マーケティングファネルに惑わされるな
社内外を問わず、企画書に接していると、ここ近年で「マーケティングファネル」に遭遇することが増えてはいないでしょうか? マーケティングオートメーション(MA)が普及しはじめた時期を境に、マーケティング界隈ではすっかりおなじみとなったのがマーケティングファネルです。
MAの説明では欠かせないように見えますし、MAの絡まないマーケティングの他の場面でも、ファネルが出てくる回数が俄然増えたと、私たちは実感します。
そこで今回は、マーケティングファネルに関する実用的な使い方を考えましょう。
マーケティングファネルから「企画」は生まれない
マーケティング系のセミナーや講座に出ていると、「マーケティングファネル」がかなりの頻度で出てきます。MAがらみの説明ではもちろんのこと、何かしら設定されたマーケティングにまつわるテーマの入口(話のつかみ)に、マーケティングファネルが出てくるからです。最近では「採用マーケティング」と呼ばれる、採用戦略にマーケティングの考え方を導入するアプローチでも、ファネルが出てきます。
説明する側にとって、ファネルは便利です。全容を見渡すのに最適な図とも言えます。確かに、頭の整理には便利ですが万能な代物ではないはずです。しかし最近は、マーケティングファネルを起点にして話が進むので、あたかもファネル起点で企画を立ててソリューションを見出す風潮ができつつあるのか? などと懸念を感じています。
各社MAベンダーの認知効果もあって、マーケティングファネルはすっかり業界の市民権を得ました。状況を大雑把にマッピングするのには適しますが、それ以上のものではありません。実際に私たちは、マーケティングファネルを起点にしても決して良質な企画が生まれない、と考えています。なぜでしょうか?
ファネルは状況整理にしか使わないこと!
クライアントが求めていることは課題の解決、解消です。もちろん、課題はクライアントが把握している分だけではありませんし、クライアントの課題設定が誤っていれば適切に正す必要があります。そもそも、クライアントが気づいていない課題を発見、発掘する必要もあります。それらもろもろ浮かび上がった課題に対して、「解決するための企画」や「解消していくためのソリューション」を考えていくわけです。
ここで企画やソリューションを導き出すために、照らし合わせるのは発掘した「課題」に対してです。ファネルに対してではありませんし、ファネルはどの地点にいるかを確認するものであって、それ以上の役割は担っていません。
マーケティングファネルの状況整理として使える便利さに頼ってしまい、どの場面でも直接的な拠り所にするのは避けたほうがいいでしょう。例えば、このユーザーは「認知」段階にいる、という現在地確認はできても、そこから企画を考えても芯がぼやけるからです。
ファネルは「掛け合わせ」で利用しよう
では、どのようにマーケティングファネルを使うと、有効に機能するのでしょうか? 例えば、ファネルに対してチャネルやタッチポイントを掛け合わせてみてください。縦軸にファネルを置き、横軸にチャネルやタッチポイント(Web/アプリ/各SNS/店頭など)を置いたら、掛け合わせによってファネルのステージごとのレスポンスデータやパフォーマンスデータ が導き出されるでしょう。あとは、それらのデータに基づいて課題を見つけ、企画を考えていきます。
マーケティングファネルは、目的の整理をするものですので、実際の施策(=利用者に届く施策)は、ファネルごとではなくチャネルやタッチポイントごとに考えるべきなのです。例えば、潜在顧客から見込み顧客へとファネルで推移させたい場合を考えてください。チャネルやタッチポイント、ターゲットの年齢層や属性によって、適切な施策は異なるはずです。メールが刺さりやすい世代、LINEが刺さる世代、その他Webやアプリ、紙など、ツールそれぞれで適切な施策は違うからです。
つまり、ファネル起点で施策を考えるとツールごとの違いなどが見えてきません。よって、大味でざっくりとした観点の施策しか生まれてこなくなります。
目指すは「ヒット」。ホームランにあらず
マーケティングファネルは一度理解すればとても便利な絵です。それっぽさを演出できてつい使いたくなりますが、闇雲な利用は控えたいところです。社長や役員クラスなどを相手に、大枠を伝える手段には都合がよくても、実務で企画を導き出すツールとして単独利用するのは控えましょう。
頭の整理以外に使うべきでないのは、以前のカスタマージャーニーのコラム に通じる理由もあります。マーケティングファネルも「Yes」の反応に基づく構成だからです。ファネルは上から下へ、もしくは左から右へと移るのが前提です。極端な言い方をすると、ファネルで下がっていく人たちは、放置していても動くような人たちとも言えます。そういう人たちにアプローチができても効力は弱い。もっと割合を占めている「No」や「無反応」ユーザーをいかに動かすか。これらは、Noや無反応が描かれないマーケティングファネルとの対峙だけでは、かなり見えづらい相手とのやりとりになります。
マーケティングのプロジェクトでできることは、課題を丁寧に抽出するという方法論に尽きます。野球に例えれば、一発逆転のホームランを打つ意識よりも、コツコツとヒットを打つ感覚に近いでしょう。そのためにはマーケティングファネルで現在地を確認しながら、一つひとつ浮き彫りにしてきた課題とどう地道に向き合うか? に尽きるのです。