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「行動デザイン」を学ぶ 第30回:デジタルサービスこそ「カテゴリーらしさ」の担保を重視せよ!

前回は、自社ブランドのアピールにおいて、当たりさわりのない体裁で多くの人に好まれるが記憶にも残らないというリスクと、逆にユニークさを打ち出して目立つが多くの人に忌避されてしまうリスクの両面がある、と解説した。尖っていないがよく目立ち、かつ親しみやすい、というバランスが肝要だ。今回は、そのバランスの取り方についてヒントを提供する。

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目次

「無難ながら目立つ」に必要なのが「カテゴリーらしさ」

目立つが嫌われない。無難だが印象に残る。ロングセラーとして輝いているブランドの中には、そのような、相反する性質を併せ持ったものがいくつもある。それらのブランドは、なぜこの「トレードオフ」を克服できたのだろうか。一つの答えは、「昔からあるから」だろう。最初は、奇抜で違和感を抱く人も多かったブランドのたたずまいが、長い時間の中で支持者が増え、見慣れていくことで「単純接触効果」により好感が増していくというストーリーは珍しいものではない。

逆に、B to B領域ではよくある例だが、特に引っかかりがない地味なブランド・キャラクターでも、歴史があり、安定した経営基盤を持つ企業のブランドは記憶に残る。つまりセイリエンス(「顕現性・顕在性」)が高い。しかし、これは一種の結果論であり、歴史の浅い企業には適用できない。では、新興ブランドはどのようにして、この「無難でありながら、目立つ」というトレードオフの克服を図るべきだろうか。その答えは、実は「カテゴリーらしさ」にある。

今まで「ブランドらしさ」(ブランドアイデンティティ)について述べてきたので、なぜここで急に「カテゴリー」の話になったのかと戸惑う読者もいるだろう。それがまさに、ブランディングの落とし穴、なのだ。多くのブランドマネージャーにとって、カテゴリーは所与のものであり、同じカテゴリーの中で競合ブランドとシェアを取り合う戦いが日常の仕事である。したがって、いかに競合ブランドと差別化するか、がブランドマネジメントの要諦になる。そして差別化を極めるほど、多くの競合と距離をとろうとするほど、自社ブランドは知らずしらず、まわりに競合のいない端っこの方に居場所を移動していくことになる。こうして「ブランドらしさ」にこだわったブランドは、時にカテゴリーの中心から外れ、カテゴリーらしさを失っていくのだ。

カテゴリーらしさがないと、思い出されない

では、カテゴリーらしさを失うことの何が問題なのか?

連載第26回で、「カテゴリー化」という人の認知構造について解説したことを思い出してほしい。人は幼少期から、誰に教わることもなく自然に物事をカテゴリーに分類して、それにより、うまく世界を認識している。すべての知識は、何らかのカテゴリーに紐づいている。例えば、新しいサブスクリプションサービスのブランドをインターネット上で目にした時、人はそのブランド(=新たな情報)をまず何らかのカテゴリーに分類しようとする。サブスクサービスに詳しい、あるいは関心の高い人は「サブスクサービス」という大カテゴリーが脳の記憶の連想の中にできていて、そこにすっと入っていくかもしれない。

しかし、サブスクとは主に有料動画配信サービスを指すと考えている学生にとっては、それに該当しないサブスクサービスは「アパレル通販の一種」だったり「食品宅配の一種」だったり、というように入手可能な手がかりをもとに、既存カテゴリーのどこかに分類するしかないだろう。ここで重要なのは、分類にあたって新たなブランドがそのカテゴリーのどの位置に配置されるかである。

ブランドの記憶がもっとも取り出しやすいのは、カテゴリーの中心部である。典型性、つまりカテゴリーらしさを具有したブランドほど、そのカテゴリーを脳が検索した時に思い出されやすく、処理流暢性が高い。処理流暢性が高まると、「好ましさ」や「正しさ」が感じられることは連載第25回で解説した。考え込まなくてもすらすら思い出せる時に人は快感を覚えるのだ。いくら派手で目立つブランドでも、そのブランドが分類されているカテゴリーの「らしさ」(典型性、代表性)を持たないブランドは、思い出されにくく、好感も持たれにくい。

ブランドをどうやって思い出してもらうか?
ブランドには、思い出してもらいやすいカテゴリーらしさを失わないことが大事

人はブランドより先にカテゴリーを思い浮かべる

ここで、読者の中にはカテゴリーではなく、ブランドから先に検索することはないのか、と疑問を持つ方がいるかもしれない。なぜカテゴリーが先で、そこに紐づくブランドが後だと考えられるかと言うと、カテゴリーは人の「目的」と結びついているからだ。

