(制作の)発注・依頼をうまく進めたい! デザイナーをプロジェクトに入れるタイミングを考える その2
同じ制作現場でも、ディレクター、デザイナー、クライアント……、それぞれ異なる立場で何を考えているのでしょうか? 前回に続き今回も、具体的な実務の場面を想像しながら、立場の違いから生まれる齟齬と、齟齬が生じないためにできることが何かについて、考えます。『思わずクリックしたくなるバナーデザインのきほん』の著者であり、福岡のWeb制作会社、kanvas株式会社の代表取締役を務めるカトウヒカルさんと意見交換を行っています。
- 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長
サンプルサイトの提示は、必ず複数で!
田代
今回も前回に続いて、制作現場に関わる人間の立場の違いについて、Webサイト制作案件の進め方を一例に挙げながら、話を進めていきます。最初に前回と同様、発注からデザイン依頼に至るまでの進め方についてまとめた、5つの段階を共有します。
❶ クライアントからオリエンテーションを受ける(※目的など要望はすべて聞けている前提)
❷ 粗目の粒度で、コンテンツのボリュームや肝になるコンテンツの要素、撮影取材の有無などを検討する
❸ 粗目の粒度で検討した内容をベースに、クライアントと対話し、方向性のズレや予算の確認などを行う
❹ ❸で生じた意見、フィードバックなどを反映してコンテンツマップやワイヤーフレームに落とし込む(※ワイヤーフレームは主要ページから作成)
❺ クライアントと認識や見解のズレがないことを確認した上で、デザイナーに相談する
田代
ディレクターが上記❶~❺を順番に進めていく際に、「どの段階からデザイナーがコミットするといいか?」を考えます。最初の❶から入るべきか? 負担や手間を考えたら❺以降でいいのか? ❶から入る場合、その稼働分は報酬として担保されるのか。現場を巡る、各々の立場から出てくる本音や勘違いを明らかにしていきたいです。
カトウ
前回は、現場で飛び交う言葉の意味をすり合わせられれば、という話でしたね。例えば、「デザイン」という言葉をディレクターとデザイナー、クライアントで本当に同じ意味で使っているのでしょうか?
田代
理想は、関係者同士ですり合わせができることです。もしくは、クライアントの発言から真意を汲み取り、制作チーム内で汲み取った内容を共有しておく重要性を確認しました。この文脈で話を続けると、他に何か挙げられそうですか?
カトウ
参考サイトの挙げ方、ですね。現場では参考になるWebサイトを挙げていただくことがありますが、過去には、提示された参考サイトを「配色の傾向を参照するといいのか」と推測し進めたら、「色の使い方が、自分たちのイメージよりも重たく感じる」と言われて、差し戻しになったことがありました。それまでの打ち合わせ時では、色使いを気にしていたため、つい誤解してしまったのです。
田代
参考となるサンプルの出し方と、扱い方にも注意が必要、ということですね。
カトウ
はい。どこをどう参考にするのかを、はっきりと説明してもらえば誤解を回避できます。思い込みは禁物で、双方で言葉にしての確認が大事です。もっと理想を言うなら制作サイドはクライアントに、1つだけではなく複数のサンプルを挙げてもらいましょう。A案、B案、C案……と複数で提示してもらい、Aは色、Bは構成、とどこを参考にしてほしいかをはっきりさせて共有できると、より差し戻しが減るはずです。
田代
サンプルが1つだけだと、その1つにイメージが絞られる懸念もあります。参考にしなくていい部分まで、サンプルサイトのイメージに寄せかねないので、複数を挙げることが偏った参照を避けることにもなりますね。
イメージを持たない相手と、どう向き合うべき?
田代
サンプル提示の話を続けると、クライアントの中には「イメージを持っていない」場合や、「サンプルサイトを探せない」という相手もいらっしゃいます。その時は、「普段見ているWebサイトの中からでいいので、気になるWebサイトを挙げてほしい」とお願いしています。
カトウ
その問いかけは、相手の答えを引き出しやすいですね!
