デジタル時代にどう人を動かすのか?~「行動デザイン」を学ぶ

「行動デザイン」を学ぶ第9回:適切な価格設定の裏に「フレーミング」効果あり

今回は、前回に続いて「人が感じる5つのコスト」(金銭的コスト、時間的コスト、肉体的コスト、頭脳的コスト、精神的コスト)のうち、金銭的コストを下げるための行動デザインを取り上げる。主に「フレーミング」効果に焦点を当てて解説する。

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目次

手にしたくなる価格や個数とは?

人の手持ちの資源(例えば予算)は、有限で希少なので、金銭的コストは大体の場合に行動の障壁になる。そのとき「小さくして手を出しやすくする」といった「フレーミング」の工夫が行動デザインのポイントの1つ、と前回の連載で触れた。

例えば、「1袋7つ入り」のお菓子に対し、「食べてみたいけれど、ちょっと割高かな?」と感じている客層のコスト障壁を下げるのに、値下げよりも「3つ入り」の小サイズ袋を売り出す方が効果的である。ユニットプライス(売価)を、元のサイズの値引き価格よりも圧倒的に小さくできるからだ。

では、なぜ「小サイズ」は「4つ入り」ではなく「3つ入り」にすべきなのか? それには理由がある。今まで7つ入りで売られていたことで、その「7つ」という数量が買い手の「参照点」(=脳の中の判断基準)になってしまっているからだ(「参照点」の詳細は次回に詳しく解説する)。

明らかに小サイズを手に取らせたいなら……

「7つ」を参照点にすると、4つ入りは7つ入りの半数以上なので、そこまで小さく見えない。もとの7つ入りとそれほど大きな差を感じない。むしろ「4つ入り」は、感覚的には「小サイズ」ではなく「中サイズ(準レギュラー)」なのだ(こうした科学的ではない直感が、「認知バイアス」だ)。それなら、少し割高で半端に量の多い「4つ入り」という「中サイズ」をわざわざ手に取る理由はない。今まで、「7つ入り」に対してコストが障壁になって手が出なかった人を狙うなら、明らかに「小サイズ」と認識できる数量(この場合は半分より小さい3つ入り)を用意すべきだ

「1つ、あるいは2つ入りの方がいいのではないか?」という疑問を持つ人もいるだろうが、そのサイズ感になると「バラ売り」であり、もはや元々の袋菓子とは違うカテゴリとなる。つまり、1つや2つだと用途やオケージョンが違う商品として認識されてしまうことに注意してほしい。そうなると、そもそも「7つ」という参照点がまったく役に立たない、全然違う選択の話になる。

参照点に対して(ここでは参照点=7)、最適な小サイズの数を考えてみよう(1? 2? 3? 4?)

参照点を意識した価格設定

行動デザイン的に考えると、元々の「7つ入り」の価格に対して「3つ入り」の価格をどれくらいにすべきなのだろうか。プライシングは損をしない範囲で微妙に調整することが大事なのだが、意外にざっくりと価格を決めてしまう売り手が多い。ちょっとした売価の違いでも積もれば大きな利益の違いになるのに、これはもったいないと思う。ここで売り手が考慮すべきは、元々の価格(これも参照点)と、「手元から出ていくお金の痛み」のバランスである。「小サイズの商品は多少割高だ」ということは、1つの社会常識として通用している。これも実は一種の参照点である。しかし、いちいち1個当たりの単価を計算して比較する人は少ない。まして7で割ったり3で割ったりという計算が好きな人はそう多くないはずだ(計算しやすい4個入りにしないほうがいい理由でもある)。したがって、7つ入りの価格の半分からあまり遠くない距離が1つの納得ポイントになるだろう(半分より安ければお買い得、多少高くてもまあ仕方がない)。

もう一つは「出ていくお金」のサイズ感である。人は桁が大きく変わるポイント(境界線)を参照点に置いている。98円、99円という「端数価格」がよく使われるのは、「100円という大きな単位を失わない」という安心感(損失回避バイアス)があるためだ。1個当たりで割れば多少割高でも、参照点となる境界ポイントを明確に下回っていれば、手は出やすくなる。例えば、元々のレギュラーサイズが1,000円以上の商品の場合は、小サイズ商品のプライシングは1,000円、あるいは500円という境界ポイントを少し下回るあたりに安心感がある。元々が数百円の場合は、やはり100円が境界ポイントになるだろう。

消費税がかかる場合、税込(内税)表示よりは税抜き(外税)表示が有効である。人は課税前のネットプライスで商品の価値を評価しようとし、併記されていても安い方の数字(ネットプライス)の方が視野に入るようにできている。コンビニのレジで「えっ?」と慌てた記憶は読者のみなさんにもおありだろう。

税抜き表示でつい手が伸びた商品を買おうとしたら、例えば1000円を超えた金額が提示されて、レジで驚いたことはないだろうか?(この場合は、1000円が参照点となる)

フレーミングに基づく価格戦略

「フレーミング」という点では、前にも触れたが(連載第6回)「100円ショップ(百均)」は秀逸な行動デザインである。最近では200円、300円という高価格帯の商品もあるが、入店した時点で脳の参照点がもはや「100円」に張り付いているので、300円という価格に対して冷静な疑問を持てないのだ。こうした参照点の強い刷り込みは、「アンカリング」と呼ばれている。アンカーとは錨(いかり)、つまり意識がふらふらとあちこち動かないようにある参照点に意識を括り付けておく、という意味合いだ(ちなみにフレーミングの語源は「額縁で絵を飾る」という意味で、豪華な額縁で飾るとつまらない絵も高そうに見えることを指している)。

100円は最小の通貨(補助貨幣ではない)と認識されているから、百均の商品は「絶対的に」安い。だから安心して5つも6つも買えるのだ。百均のレジでほとんどの人が複数の商品を購入しているのをチェックしてほしい。皆、「100円」にアンカリングされているのだ。

逆に、先ほどの「一袋7つ入り」のお菓子を1,000円ちょっとで売りたかったら、最初に目に付く場所に「7つ入り5,000円」や「8,000円」の商品を飾るべきである。高価格にアンカリングされることで、1,000円ちょっとでも割安に感じられるからだ(敷居を上げすぎると、そもそも店に入ってこなくなるから要注意だが、逆に敷居を高くすることで価格志向の客の入店を阻止するのも一つの価格戦略である)。

次回は・・・

さらに金銭的コストについて取り上げます。「フレーミング」や「アンカリング」以外にも、知っておいてほしい「金銭的コスト」に関する手法について解説します。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、博報堂行動デザイン研究所フェロー(名誉所長)、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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行動デザイン#1

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