ノンプログラマーのビジネスパーソン必読!第1回 ノーコードツールとの向き合い方
限られた予算と人的リソース。こうした状況を効率的に解決する手段の1つとして、ノーコードツールへの注目が高まって久しいです。「マーケの強化書」をご覧いただいているビジネスパーソンやマーケターの方もそうしたツールを使っていることでしょう。ただ、ノーコードツールについて、何を選び、どのような学習をしていけば良いのかは教えてもらった経験も少ないはず。そこでマーケの強化書編集部では、ノンプログラマー協会の代表理事を務める高橋宣成さんを招き、ノーコードツールとの向き合い方について対談を行いました。
- 高橋 宣成(タカハシ ノリアキ)さん 一般社団法人ノンプログラマー協会 代表理事
学習コミュニティ「ノンプログラマーのためのスキルアップ研究会」(ノンプロ研)主宰
株式会社プランノーツ 代表取締役
著作に『Pythonプログラミング完全入門 〜ノンプログラマーのための実務効率化テキスト』(技術評論者刊)、『詳解! Google Apps Script完全入門』(秀和システム刊)など - 田代 靖和株式会社ジェネシスコミュニケーション シニアプロデューサー
「マーケの強化書」編集長
ノンプログラマー協会について
田代
はじめに「ノンプログラマー」という言葉の定義について教えてください。ノンプログラマー協会では、どういう意味で「ノンプログラマー」という言葉を使っていますでしょうか?
高橋
プログラミングやITを本職としない、すべてのビジネスパーソンは「ノンプログラマー」足りえると考えています。私たちは、ITに触れるノンプログラマーが当たり前のように活躍する世の中にするため、社会への啓発活動や企業サポートを行う団体です。私自身はこうした活動を約10年続ける中で、ノンプログラマー協会を2021年6月に立ち上げました。2023年3月現在、協会の加盟事業者は8社になります。
田代
ありがとうございます。すべてのビジネスパーソンが「ノンプログラマー」というのは面白い発想ですね。協会のWEBサイトを拝見していると、注力している活動の1つに「越境学習」というものがあります。あまり耳なじみではない言葉なので、「越境学習」とは何か。なぜ力を入れているか、その理由を教えていただけますか?
高橋
「越境学習」とは、昨今の人材育成で注目されている学習スタイルの1つで、ホーム(の環境)とアウェイ(の環境)を行き来する学習のことを指します。例えば、ホームは自分が所属する会社や組織のことで、アウェイは外部のコミュニティを指すとお考えください。アウェイについては、協会とは別に、越境学習環境として「ノンプログラマー研究会(ノンプロ研)」というコミュニティを用意しています。
高橋
ノンプロ研には約200名のメンバーが所属して、ZoomやSlackを使って、1日24時間、いつでも好きな時間に参加しての学習が可能です。参加ユーザーも、医者や病院関係者、経理、事務全般はじめ多種多様な職種の方が属して、日々切磋琢磨しています。
田代
会社組織に属すビジネスパーソンは、組織内のカルチャーにすっかり染まりがちです。自分が所属する会社とは明らかに異なるコミュニティに接して、ホームでは感じられない刺激を得るわけですね。
高橋
はい。アウェイという場に身を寄せて、ホームと違う文化に触れてほしいです。定期的なイベント、講座への参加や、Slackを用いていつでもメンバーとの情報交換も可能で、多数のユーザーがアウェイのカルチャーを体感しています。参加によって、日頃の働き方や使う言葉が異なる環境を知り、多様な価値観に直面しながら学習者の内面に強く変化を与えることが最大限のメリット、と考えています。
越境学習の成果について
田代
なるほど。自分の慣れ親しんだ環境を超えて、異なる環境で学びに触れられるというのはメリットですね。次に、越境学習の成果と言いますか、もう少し具体的にどのようなことを学ぶことができるのかについて教えてください。
高橋
越境学習者がそれぞれ抱えている業務や状況に応じて、望ましい学習プランを相談しながら決めていきます。中でも、Googleが提供するスプレッドシート関数や、Googleのサービスを自動化するプログラミング言語「Google Apps Script(GAS)」いずれかの講座を最初に選ぶ方が多いです。こうした分野をアウェイの環境で学んだ学習者たちが、ホームの環境にスキルを持ち帰っていくことが、成果の一例になります。
田代
周りに仲間のいない状態での独学と比べると、アウェイの環境で他者からの刺激があるのは大きな違いですね。
高橋
これまでの活動で顕著なのは、特にホームでチームリーダーを務めている方ですね。こうした方が越境学習を行うと、ホームに帰ってからのチームの業務改善が格段に進みます。組織としてDX推進をしたい場合、異なるネットワークを持つ越境学習者自身が、全社のDX化の推進役になっている傾向も強く見られます。
田代
全社で推進するようなプロジェクトは、同じ会社でもホームとアウェイのような違いもありますよね。大きなプロジェクトで推進に苦労されている方には、こうした学習のあり方や仲間づくりは参考にできると思います。
実際に越境学習をされた方の意欲や自主性は大事な要素でしょうか?
