「行動デザイン」を学ぶ第4回:なぜ人は思うように動いてくれないのか?
今回からはしばらく、行動デザインの核心について掘り下げます。なぜ人は思うように動いてくれないのでしょうか? そう思える時に、あなたはそのことをどう考えるべきでしょうか。
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自分の手応えほど結果が出てくれない
「頑張っていい商品を作ったり、仕入れたぞ!」
「広告もちょっと工夫して、体裁のいいものを用意した!」、
……それなのに、期待したほど反応がない。こんな状況は珍しくないのだが、当事者としてはいても立ってもいられない焦燥感に襲われてしまうだろう。Webページのデザインを「あの会社に発注したのが間違いだったのでは?」などと「他人のせいにする思考(心理学的には「自己奉仕バイアス」という立派な名前がついている)」がむらむら湧いてくることもある。
そんな時、ちょっと窓の外を見て、頭を切り替えてみてはどうだろうか。窓の外に「そもそも」という文字が浮かんできたらしめたものだ。
そもそも、期待が高すぎたのではないか?
みなさんもビジネスの現場で遭遇しがちな「そもそも」となる場面を考えてみよう。例えば、「問い合わせが3件しかなかった」のではなく「この広い世界でうちの広告に反応してくれた人が3人もいるなんて、これは奇跡の出会いだ」と思ってみてはどうだろうか? 自社製品以外にどれだけの魅力的な選択肢、検討候補がこの世に存在しているか考えてみてほしい。
そもそも、顧客は現状に不満がないのではないか?
多くの人たちは、今使っている商品で「間に合っている」と思っているのではないだろうか? 筆者は、商品も消費欲求も飽和しつつある現代社会を「間に合ってます社会」と呼んでいる。ほとんどの人は、現状に大きな不満を持っていない。本当は不満がまったくないわけではないのだが、「こんなものなんだろう」と諦めてしまっている。あるいは自分で工夫して、なんとか対処しているうちに、その状況に慣れてしまっている。
そして、せっかく落ち着いた現状は居心地がよく、それをまた変えることにかえって不安を感じるようになる(これも「現状維持バイアス」という名前がついている)。そんな人たちに「当社の新しい○○はスゴイですよ!」と訴求しても、その情報はあっさり無視されることが多い。その情報に反応することは、現状を維持する居心地の良さを否定することにつながりかねないからだ。
そもそも、顧客はとても不安なのではないか?
例えば、以前に違う会社の製品に乗り換えてみて失敗したという経験があり、「もう二度と、安易に乗り換えなどするまい」と保守的になっているのではないだろうか。
みなさんの会社は、そうした不安を完全に払拭するサポート体制を打ち出しているだろうか?
そもそも、顧客はその商品が欲しくてそれを買っているのだろうか?
別に商品が欲しかったのではなくて、何か済ませたい用事があり、その用事を果たすためにたまたま近くに手頃な商品があったからそれを使ってみているだけではないのだろうか。例えば、人は本当に殺虫剤を買いたいのだろうか。ただ虫が目の前に現れないようにと願っているだけではないのだろうか。それなのに、なぜ殺虫剤の胴体の、ちょうど手に持つところに邪悪な昆虫のイラストが大きく描かれているのだろう?
そもそも、顧客は想像以上に忙しいのではないのだろうか?
見た目は仕事もせず、スマートフォンのゲームに夢中になっているように見えるが、実はいろいろ片づけなくてはならないタスク(ゲームのスコアアップもその一つ)があり、あまりにTo Doリストがいっぱいで気持ちが焦ってしまい、心を落ち着けるためにちょっとゲームで気分転換をしているだけ、なのかもしれない。時間がないとき、あるいは疲れているとき、人はなるべく余計なことは考えず簡単に物事を済ませようとする。いつも買っている商品をほとんど無意識にリピート購入する、といった行動は、そうした「忙しい人」の典型的な行動パターンである。そして今日、ほとんどの人は常に「忙しい」。
そもそも、なぜ人はそんなに焦燥を感じているのだろうか?
頭の中にまず浮かぶのは、どこか遠くにいるはずの顧客の顔ではないのではないか。目の前にいる「問い合わせが前回より少ないじゃないか、何をやってたんだ!」と怒鳴る上司やクライアントの顔だったりしないだろうか?
人は怒られることが嫌いだ。「怒られないために、どうするか」が行動指針になってしまって、言い訳を考えることが仕事になっていないだろうか。
多くの人たちには、大量の「認知資源」(=心のエネルギー)が必要
このように「そもそも」と考えていくと、少し視界が開け、「じゃあ、こうしてみよう」という発想が湧いてくることが多い。それは、前向きな心のエネルギーが回復してきたということだ。この心のエネルギーは「認知資源」と呼ばれ、人の情報処理や意思決定に必須の要素である。情報処理や意思決定は脳の神経回路の活動であり、それを活性化するために「認知資源」(心のエネルギー)が必要になる。
しかし、そのためには脳に十分なぶどう糖を供給しなくてはならない。脳は体重比では全身の2%程度の臓器だが、基礎代謝の20%は脳が消費している。脳はとてつもなく高性能だがガソリンを大量に消費する、燃費の悪いスポーツカーのような存在なのだ。そして、最大の問題は、マーケティングの送り手(企業)が、時々、受け手(顧客)の手持ちの認知資源量を過小評価するという認識ギャップが存在することだ。
次回は・・・
次回は、認知資源の過小評価という「認識ギャップ」について解説する。
國田 圭作(くにた けいさく)
嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)、『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)。