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「行動デザイン」を学ぶ 第24回:効率的な情報処理プロセスについて

今回は、私たちが限られた認知処理資源(心と頭のエネルギー)を極力セーブしながら、「正しい」判断や意思決定を、無意識下に実行している効率的な情報処理プロセスについて、認知心理学の最新の知見を紹介する。

※ここで「正しい」というのは、絶対的真理としての正誤ではなく、「そう信じることが結果的に生存に有利だったかどうか」という意味である。

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目次

日常の選択の場面を想像すると……

生存というと大げさに聞こえるかもしれないが、会社の中での評価や友人や家族からの評価、支払い金額、何を食べたり飲んだりするかなどは、私たちがよく生きる上で重要な要因である。それに比べれば、どの動画を見るか見ないか、検索で表示されたWebサイトのどのリンクを開くか、といった意思決定はそれほど生存への影響はなさそうなので、“正しい判断をしよう”という意識を自覚することはあまりないだろう。

しかし、実際には心の中の無意識プロセスは、非常に短い時間でどれを選択すべきかについて、直感的な判断を下している。日々の無数の選択の中では「何となく、こっちを選んでしまう」ことが圧倒的に多いが、それでもだいたい日常がうまく回っているのは、頭(心)の中のよくできたメカニズムによるものだと考えていいだろう。

「処理流暢性理論」について

そのメカニズムの1つが「素朴理論」だ。「素朴理論」は、私たちが客観的で正確な情報を持っていない場合に利用される。例えば、「みんながそうだと言っていることは真実だ」とか、あるいは「馴染みのないものには、危険が潜んでいるから気をつけろ」といった思考法である。

私たちは昔から「素朴理論」を行動指針とすることで、そこそこ、うまく生きてきた。そういう意味では、行動デザインの本質は人が持っている「素朴理論」をうまく使い、あるいはそれと矛盾するメッセージで余計な混乱を与えないようにしながら、自然に人の行動をある目標に方向づけることにある。そのためには、「素朴理論」の引き金となるさらにもう一段、深いところにある頭(心)のメカニズムを知る必要がある。それが「流暢性りゅちょうせいフィルター」である

近年の認知心理学に基づく消費者行動研究の中で、「処理流暢性理論」は最も注目されている理論の一つと言っていいだろう。それは、人の「好ましい/好ましくない」「美しい/美しくない」、さらには「正しい/正しくない」といった重要な判断でさえ、頭(心)の情報処理プロセスにおける「流暢性」に左右されている、という理論だ。

多くの「直感的」判断や認知バイアスがかかった意思決定は、だいたい「処理流暢性」で説明できるという。その最も有名な事例が、前回も紹介した「ザイアンス効果」(単純接触効果)だ。一言でいえば、繰り返し接触するとその対象を自然と好きになるという効果だが、それは見慣れることにより情報処理の流暢性が高まり、その流暢性に対して感じた快感(好感)を対象にオーバーラップさせてしまうためだと、近年では考えられている。

処理流暢性が考慮される各場面

情報への接触頻度や接触時間だけでなく、視覚的要素(文字の色の視認性、フォント、画像の見やすさなど)によっても流暢性は変わる。これはWeb制作者にとっては「常識」の範囲だと思うが、単語の発音流暢性や可読性も流暢性に影響する。

ある実験では、食品添加物として難読の成分と、読みやすい成分では難読の成分の方が危険な添加物と判断された。また、滑舌のいいスピーチをする人の方が好感を持たれるのも処理流暢性によるものだ。音声AIも明らかに滑舌の悪い音声入力をする人(筆者)に塩対応をするように感じられる。

他にも処理流暢性に影響する要因として、「一致性」が上げられる。感覚マーケティングでは、意味(高級、洗練、ポップ、爽やか、など)と音韻、音韻と色、意味と色使いなどが「一致する」と感じられることが重要だとされている。それは一致度が流暢性を高めるからだ。形(丸い、角ばっている)と触覚(柔らかい、硬い)の一致効果も知られている。

さらに画面配置でも、左側が過去の時間、右側が先の時間という時間認識と一致する。ダイエット前とダイエット後、あるいはリフォーム前とリフォーム後、など「ビフォア(Before)」vs「アフター(After)」を対比する場合、「ビフォア」が向かって左側にある方が自然だろう。左右差は利き手とも関連する。右利きの人にとっては、コーヒーカップの取っ手が左側にある画像よりも右側にカップの取っ手がある画像の方が好まれる。これも利き手と方向の一致度が流暢性を高めるためだ。

例えば上のように、左側に過去(Before)、右側に現在(After)といった配置になっていると、ユーザーは時間認識(左から右に)と一致して処理しやすい。もし逆の配置だと違和感を覚え、処理流暢性に齟齬をきたす可能性が高い

生まれ育った環境や文化への配慮も必要

画像の好みに関して、シンメトリー(左右対称)な画像の方が、非対称の画像よりも好まれるという研究もある。これも、左右対称の画像の方が、処理流暢性が高いからだ。

ただし、流暢性の感覚はあくまで主観的、個人的なものである。それはその時々の文脈にもよるし、また生まれ育った環境、文化にも大きく影響されている。例えば、文字を右から左へ書く文化(日本や中国の縦書きの場合など)では、時間は右から左に流れていく(絵巻物など)。そうした情報フォーマットに小さいうちから馴染んでいれば、当然、そうでないフォーマットの方には流暢性を感じにくく(つまり、違和感を覚えやすく)、結果的に好きと思えなくなるだろう。

人が一般に「同郷」(おらが国)を好み、異文化圏に悪意や敵意を持つことがあるという事実も、処理流暢性である程度、説明できてしまうのだ。

次回は・・・

処理流暢性が低い場合、「どのような悪影響があるか」といった実務的なヒントになる知見について、もう少し深掘りしていく。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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