山本知拓

「その商品を買う理由は何?」顧客の購買行為の決めるものとは

自社商品を買ってもらうのに、どうやって売れば良いか考えているマーケターの皆様、本日は身近な「美容院での散髪」や「ビールの購入」の話題から、クレイトン・M・クリステンセンの『ジョブ理論』についてお話させて下さい。

目次

はじめに身近な話題から

中学生の息子が週末に髪が伸びてきたから切りたいというので、いつもお世話になっている「QBハウス」に行くのかと思い1,080円を渡したところ、「美容院」に行くから6,500円欲しいと言われ、どんな髪型で帰ってくるのかと楽しみにしていました。後頭部はスッキリとしていましたが、前髪はGLAYのTERUのように垂らしたスタイリングで、ホスト感漂う何とも言えない仕上がりになって帰ってきました。
親にはチャラ男になったと不評なのですが、本人はそのスタイリングを気に入っているようで、翌日から毎朝30分くらいドライヤーと格闘し、前髪をつくるのに躍起になっています。

9月終わりの土曜日の夜、屋外テニスコートが取れたので、テニス仲間6人を集めてシングルスやダブルスのゲームをして2時間ほど汗を流しました。いつもならテニス終わりに飲みに行くのですが、翌朝早くからそれぞれ予定があるということで、コンビニでビールを買ってその日は解散となりました。「質より量」を重視して発泡酒を買う仲間の一人は、その日は「ザ・プレミアム・モルツ」を購入していたので、珍しいね!と声をかけると、今日はこれから家で映画とおいしいビールで充実した時間を過ごすということでした。

多くの選択肢がある中でなぜそれを選んだか?

「髪を切る」「ビールを買う」というニーズを満たすだけであれば、ニーズを充足する手段は他にもたくさんあったかと思います。その中で、なぜ彼らは「美容院に行く」「上質なビールを買う」という行為に至ったのでしょうか?
美容院で髪を切ると、単に髪を切るだけでなくスタイリッシュに整髪してくれて、クラスメイト(特に異性)からの評価を得ることに繋がりますし、上質なビールはリラックスする時間を贅沢なものにしてくれます。
そこには満たしたいニーズだけでなく、そのニーズをどう満たしたいか?という「望み(求める状態)」が大きく影響しているのではないでしょうか。
この「ニーズと消費行動との因果関係」に着目し、消費者のニーズを的確に捉えるための方法論として『ジョブ理論』を発表したのが、企業におけるイノベーションの研究における第一人者で、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるクレイトン・M・クリステンセンです。ビジネス書のバイブルである「イノベーションのジレンマ」の著者と伝える方が、皆様には馴染みがあるでしょうか。

クレイトン・M・クリステンセンの『ジョブ理論』

ジョブ理論では、消費者が片付けたい用事(達成したいこと)を「ジョブ」と位置づけ、それを片付けるための手段として、消費者は特定の商品やサービスを購入・消費(本書では「雇用」と呼ぶ)すると説明しています。端的に言えば、消費者は何らかの進歩(ジョブ)をするための手段として、モノやサービスを購入するということです。
「ジョブ」は商品・サービスの購入決定要因(KBF)でありますが、それぞれの消費者が解決・達成したいこと(本書では「求める進歩」と呼ぶ)、消費者が置かれている状況により、何が購入・消費されるかが左右されると説明されています。故に、消費者が達成したい「ジョブ」に着目するだけでなく、消費者がどうしてそのような達成意識を持つのか、どのような状況でそのような意識を持ったのかを的確に捉えることの重要性が繰り返し語られています。

ジョブは顧客の性別・年齢・居住地・購買履歴などのデータから分析することは困難です。なぜなら、ジョブは「誰が・何を買ったか?」ではなく、「なぜ買ったのか?」というお客様の心情にフォーカスしているためです。マーケティング用語でいうところの「消費者インサイト」ですね。お客様はどんな『不』(不具合・不快・不満など)を抱えているのか?どのように解決したいと思っているのか?行動を起こせない障害は何か?何を重視しているか?何をしたくて、何をしたくないか?など、特定の商品やサービスに意識が顕在化したニーズとは異なる消費者の内面と消費行動の因果関係の理解(仮説立て)が重視されています。

年末が近づいてきているので、「ハウスクリーニング」を例に挙げると、年末の大掃除で家じゅうをクリーニングして新しい年を迎えたい人はいるかと思いますが、独身男性にとっては家じゅうの掃除までする必要はなく、普段目に付くところの掃除は何とかできているので、新聞や粗大ごみなど貯まっているゴミを処理してすっきりとした空間をつくるだけで十分と感じているかもしれません。赤ちゃんのいる家庭では、エアコンクリーニングやカーペット・畳・ソファー・布団などのダニ退治が一番気になっていることかもしれません。体力の衰えを感じている高齢夫婦の二人暮らし家庭では、重い荷物の移動と窓ふきなど体力が必要な掃除は自分たちには手に負えないとあきらめているかもしれません。お客様がどのような課題を抱え、どう解決したいと感じているかなどの仮説を立てると、サービスラインアップ・見せ方・コミュニケーションの仕方など、いろいろと打ち出の検討ができそうですね。

私は効率的な時間消費をしたいので、好きなこと以外の時間は極力短縮したい(時間を使いたくない)と考えています。ですので、美容院の2時間よりも、カットが10分で済むQBハウスの方が魅力的です。病院も最近では待合室で待つ時間を減らすため、電話やインターネットによる自動受付・順番確認ができて、自分の順番が近づいたタイミングに病院に行けば良いシステムが提供されており、そのシステムを導入していない病院には行かなくなりました。

経営の神様と言われるピーター・ドラッカーも

経営の神様と言われるピーター・ドラッカーも、「顧客の価値」を重視しています。顧客は自らが求めるもの、必要とするもの、期待するものにしか関心をよせず、顧客の関心はつねに、この製品あるいはこの企業は自分に何をしてくれるかを考えていると説いており、企業が考えるニーズと顧客ニーズの乖離を指摘しています。
ジョブ理論はまさにこの乖離を解消するための考え方なのだと思います。お客様が満たされていないジョブを想定した際、自社の商品やサービスはお客様をどのように満たすことができるのか?お客様にどのようにアプローチすべきか?など、自社のマーケティングの在り方を見つめ直す良い理論であると考えます。

ジェネシスでは「顧客の価値」を基点とした行動デザインを目指し、「インサイト(insight)」「イマジネーション(imagination)」「インパクト(impact)」の『3i』フレームワークを積極的に活用しています。ジェネシスのマーケティングサービスがクライアントの求めるもの/期待するものにしていけるよう、「実践的なマーケティングによる成果」を強く意識して、これからも精進していきたいと思います。

3i



執筆者:山本知拓
株式会社ジェネシスコミュニケーション
執行役員


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