ビジネスにおける「勝負」はいつから始まるのか?
この問いは、社内外問わず、ビジネスの現場において様々な人と行動を共にする中で、いつも課題として挙がるテーマで、関係者全体の認識合わせを行う機会を設定する必要が出てくるケースが多くあります。業種や業態での違いはあるかと思いますが、自社の事業成長のためには、常に勝負をすることが求められます。みなさんはどのタイミングでどのような勝負に出るでしょうか?
私がこのテーマを執筆しようと思い立ったきっかけとなった2つの出来事から考えてみたいと思います。
Webサイト経由でのセールス
一つ目の出来事は、先日当社のWebサイト経由で、SES(System Engineering Service)事業を展開する企業から、ぜひ一度ご挨拶・商談の機会を頂きたいとのお問い合わせがあったことでした。
SES契約とは、システム開発・保守・運用などに関わる”IT技術者の労働力を常駐勤務体系で提供”する契約形態で、報酬は成果物ではなく、あくまでもIT技術者の工数・能力に対して支払われる契約となります。簡単に言うと、システム開発用の技術者を常駐勤務させるので、毎月60~100万円の費用を支払ってくださいというものです。
この類のセールスは日々何件も寄せられますが、ほとんどが商談まで発展することのないまま、お問い合わせメールはゴミ箱行きという末路を辿ることになります。
当社は確かにWebサイト構築やシステム開発案件を受注することが多く、常に何かしらの構築・開発を行っている状況にありますが、”手を動かす”作業の部分は外部の構築・開発パートナーと協業する形でプロジェクト推進するため、SEの社内常駐の必要性が議論されたことはありません。当社の採用ページでもWebディレクターやアシスタントディレクターは募集しておりますが、システムエンジニアやプログラマーの募集は行っていない状況です。その状況下で今回のお問い合わせに至った経緯は何だったのでしょうか?おそらく営業の数を増やせば商談に結びつく会社が少なからず増えるという理論のもと、システム開発案件に携わる会社に片っ端から直接面談依頼メールを送る活動をされているのではないかと思いますが、私が感じた「なぜ?」という違和感をお問い合わせメールで解消できない限り、商談という彼らの勝負の場に持ち込むことは難しいのではないかと考えます。
Webサイトリニューアル提案案件
もう一つの出来事は、当社のパートナーがお取引するクライアント企業が、Webサイトリニューアルを計画しており、当社に共同提案という形で当社に支援して欲しいという協力依頼を頂いたことでした。
本件は当社にとっても、パートナーにとっても、受注できれば収益拡大に貢献する提案案件のため、複数社の競合プレゼン案件ではありましたが、よろこんでお引き受けしました。既にパートナーとクライアントは取引関係にあったこともあり、クライアント企業からRFP(提案依頼書)の供給はありませんでしたが、サイトリニューアルの目的がお問い合わせ件数の増加/売上の改善にあること、予算感と納期が1次情報として提供され、その情報をもって当社にご相談に来られました。
当社でのミーティング(以下、MTG)は、パートナーとクライアント企業の関係性、現在受託している業務、今回の案件を主管する部署とはまだお取引実績がないことなどが説明されました。当社でのMTGの翌日に別件でクライアント企業に訪問予定とのことで、その際に主管部署の方とお会いして詳細な情報をヒアリングするとのことで、当社ではリニューアル対象となるBtoCのサイトを確認しながら追加情報を待って、次回の提案検討MTGを開催することにしてその日のMTGは終了しました。
2回目のMTGでは、現行サイトが抱える課題/月間平均PV数/お問い合わせ到達率/現在利用しているツール/実装したい機能など、提案検討に必要と思われるクライアント企業からヒアリングした内容が共有され、「さて、どんな提案にしましょう?」という話の流れとなったことから、一旦会議での議論をストップして、クライアント企業と課題に対してディスカッションを行えるMTGを再度設定調整して頂ける様、依頼させて頂きました。
なぜなら、クライアント企業が課題として挙げる「お問い合わせ件数の増加/売上の改善」を達成するための最適解がWebサイトリニューアルなのか?という大前提について、クライアント企業と直接協議する必要性を感じたからです。現在のサイト利用層、ニーズ、サイト流入・利用実態などお客様の観点、お客様の心理変容・行動喚起のためにすべきことは何か、競合企業の動向などを踏まえて、取り組みの方向性や優先度の明確化と共通認識の形成が重要となります。いわゆる「3C分析」ですね。
この3C分析をMTGを受けて行うのではなく、クライアント企業とのMTGの前にデスクリサーチを通じて当社の視点で分析を行った上で、課題解決策のアイデアを議論のたたき台として数枚の資料にして協議の場に挑みました。
事前の準備があったからこそ、クライアント企業とは建設的な議論が行えましたし、クライアントビジネスや課題に対する理解度、視点の広さや前向きさなどの観点で他の会社とは違うというプラスのご評価を頂けて、競合ひしめく“レッドオーシャン”の環境から、競争のない“ブルーオーシャン”に抜け出すことができて、新規コンテンツ開発・MA導入/活用・チャットボットの導入を案件として受注することができました。
私たちの勝負は「初動」から始まっている
当社では、クライアント企業からの要望を事細かくヒアリングして“ご要望はこのように実現できます”とご提案する「受動型」の推進スタイルではなく、クライアントからの要望に基づき、初動の段階から社内で3Cやマーケティングファネルの視点で独自に情報整理や分析を行い、クライアント企業と協議を行うことでより良い課題解決策を導き出す「能動型」なスタイルでのプロジェクト推進を常に目指しています。
もちろん受動型でご提案するケースも案件によってはありますが、能動型で動いていかないと案件受注率や案件の予算規模を高めることができないことから、私たちの勝負は「提案段階」ではなく「初動段階」から始まっています。
クライアント企業を取り巻く環境(お客様・競合・自社)や課題解決の取り組みなど、クライアント企業以上に実情を理解するという気概で、向き合い・考え・実践する意識や行動を「マーケティング会社のDNA」として持ち続けていけるよう、日々精進していきたいと思います。
執筆者:山本 知拓
株式会社ジェネシスコミュニケーション
執行役員