高橋
おっしゃる通りです。越境学習者は自発性がないと、効果は期待薄です。会社側で言われて、無理やり参加というスタンスだと難しいでしょう。意欲や積極性を持てない人には、そもそも参加を辞退いただくようにお願いしています。
ノーコードツールとは何か?
田代
協会の活動についてはおおよそ理解できました。ここからは少し話を広げて、「ノーコードツール」についてのお話をうかがいます。高橋さんはノーコードツールをどのように定義されていらっしゃいますか? 言葉の意味や範囲と言い換えても良いかもしれませんが。
高橋
昨今の世の中では、ノーコードツールだけでなくローコードツールも含めて、好き好きに言っているところがありますよね(笑)。簡潔に言うなら、コーディングを必要としない開発支援ツールはすべてノーコードツールと捉えていいかもしれません。一方で、そう呼ばれるツールの目的は一律ではありません。例えば、スマホアプリ開発支援やWebサイト制作支援、チャットボット開発支援などがあって、そのツールが得意とする支援内容によって目的も分かれやすい点も踏まえておきたいです。
田代
意欲を持ってこれから学習したいと思った時、ノンプログラミングやノーコードの意味や範疇がはっきりしないと、「結局、自分は何をしたらいいの?」と二の足を踏んでいる人たちが少なくないと思っています。そういう人たちへは、どういったアドバイスが考えられますか?
高橋
一番いいのが、「今直面している、自分自身の課題」を突き詰めてください。これにつきますね。各社、各個人それぞれで課題が存在するはずで、その中身はそれぞれで違います。中身にあわせて自分に合致する学習対象が何か? それがもしノーコードツールで解決できそうなら、ノーコードツールの学習を選択肢に入れてほしいですね。学習する本人が、納得してスタートできるからです。
ノーコードツールのメリットとデメリット
田代
では、ノーコードツールのメリットはどう考えておくといいですか?
高橋
「ある目的に特化して達成できるツール」ですので、少ない学習コストで操作できるサービスが多いです。例えば、独自のスマホアプリを開発するなら、本来は開発に適したプログラミング言語の選定に始まり、データベースの用意やフロントエンド開発など、やるべきことが多岐にわたります。例えば、ある機能に特化したアプリ開発向けのノーコードツールがあれば、多岐にわたることをノーコードツール側で担ってくれます。
田代
なるほど。同じ理由でローコードツールも、ノーコードほどでなくても学習コストを軽減できるメリットが魅力になるわけですね。
高橋
その通りです。それにこれらのツールを活用すると、プロトタイプを簡単に作りやすいメリットもあります。例えば、社内プレゼンテーションの場で、なるべくリッチに動いて見映えがするプロトタイプを用意できれば、率直に案が通りやすくなったり、社内理解の促進にもつながります。
田代
デメリットはいかがでしょうか?
高橋
今まで伝えてきたことの裏返しになりますが、できることや機能が限られることです。
田代
何でもできるわけではないことも念頭に置く必要がありますね。
高橋
あわせて伝えておきたいのが、「開発時間が読めないこと」が多々あります。ノーコードツールもローコードツールも、使えば必ずうまく進むわけではないからです。本当に望んだものが明日までに作れるのか、1週間後ならできるのか、1カ月後になるのか? そこは、はっきりと見えないところです。
田代
過度に期待、生産性や効率性を求めてしまうと、かえってしんどい思いをするかもしれません。
高橋
はい。そもそも開発はトライ&エラーを繰り返すものですから、組織で取り組む際はGoogleの「20%ルール」のような、組織の生産性や効率性に捉われない時間帯の中で取り組むといいでしょう。便利なツールですが、開発コストや学習コストの全体像が不明な点や、予測の難しい点があることも知っておいてほしいです。
次回は・・・
企業にとって、実務にとってノーコードツールの必要性は?(真の理解には、結局プログラミングが必要?) また、ノンプログラマーが一念発起して学習する上で、国内企業の環境はどうなのか? ノンプログラマーの学習者がやりがいのある日々を送るにはどうすればいいのか? ノンプログラマー協会の高橋さんに話をうかがい、「本当のところはどうなのか?」という本音に迫ります。