田代
身近なサイトから「この雰囲気が好き」「これは使い勝手がよかった」と伝えてもらえるだけでも、想定イメージの裏づけを具体的に探れます。後は、いくつか挙げてもらった中から共通項を見つけたり、クライアントが本当に望んでいるイメージを見出したりすることが僕たちの仕事ですので。
カトウ
イメージがないので、「これは違う」ばかりを伝えてくる相手にも遭遇します。田代さんの話のように、制作側が補助線を出すことで、クライアントが返答しやすくする工夫が必要ですね。それによって、「今の話は好みで言っていたのだな」「こちらは、この部分の参考で挙げているぞ」など、ヒントを得られることになります。
田代
すれ違いは、「自分たちのことをわかってくれない」というクライアントの不信感につながります。少しでも具体的に進めて、それぞれの立場の思い込みや誤解を避けたいです。
カトウ
僕の場合、よくイメージボードを作って、早めの段階で「今の話は、どのイメージですか?」という話をしています。その際にあわせて意識するのが、イメージとコンテンツとの調和具合です。いくら理想のイメージを持っていても、コンテンツと合わないとイメージが機能しません。クライアントとは、目的やコンテンツを最適に伝えるためのイメージであることも、こうしたやり取りの中でわかり合いたいと思っています。
イメージが固まりすぎている相手とは、どうする?
田代
逆に、あまりにもイメージがガチガチに固まっている場合はいかがでしょうか? やりづらいですか?
カトウ
クライアントが、デザイナーに何を求めているのかについて、探る時間が欲しいですね。クライアント側に、あらかじめ望んでいるデザインの方向性があるなら、最初にその理由を知りたいです。あるWebサイトのリニューアル案件であったのは、発注元の社内で稟議を通すために用意した便宜上のサンプルイメージが、そのまま「この通りならOK」で合意形成されていたケースです。
田代
社内がサンプルイメージで固まっているので、改めての提案が難しい状況ですよね。クライアントは“そのまま”を求めているので。
カトウ
踏襲するイメージに納得できる理由があると、まだやりやすいです。今挙げた例だと、固まっているイメージの根拠が若干怪しいわけです。デザイナーの立場から言えば、そのまま進めることを頑なに拒んでいるのではなくて、直感が働くというのか(笑)、必ず理由や根拠を知った上で進めたいのです。もし理由や根拠が怪しいならば、案件の最適化を考えると、そのまま進めるべきではない可能性が高くなります。デザイナーは、それらを的確に指摘する立場だと考えています。
田代
にもかかわらず、事前のイメージが経営層にまで通っていると、いよいよつらくなります。クライアントの担当者側に、決定をひっくり返すくらいの意気込みがないと、外部からの働きかけも限界がありますからね。
カトウ
まずは希望イメージになった理由や根拠を把握する時間をいただき、精査した結果「変えた方がいい」という判断になれば、変えるための理由や根拠を示す時間も欲しい。できれば、代替のデザイン案も提示したいですし。そのまま進めるにしても、異なる方向性を提示するにしても、デザイナーは根拠なく動くことがとても難しい存在であることを、ぜひ知ってほしいです。
ワイヤーフレームは誰が作ればいい?
田代
最後に、ワイヤーフレームについても触れておきたいです。一般的にはディレクターが作ることが多いと思います。ただし、中身を固め過ぎると「デザイナーさんはやりづらいのでは?」とも思っています。
カトウ
僕がこれまで経験してきた案件では、ワイヤーフレームの作成はほぼすべてディレクター(or ディレクターを兼務するデザイナー)が担っていました。特に外部デザイナーが作るケースは少ないと思いますが、クリエイティブに特別な何かを期待する場合に意図的にそうすることはありえそうです。
田代
外注のデザイナーさんに対しては、ワイヤーフレーム作成の依頼はあまりに時間やコストが合わなくなると思っています。例えば、印象深いインタラクションを挿入したい場合や、クリエイティブとして際立たせたいページがあるなら、部分的にデザイナーさんと一緒に作る箇所があるのは、ありなのかもしれません。
カトウ
案件やコンテンツの理解が深まっていないと、ワイヤーフレームの作成は難しいです。ですので、おっしゃっているような部分的な協力か、デザイナーの頭の中に案件の情報を入れてもらう過程として、作成をデザイナー自身に依頼する手はあっていいと思います。
田代
このあたりは、案件の性質や関わる人たちの顔ぶれなどでも判断が変わってきそうです。
それではここまで2回の話を通じて、決まった正解を提示できる話ではありませんが、クライアントと対峙するディレクターとデザイナーそれぞれの立場を知ってもらえる機会になればと思っています。
カトウ
制作を依頼する立場のみなさんには、ご自身と違った立場の本音を知る機会になっていると嬉しいです。
田代
2回にわたって、ありがとうございます!
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