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「行動デザイン」を学ぶ第12回:人が感じるリスクについて

あなたの会社がリードを集めるために、Webサイトで魅力的な業務改善事例のレポートをチラ見せし、本編をダウンロードするために個人情報を登録させる、という施策を考えたとしよう。そのレポートに興味を持ったのにダウンロードまで行かない人は、なぜダウンロードしないのだろう?

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目次

行動につきまとう「リスク」

この施策には、コストとリスクという2つの障壁が潜んでいる。入力の手間(=肉体的コスト)、今ちょっと忙しいから後にしよう(=時間的コスト)、ダウンロードしただけでまだ読んでいない別の資料が溜まっているストレス(=精神的コスト)、資料を読むこと自体の負荷(=頭脳的コスト)など、たかだか数ページのレポートであっても、普通の人は何らかのコストを感じるものだ。古典的な経済学では、そうしたコストに対して得られる「価値効用」が上回れば行動(この場合は、「ダウンロード申し込み」)が発生するとされてきたが、実際にはそう簡単ではない。

今度は、そこに「入力した個人情報を悪用されるのではないか」「後々、しつこく追いかけられるのではないか?」「いらないメルマガが毎日のように送りつけられるのではないか?」といった不安が発生するからだ。これがリスク(心理学では「知覚リスク」と呼ぶ)だ。

実は「価値効用」自体にもリスクは存在する。せっかくダウンロードしてみたら、知りたかった肝心のデータがマスキングされていて、あまり役に立たなかった、などの過去の不愉快な経験が蘇ってくるからである。このように、リスクはその人の持っている経験値や情報量とも関係している。そして、コストが低くてもリスクが高ければ、普通、行動は発生しない

どのような行動にもリスクが存在する

リスクが意味すること

今までの連載で「人が感じる5つのコスト」(金銭的コスト、時間的コスト、肉体的コスト、頭脳的コスト、精神的コスト)に関して、解説してきた。一番客観的に思われる金銭的コストでさえ、かなり主観的な評価なのだという話をしてきたつもりだが、実務においてはこうしたコストへのケアと、リスクに対するケアを同時に考えなくてはいけないので、そこがなかなか難しい。まずは、リスクとは何かを説明した上で、リスクとコストの関係を整理しながら対策を考えていきたい。

一般的にリスクとは、「望まない(避けたい)結果が起こる可能性」とされる。そこにはそうした将来への不安や、それを回避したいと思う気持ち、怖れまでが含まれるだろう。それらを含めて、本稿では「リスク感」という言葉で生活者の感じる不安な感覚を括ってみる。何かが起こる(あるいは起こらない)確率を人はコンピュータのように計算できないので、かなり主観的な確率による予測が「リスク感」を生み出すことになる。

実はビジネス社会(例えば、金融や建設プロジェクトなど)では、リスクとは単に「不確実性」の意味であり、必ずしもネガティブな概念ではない。プラス側に上振れするリスクもあるのだ。だが、普通の人にとって「ポジティブな結果が起こるリスク」という使い方はピンとこないだろう。ここでは、社会通念に沿って「リスク感」を「こうあってほしいと思う期待を損なう、望ましくない結果が起こる可能性への不安」と考えておくことにしよう。

人はなぜリスクを感じながら生きるのか

精神の安定のためには、リスクなど感じないほうが幸せに決まっている。それなのになぜ、人はリスク感を持つのだろう。それは、不確実な状況に対してリスクを感じる「能力」を持った種が、結果的に滅亡の危険を避けて生き延びてきたことを意味している。リスク感は、「それ、やばいよ」「騙されちゃだめだよ」と囁きかける心の声であり、あなたは過去、何回もその声に助けられてきたはずだ。

一方で、人はリスクをとって(あるいはリスクを軽視して)、さまざまなチャレンジをしてきたのも事実である。もう忘れてしまったかもしれないが、初めて恋人とキスしようとしたとき、初めて高級なレストランに入ったとき、初めてローンでお金を借りたとき、どれくらいリスクを感じたか思い出してみてほしい(いかに「初めての○○」という広告コピーが機能しているか、おわかりだろう)。丸木舟で沖に漕ぎ出すなど、どう考えてもありえない。言葉の通じない部族と物々交換するのもかなりの勇気を必要としただろう。今の我々人類の繁栄は、そうした先人たちのリスクテイクの結果であるともいえる。

このように分析してくると、リスク感はそもそも必要不可避な感情であり、それを前提にマーケティングを組み立てなければ成功は不可能である、ということがわかる。しかし実際にはそこまで人のリスク感をケアしたマーケティングばかりではない。それは、企画者(送り手)と顧客(受け手)の間にギャップが存在するからだ。このギャップに気づき、それをどう埋めていくか、という発想が極めて重要になる。これについては、また今後の連載の中で触れていきたいと思う。

リスクとは「行動のスイッチ」

もう一つ、リスク感に関して大事な気づきは、「リスク感」は心のシグナル=予兆であり、それが人に回避行動であれ、接近=チャレンジ行動であれ、何らかの行動を誘発するきっかけになってきた、ということだ。「じっとして動かない」というのも行動の一つであることを理解しよう。つまり、コスト(特に物理的な資源コスト)は、そもそもある選択をするかどうかという意思決定を左右しているが、実際に行動を引き起こすかどうかは、その人が感じるリスク感にかかっている。リスクは「行動のスイッチ」なのだ

リスクとは、何らかの行動を誘発するスイッチとも言える

では、ある不確定な状況を前にしたときに行動をするかしないか、とその人のリスク感はどのような関係になっているのだろうか。心理学では、リスクは「結果の重大性に対する評価と、結果の不確実性に対する評価の掛け算」と説明されている。結果の重大性とは、「価値」そのものなので、リスク感には「不確実性」という変数だけでなく、個人が価値をどう判断するか=「価値評価」も変数に含まれるということだ。二重の変数のかけ算だから、他人(送り手)からはわかりにくいわけだ。同じ一人の人の中でも、体調の悪いときや、資金が切羽詰まっているときなどでは、「結果の重大性に対する評価」は変わってくるだろう。

次回は・・・

「個人差」にも目を向けながら、リスクとコストの関係と、その取り扱いについて考えを進めていきたい。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、博報堂行動デザイン研究所フェロー(名誉所長)、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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