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DXの成功事例に学ぶ「デジタル・トランスフォーメーション入門」

DXの成功事例に学ぶ

今回はDXについて、日本に比べて先行している海外での成功事例を取り上げます。海外では、企業がどのような課題を抱えて、課題に対してどういったアプローチを採用し、どのような成果に結びついたのかを見ていきます。

目次

DXについて、成功の測り方とは?

DXの成功事例を参照する前に、1点、あらかじめ考えておきたいことがあります。それは「どのようにして、その成功を測るのか」です。

DXの成功とは、連載第1回〜3回でも触れてきた通り、全体最適を通して業務やプロセス、企業文化そのものを変革し、競争上の優位性を確立することです。これらの成功をどのように測るのかは、主に以下の4点に注意する必要があると筆者は考えています。

1 目標の明確化

第3回の内容と通じますが、経営陣のDXに対するコミットがなければ、DXが成功することはありえません。経営陣が、DXの目標(例えば、〇〇の売上を現時点より2割向上、●●のコストを現状より3割削減 etc.)を明確化し、共有できていなければ、経営陣が今から取り組もうとしているDXにコミットできません。

2 人々の行動変容に注目

特に業務の効率化などで直接的に売上などに影響しないDXの場合、「どのようなツールを導入したか」や「どのようにシステム化したか」などに注目して、成果を測る傾向があります。DXの目的はシステムの導入ではありません。システム導入によって、従来2時間かかっていた作業が「5分でできるようになった」「5人の作業が1人で行えた」などの結果に対して、「ユーザーがどのような便益を得ているのか」を測ることこそが重要です。

3 さまざまなDXを同時に評価しない

経営陣がコミットしてDXを進め始めると、さまざまな部署で開始され出すことがあります。DXを始める場合は「Small Start, Fail Fast」が適していて(参考:第3回)、各部署で同時にDXを始めるべきではありません。DXはアジャイル開発のように小さな規模で行い、その結果に基づき繰り返すのがいいでしょう。さまざまな部署で同時に行うと、該当部署(だけ)の成果が正確に測れなくなってしまいます。

複数のDXプロジェクトを並行に実施するのは、測定も実行管理も困難に

複数のDXプロジェクトを並行に実施すると、結果がどのプロジェクトによってもたらされたものかの測定が難しい。複数プロジェクトのため、実行管理も困難に

DXプロジェクトは、結果分析や管理面からも、まずは1つずつ繰り返すことがベター

結果分析や管理面からも、まずは1つずつ繰り返すことがベター

4 フィードバックはすべて検討

DXの実行で、ユーザーからさまざまなフィードバックを得ます。いいものばかりでなく悪いフィードバックについても、すべて検討しましょう。DXをよりよく推進するためにも、いい内容か悪い内容かを問わず、フィードバックは活用すべきです。

成功をおさめた3つの海外事例

先ほどの4点の着目点を念頭に置きながら、実際に成功をおさめた3つの海外事例を見ていきましょう。

事例その1:マクドナルド(U.S.)

日本でもモバイルオーダーなどデジタルシフトが進み、これまでにない顧客体験を提供する「マクドナルド(McDonald’s)」は、アメリカ本国だとさらに一歩進んだ取り組みを行っています。熾烈化する顧客獲得競争の中、2017年に「The Velocity Growth Plan」(※)と呼ばれるDX化計画を策定しました。

「Our Growth Pillars」

そこで、次の3つを柱に据えました。

  1. Maximize Our Marketing(マーケティング効果の最大化)
  2. Commit to the Core(コアとなる商品へのコミット)
  3. Double Down on the Three D’s(3つのDへの投資)

この中で、特に3つ目の「Double Down on the Three D’s 」に基づき、DXが強く推進されました。「Three D(3つのD)」とは、Digital、Delivery、Drive throughを表しており、これらのテーマに基づいてAIの活用も大きく進めています。

例えば2019年3月25日、マクドナルドとしては過去20年で最大となる約300億円を投じて、AIを利用して顧客別にパーソナライゼーションを提供するスタートアップ企業「Dynamic Yield」を買収しました。この買収で、顧客の嗜好や時間・天候などに応じて、AIがパーソナライズしてメニューを提供するドライブスルーをアメリカとオーストラリアのドライブスルー店舗へと設置。顧客の利便性を向上させるだけでなく、ドライブスルーを訪れる顧客データを分析することで、データを資産化し活用しています。

さらに同年9月10日には、多言語での音声注文を可能とする会話エージェントを開発するスタートアップ企業「Apprente」の買収も発表。さまざまなアクセントなどを認識し、対話ベースで自動注文できる音声認識技術を活用。今後モバイルやキオスク店舗での注文に活用しようとしています。

事例その2:キャタピラー

建設機械および鉱山機械などの製造・販売を行う世界最大の企業「キャタピラー(Caterpillar)」も、1990年代半ばから無人操縦車両を提供するなどデジタル技術を活用してきました。

マクドナルドと同様、急激に変化する社会に対応するために、2017年に発表した経営戦略の一環で、デジタル技術活用の強い推進を打ち出しました。キャタピラーの顧客にとって、想定外の故障が顧客そのもののビジネスに大きな影響をもたらします。それを回避するために活用しているのが、プレディクティブ・メンテナンス(障害予測)です。モバイルアプリを開発して、車両の場所や稼働時間、機器の状況をモニタリング。故障の検知だけでなく、故障の予兆が現れた場合に即アラートが上がるようになっています。このような機能によって、競合他社にはない付加的な優位性を生み出しています。

キャタピラー(Caterpillar)が活用しているプレディクティブ・メンテナンス(障害予測)アプリ

今後は5G経由でのより多くの情報提供も考えられます

事例その3:ウォルマート

アメリカの「ウォルマート(Walmart)」は、世界最大の売上高を誇るスーパーマーケットチェーンですが、長らくアマゾンの影響で苦しいビジネスを強いられていました。近年、見事なV字回復を見せている背景にはDXがあります。

2015年に中国のEコマーススーパー(Yihaodian社)を買収したことを機に、DXを推進。その対象は今や在庫管理、サプライチェーンマネジメント、配送からEコマースに至るまで、顧客体験(CX)の最適化を図るために広範な投資を行っています。

ウォルマートのような巨大なスーパーを、限られた人員で管理するのは非常に困難です。かといって、在庫切れとなれば機会損失に直結。さらに商品の場所や価格が間違っていてもCXを悪化させかねません。これらを解決するために、ウォルマートがAI制御によるロボットを開発。ロボットは店内を移動しながら商品陳列棚をくまなく撮影し、商品の在庫状況や適切な場所に置かれているかを判断。在庫切れなどがあれば、ロボットがアラートを上げる仕組みを作りました。

また、内容を変更できないというブロックチェーンの特徴を活かして、生産者の見える化を行い、安全な商品を届けることにもDXを活用しています。

以上、3社の成功事例の共通点は、経営陣がDX推進に向けて非常に強いリーダーシップを発揮したことです。経営陣が真剣に状況を認識し、痛みを恐れず向かっていくことがDX成功への大きなカギとなります。

次回は・・・

これまでの4回を通じて、DXそのものの解説から、DX推進にあたっての課題や成功事例について言及してきました。次回からは、実際に自社でDXを推進するには、どのようなところから始めればいいかについて、さまざまな側面から説明していきます。


野澤 智朝(のざわ ともお)
現役マーケター。「ニテンイチリュウ」運営者。デジタルクリエイティブ、デジタルマーケティングに関するメディアで連載を担当してきたほか、各種記事の寄稿多数。


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