下との間で発生する認識や価値観の隔たりなどのも減少しました。

NPSへの本気度が試される、部門長クラスによる批判者への即時ヒアリング

片岡氏:その他のNPS向上施策としては、役員を含む管理職による批判者層(推奨意向が低かったお客様)へのアウトバウンドコールを継続的に実施しています。最初はNPSの取り組みに対するインナーブランディング的な意味で始めました。管理職が自らコールセンターの現場でアウトバウンドコールをする姿を見せることによって、会社の本気度を示すことになりますので。

発信はアンケートの回答をいただいてから2営業日以内に行っているのですが、いざアウトバウンドしてみると、お客様の反応が意外に良いんです。批判者層のお客様に電話すると厳しく言われてしまうのかな?と思っていたのですが、「そんなことでわざわざ電話してきてくれてありがとう」と言われるケースが多くあります。「ついでに聞きたいんだけど…」という風に話題が続いて、不満のリカバリーだけでなく、お客様からの信頼感の獲得につながっているケースも多いと思います。

批判者ヒアリングからお客様の生の声を収集

-すごいですね。NPSのテキストに書かれていたことをすべて実践されているんじゃないでしょうか。確実にNPSが向上すると思います。

今後の課題は、推奨者づくりと競争優位性を確保するための企業文化の醸成

-最後に御社の今後の課題についてお聞かせいただけますでしょうか。

片岡氏:やはり「推奨者づくり」ですね。難易度が高いのですが。そして、このために重要なのが「企業カルチャー」だと思います。全従業員が、お客様に優れた体験を提供するためにどうすべきかを自発的に考えて行動できる企業カルチャーを醸成することが必要なのではと考えています。そういうものがなければ結局は競合に真似されるだけで、本当の意味での差異化を図るのは難しいと思います。

-今までのお話しを聞く限りでは、そういった企業カルチャーを生み出す土壌はすでにあるように感じます。さらに高い水準で、すべての社員が自社の付加価値を高めることを考え続けるようなマインドを根付かせる取り組みをやっていきたい、ということでしょうか。

片岡氏

片岡氏:はい。やはり会社が大きくなってきて従業員数も増えてくると、創業時の思いというものもだんだんと浸透しなくなってきます。コーポレートスロガーンである「Feel the Difference」も、オフィス内の目に入る場所に張り出されてはいますが、それが果たしてどれだけ日々の行動指針として機能しているのか?と問うと、やはりその効果は徐々に薄れてきているように感じます。

ここ数年顧客ロイヤルティを高めるための様々な活動をしてきた今、「ソニー損保のコアバリューというのは何なのかをもう1回再定義しなければならない」ということを強く感じています。それがやはり一番の競争優位の源泉ですし、そこを磨いていくとさらに強い会社になるんだろうなと思います。

-「競争優位性は企業文化で確立していく」ということですね。さらなるご発展をお祈りしております。本日はお忙しい中ありがとうございました。


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株式会社ジェネシスコミュニケーション

ジェネシスのマーケティングプロフェッショナルが編集を担当。独自の視点で厳選した実践的ナレッジをお届けいたします。

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