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「行動デザイン」を学ぶ 第29回:「ブランド・アイデンティティ」の取扱説明書(トリセツ)

前回は、「カテゴリーらしさ」と「ブランドらしさ」の関係について解説した。今回は自社のブランドを構築するために重要とされる「ブランド・アイデンティティ」と「ブランドらしさ」の関係について考えてみたい。そもそも、「ブランドらしさ」とはいったい、何なのだろうか?

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目次

「ブランドらしさ」の3要素

前回、「ブランドらしさ」の3要素として、「一貫性を持つこと(アイデンティティ)」、「キャラクターが際立っていること(セイリエンス)」、「他に類のない独自性(ユニークネス)」を挙げた。これらはそのまま「強いブランド」の姿に重なる。我々が知っているパワーブランドは、ほぼ例外なくこれら3要素を兼ね備えている。

「ブランドらしさ」の3要素
一貫性を持つこと(アイデンティティ)
・キャラクターが際立っていること(セイリエンス)
他に類のない独自性(ユニークネス)

セイリエンスとは「顕現性・顕在性」という意味だが、“悪目立ち”とは違う。例えば無印良品は、目立つアイコンはないが、他のすべてのブランドが互いに差別化するためにセイリエンスを際立てようとしていることに目をつけて、その裏、つまり補集合(余白や地、背景)を総取りするという戦略を採用した。つまり「●●らしさ」ではなく、「△△らしくなさ+■■らしくなさ+ …」の総和が、結果として「他のどのブランドとも違う」独自性を作り出している。

お気づきのように、この戦略は残念ながらワンチャンスなので、誰も見習うことができない(こうした「模倣しにくさ」も、実は重要なブランド戦略の要素である)。

「ユニーク」をどう受け止めるか?

ここで、「ブランド・アイデンティティ」について少し注意喚起をしておきたい。世の中にはブランドやブランディングについての書物がたくさん出回っているが、その多くは「ユニークな(唯一無二の)ブランド・アイデンティティの構築」を力説している。「ブランド・アイデンティティ」はブランディグの起点になるし、あるいは企業が目指す目標にもなる重要なコンセプトであることは間違いない。しかし気をつけなくてはいけないことがある。それは「ユニーク(唯一無二)であれ」という指針の受け止め方だ。

ちょっと考えてみていただきたい。会社や身の回り、あるいは公共の場所で、「個性」を思いっきり全開にしている人を見た時に、その人に他の誰よりも誠実さや、尊敬、愛情を感じたことはあっただろうか? 「変な人」というネガティブな印象の方が強かったのではないだろうか。「他に類を見ないこと」はたしかに「ユニークさ(唯一無二性)」の要件を満たしているが、それは同時に「異形」で「変わり者」で「普通ではない」ことを意味している。

第15回から数回分の連載でも触れた通り、我々の知覚は釣鐘型の正規分布をデフォルトにしているので、その両端(ベルカーブの左右の裾野)に位置する「めったに見かけないもの」は、文字通り「際(キワ)もの」であり、普通は排除や忌避の対象になる。あなたの会社(企業ブランド)やサービス(商品ブランド)は、愛されなくてはならないのだ。その第一歩はまず「嫌われないこと」「忌避されないこと」である。誰もまだ見たことがない「個性」の追求はアーティストに任せておいた方が安心だ。

 「処理流暢性」(連載第25回)でも触れたが、人は見慣れたものを好きになる。出会う確率の低い(つまり正規分布の両端に位置する)対象は、普通は受容されない。市場であまり見かけることのない変形の野菜は、たとえ味は何も問題はなくても、フードロス削減の象徴であったとしても出荷の対象にならないのは、結局、買い手がつかないからだ。

正規品以外の野菜は出荷対象になりにくい
“ユニーク”かもしれないけれど“普通ではない”と受け取られた時……例えば、変形(異形)の野菜は出荷対象にならない

人は見慣れたものに反応しやすい

「見慣れた」という意味では、もっとも見慣れているのは自分自身(あるいは自分に近い血縁)だろう。「自分」は、主観的な正規分布(ベルカーブ)の中心に存在する。だから人は自分に似たものを愛するのだ。

