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行動デザインを学ぶ第34回:行動をどのようなサイクルに刻むべきか(「月次」「週次」編)

前回から、習慣化の行動デザインについて、「年」「月」「週」「日」といった時間サイクルに注目して、解説してきた。前回は1日のサイクル(日次)について説明したので、今回は「月次」「週次」のサイクルについて考察する。こうした時間サイクルに紐づけることで、企業にとって望ましい顧客の習慣行動が定着しやすくなると筆者は考えている。

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目次

1カ月サイクの例~「毎月29日は肉の日」?

生体リズムとして日次ほど視覚的に意識されないが、我々の身体に影響を与えているのが月次のリズムである。月の引力は、満月時には地表を数メートル持ち上げるほどの力があり、そのため細胞のターンオーバー(再生)が28日周期に近い組織(皮膚など)も存在している。

月末を給料日にしている企業が多い日本では、月末に消費が活性化する(逆に言えば、給料日前では消費が縮小する)。例えば、プチ贅沢でご褒美性のある「牛肉」の販促として、「毎月29日は肉の日」という語呂合わせプロモーションが外食やスーパーマーケットで活用されている。ちょうど肉を買おうとして迷っている場合には、「今日は肉の日だから」という言い訳は有効であろう。

しかし、スーパーマーケットのデータを見ると、必ずしも月末に牛肉消費のピークがあるサイクルではないようだ。それは牛肉の場合、季節による変動が圧倒的に大きいためだ(日本では、牛肉は年末年始に高いピークがあり、ゴールデンウィークとお盆前後に次の山がある)。これが、「29(肉)の日」がマーケターの予想ほど盛り上がらない理由だろう。そもそも、肉好きは毎月1回しか肉を買わないということはなく、だいたい毎週買っている(週次のリズムが存在する)ので、月末のピークが目立たなくなるのは当然である。

時間サイクルの提案成功の鍵は?

それでも「29(肉)の日」に一定の効果が期待できるのは、語呂合わせの覚えやすさにある。月末(月給支給時期)という「プチ贅沢需要」が盛り上がるタイミングに覚えやすいキュー(手がかり、きっかけ)が差し込まれていることで、肉の日行動がある程度習慣化しているのではないか、と思われる。とはいえ、いくら語呂合わせが秀逸でも自分の生体リズムや社会のリズムにうまく重なっていなければ、その行動は習慣として定着しにくい

盛り上がりには、語呂合わせ(覚えやすさ)というキュー(手がかり)が必要。さらに習慣化していくかはわからない

他の例を挙げると、あるディスカウントチェーンが「毎月28日はパンツの日」という販促を行っている。一度意味がわかると、毎月その日が気になるネーミングではあるが、やはり「パンツの日」の本命の「8月2日」(年次リズム)に比べると、(毎月28日〜は)直感的にわかりにくい。少しでも「処理流暢性」(※)の低い提案は、売り場でスルーされる可能性が高いのだ。

もう1つは、生体のサイクルとの関係である。人は春から夏にかけて汗をかく量が増えるので、下着の洗濯や交換頻度が増える。そのピークがお盆前後にあると考えれば、「8月2日」に下着をまとめ買いしたくなるのは自然な行動だろう。

このように月次の習慣行動の提案は、既存の生体や社会のリズムとの整合が重要であることがおわかりいただけただろうか。

※「処理流暢性」…見慣れることで、情報処理の流暢性が高まる性質を指す。詳しくは、以下のリンクを参照。
連載第24回より「「処理流暢性理論」について」
1分で用語解説:処理流暢性(processing fluency)

週次サイクルの葛藤。本当に曜日限定した方がいい?

