1. HOME
  2. ブログ
  3. 「行動デザイン」を学ぶ第14回:受け手の「結果の重大性」を、送り手はどう理解する?

「行動デザイン」を学ぶ第14回:受け手の「結果の重大性」を、送り手はどう理解する?

前回までに、リスクとコストの関係について、送り手と受け手には感じ方にギャップが存在することを明らかにしてきた。今回は、どうすれば送り手が受け手の「結果の重大性」についてもっと理解できるようになるのかを解説する。

目次

リスクの感じ方は、人によっても状況によっても異なる

「初めて見たもの」(新奇な情報)に対して人がどれくらいリスクを感じるか、それに対して接近・回避、どちらの行動を取るかは、当然個人差がある。また、年齢や文化、教育の程度でもかなり変わってくるだろう。例えば、子猫は好奇心旺盛でリスク志向が高いが、成猫になるとリスク回避的な行動が多くなる、といったようなことだ。

人間でも、非常にリスク回避的な人もいれば、旅慣れたバックパッカーのようにどのような地域に行っても、うまくやっていける人もいる。同じ人間でも、疲れている時(心的なエネルギーが消耗している時)やイライラしている時などでは、リスク感も、それに対する反応も変わる。

人はリスクを感じると注意力が高まる(さまざまな感覚情報を丁寧に処理する)と言われているが、実は、認知資源(心のエネルギー)が大きく枯渇している時は、リスクに鈍感になりやすい。負けが込んで強いストレスを抱えているギャンブラーが大勝負に出やすいのが、その一例だ。

行動に伴う「リスク」のことをもっと考えよ

こうした差は、さらに対象から得られる価値の大きさと、それを手に入れるためのコストのバランスとも関わってくる。「価値が大きく、それに対するコストが小さいほど、購買行動は発生しやすい」という一見もっともらしいセオリーを、そのまま鵜呑みにするのは要注意だ。なぜなら、そこにはリスクの概念が含まれていないからだ。リスク感が高い時は、それを低減させようという行動原理が働く。そのために多少のコストの発生はいとわない、という場合も存在する。

例えば、家電を買うのに昔の人はわざわざ「電気街」と呼ばれる街(東京・秋葉原や大阪・日本橋など)まで交通費と時間をかけて行っていた(まだ家電量販店の店舗数が限られていた時代だ)。それは、決して秋葉原の家電が激安だったからではない。郊外型ディスカウンター業態が台頭する前は、電気街の魅力は安さよりも、「豊富な品揃え」だったのだ。家の近くの小さな電器店では欲しい家電に出会えないリスクが高く、わざわざ電気街まで行くことでそのリスクを回避できる予測が立つことで、わざわざ遠くまで出かける行動に結びついていたのだ。

人は「損失回避バイアス」を持っている。だから「その店やその街に行けば、欲しいものを見つけられないリスクを回避できる」安心感は、商品を安く買えない金銭的コストに優先する場合もある。このように、リスク感は購買意思決定の「要」ともいえる「価値=コスト・バランス」を容易に変化させてしまうことがあるのだ

人が求めているのは、低価格より「リスクの回避」の場合がある

 

だから“低価格でなければ勝てない”と考えて、不毛な価格競争に走るのはまったく合理的ではない。あなたが提供すべきなのは「低価格」ではなく「リスク回避の安心感」なのだ

リスク回避や高価格帯への配慮

例えば、「無料」というオファーを考えてみよう。

サンプル無料、見積もり無料、などのフレーズはよく目に入る。「無料」は価値が無限大になるので、無料の二文字は人の目を引く力がある。同時に、人はそうした“うまい話”には罠があるという経験則(因果律)を持っている。「無料」を打ち出す場合は、いかにそれが怪しい話ではなく、信じられる提案だと思ってもらえるコミュニケーションをかなり入念に設計しなくてはならない。つまり、「価値が高いものには、それなりのコストが伴う」という予測(因果律)に反した情報(「無料」など)に感じる強いリスク感を払拭するのは、かなり手間がかかるのだ