食べ物、着るもの、男、女、などの日常的なカテゴリーはすべて人の生存、生命活動をうまく機能させる目的に沿って形成されている。そして極めて具体的である(実体:マテリアルを伴う)。一方で、ブランドはその目的を達成するための手段であり、かつ抽象概念である。したがって、まず意識の中で目的が顕在化し、その目的と紐づいたカテゴリーの中でブランドが検索される、という順序が自然だろう。

また、この順番は進化心理学的にも説明がつく。ブランドは、人類の歴史の中で後から生まれた人工物なので、それが誕生した頃にはすでに人の脳の中には日常的なカテゴリーは形成済みだったと考えられる。だから、まずカテゴリーから検索がスタートするのだろう。もちろん、何事にも例外は存在する。それまで存在しなかったカテゴリーについては、そのカテゴリーを作り出したパイオニアブランドがカテゴリーを代表することが多い。例えば、ホッチキスやセロテープ、シャンパン、最近では使われないがポラ(ポラロイドカメラ)、ゼロックス、などのようなものだ。パイオニアブランドの強さはカテゴリーの典型性(らしさ)を持ち、カテゴリーの中心にどっかりと居を構えていることにある。

「らしさ」を想像しやすい「色」に注目

カテゴリー化という認知構造は、実は一種の認知バイアスでもある。つまり、我々は手近で目立つ手がかりをたよりに、簡単に(熟慮せず直感に従って)対象を分類してしまうのだ。目立つ手がかりとしてわかりやすいのは色だろう。昔、かき氷のシロップはどれもただ同じ透明シロップに着色料で色をつけていただけだったが、「いちご」はなぜか苺の味と香りがしていた。これは典型的な認知バイアス(錯覚)である。

かき氷の赤はいちご味?
かき氷に赤だと、いちごを想像する人がほとんどではないだろうか?

新興ブランドが早くブランドの中心に近いところに居場所を確保したい場合、もしカテゴリーらしさの中に「色」という要素があればそれを使わない手はない。例えば、ペット緑茶であれば、誰もが緑茶らしいと思う緑色をラベルにするべきである。もし競合がもっとも緑茶らしいと誰もが思う緑色を使用していたとしても、そこからあまり距離を置いてはならない。

差別化しようとして異なる色相を採用した場合、売場で目立つかもしれないがカテゴリーらしさを失う。それは買い手の混乱を招き(処理流暢性が低いため)、「好ましさ」や「正しさ」を感じにくくしてしまうリスクを孕んでいる。つまり、カテゴリーの典型色は「POP(Point of Parity:同類点)」として押さえるべきであり、「POD(Point of difference:相違点)」としてはならないということだ(「POP」と「POD」については、連載第28回を参照)。「POD」を築きたいなら、ネーミングなど、色以外で工夫をすべきだろう。

それっぽいネーミングにすることの大切さ

逆に、ネーミングがカテゴリーらしさ(典型性)を作り出しているカテゴリーもあるだろう。デジタルサービスなどの無形財は、抽象度が高く、理解に時間がかかることが多い。極力、「そのカテゴリーっぽい」と誰もが思うようなネーミングを開発すべきだ

もし、まだカテゴリーらしさが確立されていない状況であれば、なるべく買い手が具体的な連想を抱きやすい(処理流暢性が高い)ネーミングが有効である。例えば、複数の生命保険会社を比較して保険選びを手伝ってくれるサービスがまだ他にない時には、保険の「窓口機能」というサービスの具体的性質を端的にネーミングにすべきである。仮に保険サービスの抽象的な本質概念(例えば「ライフサポート」とか「ハッピーライフ」など)をネーミングにすると、買い手はそれをどのカテゴリーに分類していいか戸惑い(処理流暢性が低下)、下手をすると“何だかよくわからないもの”“変なモノ(キワもの)”というカテゴリー(つまり、記憶しておく意味のないフォルダー)に格納してしまうかもしれないからだ。

ユーザーを戸惑わせる名前を商品やサービスにつけていないか?
ネーミングは、端的に具体性を表すのがおすすめ。抽象度の高いネーミングは、ユーザーを戸惑わせる可能性が高い

このように、新興ブランドにとってはとにかくカテゴリーらしさの洞察と、その実装(らしさを身にまとうこと)が成功の必要条件となる。カテゴリーらしさが担保されている限りは、少し振り切った、際立ったブランドらしさを打ち出しても大丈夫だろう。目立つが嫌われず、無難だが印象に残るブランドの「らしさ」は、カテゴリーらしさを踏まえた上での新奇性から生まれるのだ。どこかで見たことがあるという親近性と、斬新さ(新奇性)の絶妙なバランス(言い換えれば“適度な不一致”)が重要なのは、行動デザインの基本原則とも共通している。

次回は・・・

引き続き、「カテゴリーらしさ」と「ブランドらしさ」のバランス問題について具体的な例を引きながら考察してみたい。「カテゴリーらしさ」は論理的に定義することが難しい暗黙知だが、踏み込んで見る価値はあるだろう。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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