なぜカスタマージャーニーを描いても、うまく機能しないのか?
私たちがクライアントからご相談をいただくと、「ここまでの取り組み」として、“自社で描いた”というカスタマージャーニーマップを見せていただく 機会があります。
ペルソナを立てたり、カスタマージャーニーを描いたりというやり方が、かなり広く流通していることを実感する一方で、これらの手法を用いながら成果に結びついていないクライアントの多さも実感します。
なぜうまく機能しないのか? その疑問の中身を明らかにしながら、今回は「カスタマージャーニー」の問題点を整理し、改善点について説明します。
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共通した理解を得る効用はある。けれども……
カスタマージャーニー(以下CJ)の利点は、一緒に作った人間同士で共通理解が生まれることでしょう。CJを作る場合、同じ部署で仕事をする者たち同士のことがあれば、部署を横断して立場の異なる人たちが参加して、複数の人数で作るケースも多いからです。特に、日頃一緒に仕事をしていない人たちが参加すると、同じ商品やサービスについて、異なる考え方や見方に気づく機会になります。立場の異なる人たちの意見を知り、CJ作りを通じて共通の方向性を共有しやすくなる点はメリットでしょう。
一方で、作ったCJは、実際の課題解決につながっているでしょうか。CJによって、直面している課題を浮き彫りにし解決へと向かう企画が立てられたでしょうか。CJがこれまで浮き彫りにできていなかった課題を発掘して、対応できていなかった解決策の提供につながったでしょうか。もしできていないなら、引っかかりを究明するしかありません。
カスタマージャーニー最大の欠点は「Yes」の反応しか描けないこと
特に私たちがCJで気になるのは、多くが「Yes」の反応を示したユーザー中心の遷移しか描けていない点です。データに基づくわけではなく、参加者の実感値に基づきながらその場で声の大きな人の意見に偏りがちなペルソナを念頭に置いて、ゴールにたどりつきやすいジャーニーを描いていないでしょうか?
CJは次の段階へと進めていくことを前提にするので、自然とYesの反応によって次の一手を考えがちですが、現実はYesの反応を示すユーザーばかりではありません。全体の割合を考えると、Noの反応を示すユーザーや、無反応(Non Response)というユーザーのほうが多いでしょう。例えば、企業側が「メールを送る」という行動の先には、大別しただけでも「ユーザーがメールを開いて、期待する行動を取ってくれる(Yes)」だけでなく、「メールを開いたけれど、期待する行動を取ってくれない(No)」「メールを開かない(気づかない)、拒否する(Non Response)」といった反応が考えられます。
設計上ステップごとに進める前提があるので、CJはNoや無反応についての検討がおろそかになりがちで、検討しても一部に止まってしまいます。感情の起伏は描くので、CJ作りの参加者にはNoや無反応を検討した気分が残っているかもしれませんが、実際の遷移で描かれていなければ施策にはつながりません。CJ作りを通じた共同作業という達成感に満足してはいけません。結果は、さほど発見の少ないジャーニーしか生まれず、改善に至らない。作る前に想像していた、「まあ、そうなるだろう」という当たり前の状態しか出てこないのです。
もっと「No」や「無反応」のユーザーに目を向けよう!
流通しているCJは、Yesの反応だけを描くことで最適なサイズに収まり都合がいい、とも言えそうです。Noや無反応についても細かく描き込めば非常に複雑となり、収拾がつかなくなるからです。ましてや限られた時間内で作り上げることは困難です。
ですが、作り上げたCJがビジネスで機能しないならば、 CJを描く意味はありません。作れそうなCJしか作らず、結局ビジネスで機能しないなら本末転倒です。
CJに限らず、まず私たちは、突きつけられた困難な課題(もしくは、気づいていない致命的な課題)を、簡単に解消してくれる呪文や魔法の杖は存在しない、と自覚しましょう。CJという呪文をかけても、問題は解決しません。それは、MA(マーケティングオートメーション)が“導入=成果を引き出す魔法の杖”ではないのと同じです。どれも手法の一つであり、現実は複雑で細かな準備を踏まえて使いこなした先にだけ、地道な成果が現れてくるのです。
CJ作りの現場で、最初の段階からデータの裏づけに基づく作り方が主流になっていないのはなぜでしょうか。時間がかかるからでしょうか? 参加者の実感や勘の方が信頼できるからでしょうか? もしCJが機能せず悩んでいる場合は、自分たちのCJ作りの過程を否定してでも、どういう状況でどのような根拠で作ったのか(作らなかったのか)を根本的に見直しましょう。
改善策の一歩は、要所の「No」や「無反応」を考えること
打開策について、次の2点を確認してください。
1点目は、「ペルソナ」の見直しです。CJ作りの段取りでは最初に設けるペルソナが、マジョリティ(よく利用するユーザーの平均的な姿)、理想顧客像、特定の場面を想像した架空の設定のどれになっているかを確認しましょう。その上で、データと照合しながら裏づけの有無を確認します。データに裏づけられない場合は、スタートから間違っていた可能性が高いです。
手元にデータがない場合は、想像で進めてきた前提を再確認してください。ユーザーに直面する現場に近い人たちほど、実感とデータが極端にかけ離れていることは少ないかもしれませんが、表面的な中身にしかなっていないかを再確認します。
2点目は、CJの中でビジネス上の要所だと判断できる優先順位が高い箇所についてだけでも、Yesの反応のほかに、Noや無反応のその後を書き加えてください。書き加えるほど、遷移する先が増えCJは複雑化しますが、本来はそうした複雑さこそ、実際の現場で起きていることであり、業務の稼働容量に合った中身へと近づくはずです。
追記:
私たちは解決策として、「刺激」と「反応」モデルに基づいた「アクティベーションマップ」を提唱し、さまざまなクライアントに実践しています。ざっと申せば、ユーザーのYesの反応だけでなく、Noや無反応も含めて、ユーザーの行動をどう作り出して(刺激)、反応(Yes/No/無反応)にどのように対するかをまとめたマップです。ご興味のある方は、以下もご参照ください。