デフレ型の価格破壊業態が日常化したことで、以前ほど「安物買いの銭失い」というフレーズは聞かなくなったが、「迷ったら高い方を選ぶ」人も少なくない。ハイエンドのブランドを見れば、「高価格であること」だけがブランドの価値のシグナル(手がかり)になっていることがわかるだろう。価格競争が厳しいカテゴリーでは難しい意思決定になるが、時には思い切って高い価格をつける、というチャレンジが結果的に顧客に安心感を与える可能性もあるので、やってみる価値はあると思う。ただし、高価格に対して「支払えなかったらどうしよう」というリスクを感じる人も少なからず存在するので、要注意だ。そうした顧客には「分割払い」「後払い」あるいは「返金可」などのリスク緩和策が有効だろう。

コストとリスクの関係

このようにコストとリスクの関係は単純ではないが、話を整理するためにざっくりとコストとリスクの関係をまとめてみた(下の図表を参照)。

コストとリスクの関係について、それぞれの大小を掛け合わせた時に考えられる内容をまとめた

コストの大小、リスクの大小の4つの組み合わせで行動(意思決定)のパターンを類型化してみると、その関係は多少わかりやすくなる。ここでリスクとは「結果の重大性の評価と、不確実性の評価」が混在する知覚(リスク感)であり、コストには金銭的コストだけでなく「5つのコスト」(金銭的コスト、時間的コスト、肉体的コスト、頭脳的コスト、精神的コスト)が含まれることに留意してほしい。

左上の象限(ハイコスト&ハイリスク)は、それを選べば確実に大きなコストを伴うことが見えているが、それを選ばなかった時のリスクもより大きい可能性があるという選択行動であり、人生の中でこういう選択を迫られることはそれほど多くないだろう。

そこまでの大きなコストとリスクではないケース(例えば、電車ではなく飛行機を選択する、など)も存在する。右下は、今回の論点からは無視しても問題ない「ローコスト&ローリスクゾーン」だが、いつもの選択を反復することがリスク回避と同時に頭脳的コスト(いちいち考えて選ぶ)の低減にもなることは、これまでの連載でも触れた通りだ。

「行動」を期待できるコストとリスクの構造を見極める

重要なのは、左下(ハイコスト&ローリスク)と右上(ローコスト&ハイリスク)の象限だ。

ここでは左下(ハイコスト&ローリスク)と右上(ローコスト&ハイリスク)に注目

左下(ハイコスト&ローリスク)は、リスク回避のために高価格でも安心を選ぶ、という心理に寄り添うサービスの可能性を示している。利益を見込めるゾーンである。

右上(ローコスト&ハイリスク)は、以前解説した「思うほどに人が動かない」インサイトのゾーンだ。対象となる商品/サービスは、それほど高額なものではなく金銭的コストは低い。むしろ低価格商品は品質リスクが問題になる。また、映画や書籍、CDなどは、せいぜい2〜3,000円程度の費用なのに、“買ってみて、つまらなかったらどうしよう?”というリスク感が強い。それは、その不安が的中した場合に「いいものを選べなかった自分を責める」ことになるからだ。つまり、将来の精神的コストを予測しているのだ

また、他人に同調しない、あるいはトレンドから外れて浮いてしまうことで、周囲からバッシングされるリスクはかなり深刻だ。それがどれくらいのコストになるかは、なかなか予想がつかないのでコストに対する意識よりもリスクの方が大きくなる。こうした状況にある人に対して、丁寧にリスク感を下げる提案ができれば、コストのハードルは相対的に低いので行動化が期待できる

このように、あなたが(あるいは競合が)提供する商品・サービスがどのようなコストとリスクの構造を持っているかを少し掘り下げて分析することで、「(人を)動かすための打ち手」が少し具体的に見えてくるのではないだろうか?

次回は・・・

「リスクの感じ方には個人差がある」という観点から、「キャズム理論」について解説する。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、博報堂行動デザイン研究所フェロー(名誉所長)、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


株式会社ジェネシスコミュニケーション

ジェネシスのマーケティングプロフェッショナルが編集を担当。独自の視点で厳選した実践的ナレッジをお届けいたします。

マーケの強化書編集長 twitter

「マーケの強化書」更新情報お届け

マーケの強化書の更新情報をお届けします。
メールアドレスをご登録ください。
※入力前に「個人情報保護方針」を確認ください。

杉田ユウイチ@マーケの強化書 twitter