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「行動デザイン」を学ぶ 第26回:「カテゴリースキーマ」について

前回取り上げた「処理流暢性」(「人は楽に処理できる情報を好む」という傾向)に関する後半で、人間の情報処理の特徴である「カテゴリースキーマ」(カテゴリーについての知識構造)について、少し触れた。これに関連して、今回と次回の2回を通じて「カテゴリー化」という認知の仕組みを紹介する。この仕組みが、読者のビジネスにどれほどの影響を与えているかについて考察したい。

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目次

人は主観的に区分けする

「IT企業」や「サービス業」といった事業規定は、業種区分のカテゴリーである。実際には、サービス業の中にも多くのIT企業が存在するし、逆に、一般的にサービス業とされる小売業でも、ITを経営の主軸とする企業(例えばEC)も多数存在する。

だから、「IT企業」と「サービス業」の違いは必ずしも厳密ではなく、その企業の姿をコア技術の側から見ているか、提供価値の側から見ているか、の主観的な差でしかない。これは一種のラベリング(ラベル貼り)である。しかし、どちらのラベリングが求人に有利かと考えると、もしかすると「IT企業」の方かもしれない(筆者が教えている学生たちは、人に伝える時に「IT企業の方が聞こえがいい」と言っていた)。

このように、人は必ずしも厳密ではない主観的な区分(ラベリング)を受け入れ、あるいは自ら対象をラベリングして区分に使用している。そこには、自ずと「偏見」(ステレオタイプ)という認知バイアスも入り込んでくる。

例えば、「IT企業の経営者は若くてTシャツにジャケットを羽織っている。中小企業の経営者は地味なスーツとネクタイ姿のオヤジである」というのは、典型的なステレオタイプ(偏見)である。実態はおそらく、かなり異なっていて多様であろう。そもそも「IT企業」の多くは中小企業であるし、日本の企業のほとんどが中小企業である。しかし、「中小企業」と「IT企業」では与える印象がかなり異なる。こうした、事実とは異なる主観的なラベリングが流通してしまうのは、それが人の「カテゴリー化」という認知の仕組みによるものだからだ

無意識にラベルを貼り認知していく

人は主観的なラベリングによって認知する。となると、「そのラベリングはどうなのか?」にも、目を向ける必要がありそうだ

認識のために必要なのが「カテゴリースキーマ」

人は幼少期から、誰に教わることもなく自然に物事をカテゴリーに分類して、それにより、うまく世界を認識している。これがカテゴリー化だ。そして1つのカテゴリーはまた複数のサブカテゴリーに細分化されていく。

人間は動物と区分され、さらに「男」と「女」というサブカテゴリーで構成されている。そして男性は「男らしさ」という特徴を持ち、例えば筋肉やバイク、賭け事や闘争などのイメージと連想が結びついている。女性はそれとは異なる「女らしさ」という特徴を持ち、例えば口紅やスカートなどとの連想ネットワークを持つ。この「カテゴリーらしさ」、つまり典型性に基づいた連想ネットワークをカテゴリースキーマと呼ぶ(スキーマとは、知識構造のこと)。ただし、こうした「典型的」な連想がステレオタイプとして偏見の温床になりかねないことは要注意だ。

対象についての知識が増えるに従って、形成されるサブカテゴリーも多くなる。少し大げさに言えば、「カテゴリー化」は人間の認識構造そのもの、なのだ。マーケティングでよく使われる「セグメント」や「ポジショニング」は、こうした「カテゴリー化」という認知の仕組みを前提とした概念である

一般的に「カテゴリー」とか「サブカテゴリー」と言う時、頭には樹形図のような階層構造が浮かぶだろうが、これは分類学的なカテゴリーの構造である。我々が日常的に使用している実際のカテゴリーは、分類学的な整理がつかないもの(例えば、中小企業とIT企業とサービス業のように)も非常に多いのだ。

人はいくら未知な対象でもカテゴリー化する

では、カテゴリーおよび「カテゴリー化」とはそもそも、何だろうか。まず、改めて人の情報処理の仕組みをおさらいしてみよう。

人は朝から晩まで、環境音や光、映像、他人の声など多彩な情報刺激にさらされている。もちろん、そのすべてを拾っているわけではない。そんなことをしたら、我々の認知資源(心のエネルギー)は一種で枯渇してしまう。「選択的注意」というが、我々は気になるものだけに注意を払う。「見たいものだけを選択的に見ている」可能性もある。

次に、脳に届いた情報は「意味付け」される。これは一種の解釈プロセスだ。解釈にあたっては、脳の記憶が一種の解釈マニュアル(あるいはハンドブック)として参照される。例えば、以前に見たこと(聞いたこと)があるか、少し違うか、記憶の中にレファレンスがない初めての情報か、などだ。さまざまな記憶は連想構造を持っていて、関連する記憶を手繰り出し、それを手がかりに我々はほとんど未知の対象でも、何とか解釈(意味付け)することができるのだ。

このプロセスで行われている特徴的な情報処理が「カテゴリー化」だ。つまり、我々の記憶の持ち方や記憶検索のシステムがカテゴリー構造(カテゴリースキーマ)を持っているために、人は初めて見たものでも、それを何らかの既存のカテゴリーのメンバー(構成員)として意味付けすることができるのだ

ブッシュカンを柑橘類としてカテゴリー化出来るのはその形状故か?

人はカテゴリー化によって理解が進む。たとえ未知のものでも、理解のために何かしらカテゴリー化をしてしまうわけだ

マーケティングで重要な意味を持つカテゴリー(主観的分類)とは?

カテゴリー構造としてよく知られているのが、分類学的カテゴリーだろう。例えば、家計消費年報という公的統計では、消費対象品目を「食料」や「被服および履物」などに大分類し、「食品」はさらに「魚介類」、「肉類」などに中分類されている。スーパーマーケットのゾーニングもだいたい、そのような分類に沿って作られている。

しかし、我々の脳は常にこのような分類学的構造で物事を記憶しているわけではない。他に「グレード化カテゴリー」と呼ばれるものと、「アドホックカテゴリー」と呼ばれるものが存在する。これら2つは、必ずしも論理的ではない主観的分類に沿ったもので、マーケティングを考える上では、むしろこれらの方が重要な意味を持つ

例えば、「食玩チョコ」は使用目的が明らかにおもちゃだが、食品として菓子売り場に置かれている。おもちゃ売り場よりも食品売り場の方が来店(棚前通過)客数は圧倒的に多いし、ただのチョコレートよりも食玩チョコの方が子どもの目に止まりやすいから、有利な位置取りができていると言えるだろう。食玩チョコは、チョコレートらしさという典型性の点ではチョコレート菓子の中心に来ないが、チョコレートではないとも言いきれず、やはりチョコレート菓子のメンバーに属している。こうした中心からの距離でカテゴリーを考えたのが、「グレード化」カテゴリーである(先述した「男らしさ」「女らしさ」による分類も「グレード化」カテゴリーの一種である)。

また、子どもをあやすのにちょっとしたおもちゃが必要な時、カプセルトイ(ガチャガチャ)と食玩、それにハッピーセットといった選択肢が頭に浮かぶことがあるだろう。こうした、同じ目的を持つが、分類学的形態としてはまったく異なるもので構成されるカテゴリーが「アドホックカテゴリー」である。

次回は・・・

今回の最後で言及した「グレード化カテゴリー」と「アドホックカテゴリー」について、さらに掘り下げ、それそれのビジネス上の役割について考察する。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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