人の感じ方は「自分」が正規分布の中心に存在すると考える
人の感じ方とは、「自分」=ベルカーブの中心、と考えてしまうもの

ハーレーダビッドソンのタトゥーを両肩に入れて革ベストでハーレーにまたがる熊おやじ(ステレオタイプだが、ブランドらしさの典型ともいえる。実はハーレーブランドは近年、そうした古典的なイメージからの脱却を志向している)は、社会の中では「際の方」に位置しているかもしれないが、自分を中心とすれば似たような仲間の姿が目に入ってくる。バイクに乗らない人は彼らからみれば「際の変人」に見えているはずだ。

「マーケの強化書」ユーザーのあなたも、無意識に自分に似たものを選んでいる。名前にKのイニシャルがある人はKのつく単語に反応しやすい。名前や自分に関係がある数字(誕生日など)が職業の選択や、引っ越す住所の選択にも無意識に影響を与える心理現象が「ネームレター効果」として知られている。太田さんは太田胃散を買う確率が他の人より高い(※注)という調査もある。だから、ターゲットを本気で「超個性的な人」に限定するなら、ターゲットが「自分に似ている」と感じる「超個性的なキャラクター」をブランド・アイデンティティにすることは構わない。むしろ、そうすべきである(母数は少ないかもしれないが)。

※注……外川拓・磯田友里子・鈴木凌・恩藏直人著「顧客の名字がブランド選択に及ぼす影響―視覚情報としての文字に注目して―」
『マーケティングジャーナル』 2023年42巻3号27〜38ページ)より

「ブランドは実体がない」ことを再認識しておく

しかし、ここまで読んで「とはいえ、ユニークじゃないと目立たないし、差別化もできないからなあ」、とモヤモヤを感じた読者のあなたは、とても正しい。無難で没個性的な新製品は真っ先に選ばれるだろうか? おそらくローンチしてもなかなか顧客はつかないだろう(悪目立ちするよりは、選ばれる確率は高い可能性はあるが)。

なぜ、無難で没個性的なブランドが成功しにくいのか。それは、そのようなブランドは「引っかかり(手がかり)」がなさすぎて、思い出してもらえないのだ。ブランドというものは、この世に実在しているようで実は実体がない、「神」や「愛」と同類の抽象概念である。つまり、それを信じる人の脳の中にしか存在していないものだ。脳の中にあるというのは記憶されているということで、記憶されているというのは「わりとすぐに思い出せる」ということだから、つまりブランドは「思い出しやすい記憶」でなければならないのだ。

無難で没個性とは、言い換えれば類型が多い、ということなので、記憶を手繰り出す時によほどひっかかりがなければ、そのブランドだけが思い出されるのはとても難しいことがおわかりだろう。写真を出されて「これ、見たことありますか?」と聞かれた時には思い出せるけれども、何もヒントなしで思い出すことはできない、というようなブランドは、いずれ「ブランドの墓場」という恐ろしい場所に幽閉されてしまうらしい。

では、どうすれば「異形ではない」のに「無個性でもない」などという、矛盾を克服したブランドを作り出すことができるのだろうか。そのブランドはどうして思い出されやすい「手がかり」を持つことができるのだろうか。これらの秘訣については、次回の連載に期待していただきたい。

次回は・・・

引き続き「ブランドらしさ」(ブランドアイデンティティ)をどう作り出し、育てていくかについての実践的な情報を提供していく。「ブランドらしさ」は、わかるようでわからない微妙なコンセプトなので、簡単に説明しただけでは実践に落とし込めないのだ。


國田

國田 圭作(くにた けいさく)

嘉悦大学経営経済学部教授、前・博報堂行動デザイン研究所所長、セカンドクリエーション代表。博報堂時代は大手自動車メーカーをはじめ、食品、飲料、化粧品、家電などのマーケティング、商品開発、流通開発などを多数手がける。
著書に『幸せの新しいものさし』(PHP研究所)『「行動デザイン」の教科書』(すばる舎)


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