では、週次のサイクルはどうだろうか。そもそも「1週間」というサイクルは、明治になって日本にもたらされた輸入文化であり、完全に人工的・概念的なリズムである。しかし、サラリーマンでは平日と土日は1日の過ごし方がまったく違うので、その節目となる「週末」は開放感にあふれたご褒美消費のタイミングになる。週末だけビールやお酒を飲む(平日はノンアル飲料)という人も少なくない。現代は、昭和時代のように「二日酔いで弱った状態で出社する」などという行動は許されないのだ。実際、スーパーでも週末にビールがよく買われるというデータが見られる。「金曜日はプレモルの日」(※サントリービールの「ザ・プレミアム・モルツ」のプロモーション用のコピー)という提案には、実は根拠があったのだ。

ただし、こうした曜日限定のマーケティングは、他の日の売上機会の損失になるという議論も存在する。曜日を限定しないで「毎日のご褒美」「ちょっと嬉しいことがあった日のお祝い」というようにポジショニングした方が、顧客の間口は広くなる一方で、「金曜日(週末)」という生活リズムに根ざした購買動機を手放してしまうことになる。マーケターは常にこのトレードオフに対する葛藤を迫られる

これからの時代は平日と土日、どちらにチャンスがある?

マーケティングを週次のリズム、つまり平日・土日のサイクルで設計している企業は、特にサービス企業に多い。週休2日制が定着した現代社会では、消費に関連する行動の量(自由度)は圧倒的に土日に集中しているからだ。近年増加しているコインランドリーも、土日の昼間に来店のピークがあるという。家の洗濯機でする平日の「ちょっともの」の洗濯と、コインランドリーを利用する土日の「おおもの」洗濯の使い分けが行われているのだろう。

ここで指摘しておきたいのは、平日・土日のサイクルの微妙な変化を見逃してはならない、ということだ。日本で週休2日が定着したのは1980年代以降だが、その当時はまだ女性の就労率は低く、平日の消費行動の主役は女性だった。しかし、ますます有職女性が増える今後は、今以上に土日に消費行動のピークが集中する可能性がある。「会社帰りの若い女性の消費」を当てにしていたサービス産業は、平日の客数減少に対する打ち手を考える必要がある。残業規制が厳しくなったとはいえ、仕事も家事・子育ても趣味も、すべて全力でやろうとすると、平日の夜に街をぶらぶらしている余裕はなくなるからだ。その分、夫婦や家族で週末の土日に日常の買い物をするという行動が、今後もさらに増えていくだろう。

ひと昔前の感覚で、平日か土日のどちらかを選ぶと、判断を誤るかも?!

週末価値(土日の意味)の変化を見逃さない

一方で、リタイアシニアは土日・平日というリズムがなくなる(自由になる)ため、今後の高齢化社会では、平日がシニアの外出を受け止める大きなチャンスになる。1週間の中で、「週末という非日常」を楽しむ機会は減り、その分、「毎日を気持ちよく過ごせる」サービスが望まれそうだ。例えば、近隣型のトレーニングジムや、サードプレイス的な長居ができるカフェなどの平日シニア需要がどんどん高まることが予想される(ただし、デイリーな消費なので客単価は低めになる)。

逆に、混雑を避けるために土日には「いっさい買い物をしない」「街に出ない」というシニアも増えるかもしれない。つまり、土日と平日でさらに客層の棲み分けが進む可能性があるのだ。同じ店舗でも、土日は現役夫婦・家族向け、平日はシニア向けと、ガラッと店の雰囲気を変えてしまう戦略もありえるだろう。

その時に重要な認識が、ひと昔前とは異なる「週末価値」の変化だ。土日しか買い物をしない(できない)現役夫婦にとっても、“毎日が日曜日”のシニア夫婦にとっても、普段の土日は以前ほど「祝祭感」のある時間(ハレの日)ではなく、日常の雑用を効率的に済ます時間に変化していく可能性がある。そうなると、時間消費型の提案に対する反応が悪くなり、むしろ貴重な土日の時間を有効に使う時短(タイムパフォーマンス、略してタイパ)型の提案が受ける可能性が出てくる。こうした「気分の変化」を読み違えると、マーケティングは大外ししてしまいかねないので、要注意だ

次回は・・・

「年次のリズム」について、改めて事例を検討する。また、総括として日次〜年次までのリズムと習慣行動についてまとめていきたい。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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株式会社ジェネシスコミュニケーション

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